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情けない、ずっと

 家に1人でいると、気が付いたらベッドに寝転んでぼーっとSNSを見ている。やることは死ぬほどあるのに画面をスクロールすることしかできない。毎晩友達と外食しているストーリーを上げて充実した毎日を送っている友達を見ながら、お金も行動力も人脈もない自分に落ち込む。せめて一人を楽しめる豊かな人間になりたいと思って、どこかの誰かがやっている丁寧な暮らしを見てみたけど、それのおかげで昨日から洗ってないお皿がシンクに置きっぱなしだったことを思い出して、また情けない自分に落ち込む。

 このままだと自分がどんどん嫌いになってしまうと思って、外に出る。雨の予報があったから半年前に買った派手な黄色の傘を持っていく。お気に入りの傘があると雨の日も気分が良くなるって聞いたことがあったけど、気分が良かった時に調子に乗って買ってしまった黄色の水玉模様の傘は、あまりにも自分に似合ってなくて使うのが恥ずかしい。誰も私のことなんか見てないのに自分が悪目立ちしているような気がしていたたまれないのは、裏を返せば自分が自分のことばかり四六時中考えているということだろう。自分のことなんてどうせと思っているようなふりをして、本当は自分のことばかり考えているなんて恥ずかしいなあ。って、今もまた自分のことばかり考えている。

 本屋さんに来た。この前貰った図書カードを使おうと思って本を色々物色する。あの小説も読みたいしこの小説も読みたいけど、いざ手に取るとずっしりとしたページの重さを直に感じて気が遠くなる。読書は好きだけど、体力と気力があるときじゃないと楽しめない。私は根っからの本の虫ではなくて、「読書している私」を客観的に見て気持ち良くなるのも含めて、読書が好きだからだ。人の「丁寧な暮らし」と洗い物ばかりが溜まる私の暮らしの落差を見てしまった今は、そんな余裕がない。小説は、やめた。だからかわりに雑誌を買った。そうして、レジで500円分だと思って出した図書カードが実は1000円分で、15円だけ残ったカードを返されたとき、私は今日イチ自分に絶望した。




 髪の毛を染めようと思って美容室に来た。オレンジブラウンにしてくださいって伝えて、椅子に座って数時間くさいドロドロを頭に塗った。誰がこんな気持ち悪いことまでして髪の毛を染めることを思いついたんだ。変態じゃないのか。人のこと言えないことは見て見ぬふりをしてじっと待つ。洗い流した後美容師さんが「綺麗なオレンジになりましたね~!」って言いながら人参みたいに染まった私の髪の毛を見せてくれた。

 は?人参オレンジにしてくれなんてだれが頼んだ?私は人参でもみかんでもない。食物連鎖の頂点、人間様だぞ。いつもは卑屈なくせにこういうときだけ一丁前に偉ぶって人間を名乗る。でももうそれも終わりだ。私は人参に成り下がってしまった。もう私はただの人参だ。馬鹿。人参を馬鹿にするな。お前より何倍も社会の役に立ってるんだぞ。
 暗髪に合わせた茶色い眉毛と陽気なオレンジ色の髪の毛のアンバランスさに目眩を催しながらも、自分の笑顔がひきつってないか慎重に確認して、満足そうに完成後の髪の写真を撮る美容師さんにお礼を言ってお店を出た。調子に乗って買ったあの恥ずかしい黄色の水玉模様の傘が、頭に張り付いたみたいだった。



 全部上手くいかない。ずっとちょっとだけ恥ずかしくて情けない。生きている以上、仕方がないので明日も生活をする。おわり。

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