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釣りの日

「昔さぁ、体育の日って10月10日だったよね。」信号待ちをしてるとき、ミソ君に話しかける。
「うん…。」
目線はずっとスマホに向けている。私の話などまるで聞いちゃいない。

私の前の信号が青に変わった時、ギリギリで右折してきた車が私の前に入ってきた。ナンバーを見ると[10-10]。

「えっ?このタイミングで[10-10]ってすごくない?」と再びミソ君に言うが「あぁ、うん。」と気の無い返事。そんなにスマホが楽しいかねぇ、こんなにいい天気なのに😒と思いながら車を走らせる。

ミソ君を駅まで送り届け、何気にTwitterを見てみると「釣りの日」がトレンド入りしていた。10月10日は釣りの日らしい。その時初めて知った。

なので、王子くんと釣りに出かけることにした。ワーイヽ(*´∀`)ノ♪🐠

この日は、家の近くの農業用水路で小物釣りだ。

まずはエサ探し。二人で畑を掘り返し、ミミズを20匹ほど捕まえた。始めは10匹くらいでいいと思っていたのだが、こういうものはだんだん宝探しのような気持ちになってきて、どうにもやめられなくなる。

エサ箱にミミズを入れ、練りエサと釣り道具を持って出発。10分ほど車を走らせたところで目的地に到着した。

時間があまり無かったので、早速釣り始める。用水路の水の流れは穏やかで、泳いでいる魚の姿も見える。3cmくらいの小魚から20cmくらいの鯉らしき魚も見える。

釣り始めてすぐに、タモロコという魚が釣れた。その後も、カネヒラやアブラハヤ、オイカワなど次々に釣り上げる釣りキチ王子くん。

カネヒラは、元々は東北にいない種類、国内外来種だ。気性が荒く、縄張り意識が強いので、他の魚と一緒にしておくと攻撃を始める。

オイカワは、春になると綺麗な婚姻色が見られる魚。

釣り始めて一時間ほど経ったとき、何気に周りを見渡すと、少し離れたところで中学生くらいの男の子が釣りをしていた。

一人で来ているのだからよほど好きなんだろうな~と思っていると、その子がこちらに向かって歩いてきた。

「こんにちは。何か釣れましたか?」しっかりとした口調で話しかけてきたので、
「うん、そこのバケツに入ってるよ。向こうは何か釣れた?」
とこちらも聞き返した。すると
「向こうは、全然釣れないです。」
と言うので
「じゃあ、こっちで一緒に釣りしようよ。」
と誘った。

すると
「いいんですか?ありがとうございます。」
と目を輝かせて自分の荷物を取りに行った。

荷物を持ってやって来た彼は、ラップに包んだ練りエサを針に少しだけ付けて、器用に小魚を釣り上げては、観察したり写真を撮ったりして川に逃がしていた。

「何年生?」と聞くと

「あっ、大学三年生です。」
と答えた。

「えっ?、大学生なの👀‼️」

驚いている私に、彼は大学で魚の研究をしていることを話してくれた。

元々はお父さんと海釣りをしていたのだが、途中でタナゴ釣りに目覚め、そこからのめり込んで研究をするほどまでになったという。今日の狙いはアカヒレタビラという魚らしい。アカヒレタビラはレアでなかなか釣れないので、三重からわざわざこんな東北の、田舎の田んぼの真ん中までやって来たのだ。

楽しく会話をしていると、彼の口から驚きの一言が。

「僕、今日、誕生日なんです。」

「えっ?そうなの!!!( ; ロ)゚ ゚

「10月10日誕生日なの~⁉️おめでとう👏
釣りの日に生まれて、今ここで釣りしてるってすごいね(笑)」

興奮する私に

「今日、釣りの日なんですか😄知らなかった。」
と笑う彼。

「いや、私も今朝Twitter見て知ったんだけどね(笑)
じゃあ、アカヒレタビラ釣れるといいね。」

「そうですね。釣れたら嬉しいです。」

そして、その数分後…彼が釣り上げた魚を見て叫んだ。

「わっ!わっ!アカヒレタビラ釣れました~❗😆」

「え~‼️(o゚Д゚ノ)ノ」

こんなことが、あるのだろうか。誕生日プレゼント釣れちゃったよ😆
彼はとても大事そうに「アカヒレタビラ」をケースに入れて写真を撮ったり眺めたりして、楽しんでいた。

そうして時間は過ぎ、夕方になったので我々はひと足お先に帰ることにした。
「いいお誕生日だったね。」と彼に声をかけると、満面の笑みで
「ハイ!」と答えた。

「またどこかで会えるといいね。」

「またどこかの川で会えるかも知れませんよね。」

そんな会話を交わした。また会える、本当にそんな気がする。

彼は、車で帰る私たちに何度も頭を下げ「ありがとうございました、ありがとうございました。」
と繰り返した。

「こちらこそありがとう、楽しかったよ🎵じゃあね、気を付けて帰ってね」と手を振った。

お礼を言いたいのはこちらの方だ。「アカヒレタビラ」を釣り上げる貴重な瞬間に立ち会えたこともそうだが、彼の礼儀正しさ、清々しさに心が洗われた。

10月10日。ちょっとした奇跡が重なった不思議で素敵な一日だった。

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