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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

伊藤美来 Live Tour 2021 Rhythmic BEAM YOU 大阪公演 生まれ変わるような多幸感

※歌詞を中心にセットリストを紐解いていく後半はネタバレを含みますのでお取り扱い注意でお願いします。
(前半の感想にはネタバレを含みません。)

大阪公演のセットリストがいかに素晴らしいか勢いで書いていますから、解釈の誤り、表現のブレについてはご容赦ください。

あまりに自分語りがすぎるので思い出すたびにどんどん追記していきます
(2021/3/8 500字余り追記)

東奔西走

久しぶりの大阪…僕にとってもそう。久しぶりの新幹線、初めて降り立つ駅。東京に行きなれている感覚からすると(それもおかしいことだが)、大阪でこんなにも戸惑うのかとびっくりしてしまった。目の前の小さな違いを楽しみながら、その違いを楽しめる幸せを噛みしめる。

ブリーゼタワーと呼ばれる女性向けテナントが多く入居するビルの7階、フルキャパでも912席とかなり小さなハコ。劇場…というだけあって声も音もよく通る。ステージはヒューリックホール東京より大きく、客席はそれよりもコンパクト。シネマ・コンプレックスの小シアターに二階席がついたようなイメージだ。

まっすぐに

伊藤美来は…なんというかすごく実直なのだ。紡いだ歌詞、響く歌声、鳴り止まぬ拍手。一つ一つに応えながら前へ進んでいくのに迷いがない。いや、迷いを決して見せない。悩み抜いた結論を僕らの前に披露することを一切恐れていないようにすら見える。

努力の程度を誰かと比較するのではない。
努力を見せない、ともちがう。

圧倒的にたゆまぬ努力をし続けた者だけが放てる、魂の放射。

自信のある伊藤美来を用意し演じるのではなく、常にありのままの伊藤美来が、その時、その感情で揺れ動き、ころころと笑い、目を細めているのだ。
昨日までの努力も、悩みも、苦しみも、きょうの伊藤美来が内包し、きょうの喜びを生の伊藤美来が目の前で放出している。

まるで毎日毎日、生まれ変わっていくように。

Rhythmic Flavorという大名盤。完璧すぎて、どう変えてくるのか。変えられるのか。もはや全くの別物に仕上げてくるんじゃないか。予想がつかない。

そして当然、ここにアルバムRhythmic Flavorをはるかに凌駕するもうひとつの世界が描かれることとなった。

なんだこれ?

あれ??なんだ!!??これは!!!

















ココカラ、ネタバレ注意

客電が落ちると、静寂ののち、ワタシイロのLalalala…
緊張の一呼吸。まっすぐに立った彼女は歌い出す。

●ワタシイロ

”優しく吹き抜けていく風”

ここサンケイホール”ブリーゼ”に伊藤美来が見つけてくれた新しい気持ちがかたちを現していく。そしてこころの準備運動をはじめるのだ。

きょうまでの1年と5ヶ月、まったくの灰色だったわけじゃないけれど、大なり小なり嬉しいこと、楽しいことを紡いできたのだけれど、ここにしかない楽しいものもあるから。

”大好きなあの歌のフレーズみたいに
キミが教えてくれた 変わらない気持ち”

●all yours

いざライブが始まる。ツアーが始まる。というこの期に及んでも、心配事、不安なことは頭から離れることはない。私が、大好きな人が、隣の仲間が、Ifは絶えず押し寄せては心の砂浜を削っていく。僕だって「全くなんの心配もせずに」今日ここにきているわけではない。僕の、誰かのせいで楽しい思い出を、勇気のある決断を台無しにしたくない。そんな思いを知ってか知らずか、彼女は歌う。

”はじまる未来が 待ってた未知の世界
うつむくのなんで?
目の前に見える 希望あふれる扉
手が伸ばせなくて”
”心配なんでしょ
そんなとこも素敵よ おいで
抱きしめてあげるから”

ありゃあ。全部バレちまってたかな…みっともないね…
みっくにはかなわないや…
声は出せないから、手を叩く。

”クラップを鳴らせば 心通い合う”

そうだよね?そうなんだよね!

●one's heart

”明日が消えてしまいそうな
感覚に指先が震えても”

「いつもありがとう」
言葉にするとかんたんで、一瞬で流れて消えてしまいそうなきもする。何度も何度も言葉にして重ねてミルフィーユのように。どうかな?

”戸惑いながら 夢を見るほどに
私は信じてる”

ここまでテーマは風。停滞していた空間に新しい風が吹く。その風は優しく、通り過ぎた季節、距離を推し量るように詰めていく…

歌うことが好き。踊ることが好き。こうして同じ時間を過ごすことが好き。

”確かにひとつ 好きなことを好きだと言えるなら
Come true どんな色にでも変えてゆけるから”

そしてここからのテーマは色。

●MC

「私にとって大切な曲です」
僕にとっても大切な曲だ。大好きな曲なんだ。
聴き入っていいかい?
楽しみにしていたんだ。

●hello new pink

会場がピンクに染まる。
色が、変わっていくんだ。

つい見とれてしまう。みっく…

●PEARL

”きっと大丈夫 いまは大丈夫”

そういうわけで勝手に本ライブツアーの裏テーマだと思いこんでいたPEARL。
そしてパールも色のひとつ。

●MC

心の準備を重ねていって、もう大丈夫だねってみんなで確かめあって。ここからはもっと本心に近いところで語り合う。

「いつかライブができる日を夢見て歌詞を書きました。恥ずかしい気持ちもあるけれど…」

●いつかきっと

柔らかくて、心地よくて、まどろむような優しいうた。
見惚れる。聞き入る。一瞬たりとも目を離せない。
呼吸もわすれる。

”きっともうすぐだね
はやる気持ち許されるなら すぐ迎えに行くよ”

あお信号

”こんな私だけど 見つけてくれた
信号は青 だから一緒に
方向は前 ここから探すよ
そこからあふれるひかりに 笑ってみた”

あぁ…好きだ…

●ガーベラ

”悩み過ぎちゃ 進めない 進めない
言い聞かせる 怖くない 怖くない
踏み出さなきゃ 変われない 変われない”

●vivace

いつかきっと~vivaceのセクションは人知れず悩んだ時期を現していたのかもしれない。
やりたいのに、できない。どうしたらよいか、わからない。正しいのか、間違っているのか、わからない。

失敗は、許されない。

曲間の僅かな隙間にシルエットがスカートについたパレオ状の装飾を外し、ふわりと階下へ投げ捨てる。エメラルドグリーンの光の中、ベッドが用意され、そこへ向けて一歩一歩歩いていく、その流麗な肉体のシルエットに思わず唾を飲み込む。ベッドに腰掛けてvivaceを歌う彼女が見据える先、スクリーンには別の伊藤美来の姿が。夢の中で、彼女が知らない彼女が

”誰を待ってる?”

明日を待ってる?

スクリーンの中ではバスタブに浸かる伊藤美来。(本当にバスタブ好きね笑。)”へり”に肘をついて憂う姿は世界一似合っている。

右の横顔が称える色気。ふらりと揺れる足元。時間が止まるような、無力感。

歌い終わるとゆっくりとベッドへ横たわる。夢に落ちる。(マイクオフのポップノイズ?気になった)暗転、ベッドごとはけていく。

君がくれたかな 耳に届け 行け行け

これは願望?

それとも、宵闇のようにじっとりと絡みつく、魔法?

●幕間映像

ベッドに横たわった伊藤美来はスクリーンの中で翌朝目を覚ます。眠い目をこすりながら、コンポで音楽(PEARLのInst)をかけ、階下へ降り、顔を洗い、冷蔵庫からペリエを出し、やかんを火にかけると、トースターにパンを放り込み、観葉植物に水をやり、本を読む。焼けたパンの匂いをひと嗅ぎして、ブルーベリージャムをつけ一口かじる。もう家を出なければならない時間に、飛び出すように家を出ていく。これは先日出版された「伊藤美来のmorning routine」の続き、あるいは別のルーティンだったのかもしれない。

ずりおちたオーバーサイズのシャツをなおす音、白く細い肩にはりつくキャミソール…どきどき。しゅるしゅる。絶対に見えない鉄壁のキャミソール…ごほんごほん。焼けたパンをそっとかぐときの竦めた肩…どきどきどき。頭の中にその一部始終が焼き付いて、爽やかなPEARLのBGMがどんどん遠くなっていく。これは…高度だ…

一発撮りのように見せかけて、かなり自然に時間が飛んでいるところがある。(たとえばお湯を沸かすがアイスコーヒーを淹れるシーンが描かれていなかったり、時間がまずいことになっていることに気づいた直後、着替えが完了していたり。)気になるけれど、意図があるのだろうか。ないのだろうか。幸いもう一度確かめるチャンスがある。

●BEAM YOU

夜眠り、朝起きる。
一人の人間がべつの人間に毎日生まれ変わる。

アルバムで僕はvivaceを「vivaceには活発に、という意味があるが、(Rhythmic Flavorの)催眠によって抑えつけた我々の正気を活性化させる」役割を持つと評した。何度でも繰り返し、アルバムをリピート、魔法を解いてはかけ、催眠状態を刷り込んでいく…vivace→BEAM YOUの流れは潜在的にあったのだが、「morning routine」を間に挟んで明示したとも言える。いつもと変わらないまいにち。でも今日の私は過去のどの私ともちょっと違う。一度として同じ私はあなたの前にはあらわれないんだよ?と訴えかける。

vivaceから始まり、幕間を挟んで、BEAM YOUでスタートが切られる!
それは極めて前向きな、美しい(右側の)横顔を
未来に向けたスタートなのだ!

緑色のブーツカット、未来的シースルーのパンツスタイルで飛び出して無表情に、1番では伊藤美来が踊り、ダンサーは動かない。2番ではダンサーが踊り、伊藤美来は動かない。3番…大サビではステージ上の3人が踊る。

BEAM YOUのダサかっこいい近未来(表現が適切かはわからない)、コマが抜け落ちたかくかくした世界。ステージの箱をダンサーが動かしながら、登ったり、降りたり、座ったり、立ったり。MVの空想的世界が目の前の舞台上に劇場的に再現され、再構成されていく。

”耳に届け 行け行け”(vivaceより)

きたきた…

狙い撃ちだ…困ったな…

●Plunderer

●孤高の光 Lonely dark

たしかめるような序盤・中盤、スロウな加速。もうvivaceもBEAM YOUも聴いてしまった。終盤にむけていつアクセルを踏み込む?

ステージ上のムービングライトが真っ白な4本の光の筋をミラーボールへ向けて照射する。嵐の後、雲の間隙から差し込む強い陽光のように。神聖さすら覚える光景…

朝もやの中に差し込む誠実な冬の光のように真っ直ぐな歌声。

”見えない未来にも夜が明けること信じて”

夜明けのように、そして彼女のように真っ直ぐで強い光が会場を染める。

●Born Fighter

真っ赤なステージ、ブーツカットのパンツで足を踏み鳴らす。あぁかっこいい。ペンライトを振るのももどかしくて、拳を突き上げてた。立ち上がりそうになるの必死に抑えて…笑

青のShocking Blue、赤のBorn Fighter。

はぁ…格好いい。見たかった伊藤美来だ…

●恋はMovie

最後に残された、幸福感を噛み締め味わうセクションの始まり。

”この世界がこれほど綺麗なんて
あなた(僕らから見た美来、そして美来から見た僕ら)が
暗闇を消し去ってくれた”

きょうという一日が幸せを更新していく。

”演技なんていらない
溢れ出したSmile
あなたに見せたい Show Time!”

最後まで駆け抜けていくよ。ありのままの私の、ありのままの楽しい笑顔を受け取って。そう言われている気がして。

●Sweet Bitter Sweet Days

”こんな毎日を過ごしたい。楽しいことでいっぱいにしたい。そんな何気ない毎日の幸せを増幅していく万華鏡、カルーセルのような一曲。”(これは僕のディスクレビューより)

サビのクラップのところになると客席を照らすライトが明るくついて、繋がり合う気持ちよさ。

●Good Song

最後の曲。でもぜんっぜん!終わりの気持ちじゃない。
これからも続いていく伊藤美来の物語。
辛いことも、つまらないことも、楽しいこともあっという間に時間は流れていくけど。
私には歌がある。ステージがある。スタッフさんがいる。ファンのみんながいる。

”大好きな音 全部吸い込んで 育ってく きっと”

この”きっと”は確信のきっと。揺るぎない、

”どんなときも変わることのないリズム”

●MC(アンコール)

「アンコールしてもらえるなんて思ってなかったんですけど、一応ね、一応。用意してもらっていました!」

こういうところが好きなんだよ。
にやにやしながら言われたって、によによしてしまう。

「大阪っぽい曲ということで私が選びました!」

(それたぶん嵐山でMV撮ったからやない?と内心ツッコミを入れてみたり笑)

●閃きハートビート(アンコール)

うねうねするダンスもみんなで踊ろう。
クラップをする。手をふる。満開の笑顔。

”夢を追いかける毎日は続く”

ちくしょう…泣かせんじゃねえよ…。

まとめるまえに

ダンサーさんはふたり。笑顔の眩しい、いつものおふたり。
横浜の広い舞台では4人になるのだろうか。楽しみである。

中央のステージがせり上がるしくみ。
おお、結構すごいぞ。BEAM YOU のMVのようなカラフルな箱は階段の役割とお立ち台の役割も果たす。動くのか。MCで持ち上げたり、押したり、引いたりするみっく。その2つが中央のステージでつながって自由に行き来する。自動で動く部分と、手動で動く部分。ステージ上で耐えず変化する舞台装置。

みっくのライブの舞台づくりはいい意味でトラッドで、真摯であると感じる。あくまで主役は伊藤美来で、その歌とダンスなのだからと言わんばかりに。シンプルなはずなのにまったく物足りなさはない。楽しさはステージに収まりきれない。伊藤美来に集中するように動くライト、集まってくるダンサー、自然と目は彼女に吸い寄せられる。

ミラーボールに当てられるムービングライトの色が変わり、白→青と会場に、レーザーを使わずにしっかりとした光の筋が客席に飛んでいくのも好きだった。

うるさくなくて、心地よいサウンド。みっくの突き抜けるような真っ直ぐな声も、BEAM YOUのパーカッションも、Born Fighterの魂のギターリフも、Good Songのブラスも、うっとりしてしまうような音色で奏でられている。

アルバムRhytmic Flavorの曲が全て入っているにもかかわらず、一切の破綻なく、そしてPopSkipまで伊藤美来を彩ってきた曲の多くを封じ、新しい曲で、新しい色に置き換えていくアップデート。そしてその間あいだに差し込まれる旧譜が新たに携える、強烈で、強力な印象。

とくにPEARLについては、なぜか聴くことをやめられないのだ。どの曲よりも。

この曲の次はこう続くはず。というイメージを覆してくる。それは曲間の新解釈で、歌詞の行間のパラレルワールドだ。アルバムで出したひとつの物語にべつのIfが絡み合っていく。物語に正解なんてないよというように。

おわりに

相変わらずレビューというよりも勝手な解釈ばかりで申し訳ない。

このライブにはやりたいこと、伝えたいことが真ん中にぶすっと刺さってる。外から見えない。外からさわってもわからない。でもかたちは崩れない。芯がある・通っているっていうのはこういうことなんだなって。テクニカルな意味と、人間的な意味で。

伊藤美来 ライブツアー2021 Rhythmic BEAM YOU。
心地の良いサウンド、空間に滲むような光の束。
一晩経って思い返すだけでもぞわぞわが止まらない。
朝起きた瞬間に感じたのは僕自身が生まれ変わったような爽快感。
全身を一回ばらばらにして組み上げた直後のような心地の良さ。

最終、横浜公演、ここからどう深化していくのか。

今回のライブTシャツにはピンクのワンピースを着た伊藤美来の後ろ姿がプリントされている。笑いながら、「やっぱり竹はそっちを選んだかーナンセンスだねー」って言ってくれるだろうか。それとも、2週間後に再会する頃には、二人のワンピースになっているのだろうか。


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