ひとしずくの波紋。WaterDrop Instrumentalが解き明かす再々レビュー

石原夏織の2ndアルバムWaterDropが発売されて1ヶ月。オータムイベントのグッズ販売、明日に控えるオンラインリリースイベント、新曲Aganist.の公開と話題が尽きない中、ひっそりと、そして大きな衝撃が我々ファンの中に広がっていた。

もとより9月4日の各種サブスクリプションサービス配信開始が告知されていた。

日付が変わり、Water Dropと検索をかけた僕の目に飛び込んできたのは、目を疑うような光景だった。

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通常版のジャケット…?と。遅れて飛び上がった。「インストだ!?」

そしてこれが後に伝説となる(?)全曲初公開音源、インストアルバムの配信リリースの瞬間であった。

2019年11月13日に発売され、1stライブツアーのツアータイトルにもなったシングル「Face to Face」。収録曲は「Face to Face」「Taste of Marmalade」「ポペラ・ホリカ」の3曲。2曲+2曲Instのシングルのテンプレートから一歩踏み出した構成は、ジャケット写真とライブのプロローグ映像、2ndアルバムの最終曲Page Flipへつながったりと多彩なギミックが仕込まれていた。Face to Faceという曲は一つのキーワードとなって僕らと石原夏織を、離れていて会えない今、会いたい思いを育みつなぎとめる役割を果たしてきた。

そんな中、サブスクを心待ちにしていた理由の一つとして、より多くの人にWater Dropの波紋が広がっていくことを期待していたからだ。私自身もサブスク中心の音楽生活になっていて、利便性が高いこともある。一つのプラットフォーム上でプレイリストを作成したりできる。TwitterやInstagramで#nowplayingをシェアすることもできる。そうして心待ちにしていた9月4日の午前0時。激しく動揺していた。

僕らが石原夏織と大切に歩んできた日々の中には、気づかないだけでFace to FaceのInstが紛れていた。MVのMaking、幕間映像のBGM。でもその音源は手に入らない。なぜならシングルに収録されていないからだ。僕にとってそれはさして重要でなかった。どこかで諦めていたからだし、求める気持ちを忘れた頃にどこかで(SunnySpotStoryのきゃにめ特典Inst音源CDのように)公開されるだろうと思っていたからだった。その時がこんなに早くやってくるなんて、誰が思っていただろうか。

万華鏡のような音、カルーセルのような空気感、遊園地で彼女とデートをしているかのような、フィービー・フィービー。WaterDropレビューで書いたが、私にとってこの曲は特別で、この曲がなければ、石原夏織は新しい一歩を踏み出せなかったかもしれない、Water Dropに物語をつけることは出来なかったかもしれない。そう夢想するくらいにはこの挑戦的なアルバムを支えている影の立役者だと感じている。

ピアノが美しい。Dメロの信号音で全天写真の星空を想起する。そうレビューを書いた。石原夏織という圧倒的な声の才能がなくなったWater Frontにはより深い闇、視界を埋め尽くす空が感じられた。ストリングスの夜風が揺蕩うなかピアノの足跡は草を踏み分け、山を登り、歩みを止めることなく前に進んでいく。

Instになりより軽快感を増した夜とワンダーランド。ギターがさり気なくメロディラインを支えていたことに驚いた。よりメロディアス。より感情的。

キミしきるはInstのほうがドラマチック。柔らかく刺さるストリングスが、過剰なくらいに心のささくれだったところにに爪を立ててくる。感情に火を付けるギターソロ。そのまま飲んでしまうと喉を灼いてしまう劇薬のような強いエネルギーを持ったこの曲を、石原夏織は歌いきっていた。

なんども大絶賛しているSUMMER DROPを、この熱量を持った今の自分がInstをリスニングすることができるなて、夢にも思わなかった。2Aの波の音、Dメロのシンセサウンド、落ちサビのエレピ、カットオフ。芸術的な情景から目が離せない。

チェンバロの音がクラシック調?の雰囲気を持ってて、遊園地感にサマーフェスティバルのフィナーレ演出が追加されたようなフィービー・フィービーのような発展型とも取れる。こうして試行錯誤・挑戦してきたアルバムを「楽しかったね」と笑い、「これからももっともっと楽しいことをやろう!」と手を取り合うそんな終着点なんだ。

Inst音源が公開されていないTaste of Marmaladeとポペラ・ホリカがどうなっていくのか気になっている。

一体どういう考え方をすれば、これほどまでの出し惜しみないプロモーションができるのだろう。大々的な告知なしにさらりと公開してしまうところには豪胆さすら覚える。ひとしずく(Water Drop・・・ONE DROP)の私の中に生まれた波紋は石原夏織への想いを大きく大きく波立てていった。

僕らが笑い合い、手を振り合ったあの日から何一つ弛むことなく、僕らは彼女からいろいろなものを受け取り続けている。僕はその素晴らしい行いに見合う対価を支払えているのだろうか。僕に出来たのは正直な気持ちを今日も認めることだった。

もし、この駄文にも些かの価値が或るというのであれば、届いてほしい。

ありがとう以上のこの気持ち。

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