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『DANCE 2 NOISE』とは何だったのか?

 ダンス・トゥ・ノイズ。
 BUCK-TICKやSOFT BALLETを「とっても」好きだった人にだけ通じる「ああ、そんなのあったねぇ」というワード。かすっていない人には「何ですかソレ」になってしまう響き。
 ご存知でしょうか、皆様。そこで泣いてる人、あなたのために書いてますよこの文章は。

 この『DANCE 2 NOISE』と銘打たれた作品群は、ビクターに在籍する若手からベテランまで、メジャーとインディーズの垣根を越えて編まれたオムニバス盤。昨今で言う「コンピ」ですね。
 全曲が未発表曲という多大なるインパクトで、ファンは1曲のために購入しなくてはならなかったものの、近いテイストの参加者も多いので「レーベル・サンプラー」としての効果も果たしていた。特に初期はイヴェントも開催され、通し番号も「001」なので、このシリーズが恒久的に続くと考えての企画だったに違いない。洋楽の『HITS』とか『MAX』のように。範囲がビクター内に限られてるのに夢がデカい。
 リリース当時、日本では珍しかった「『TO』を『2』にしちゃうヒップホップ技」をタイトルに使用し、そのうえ「ダンス」。どういうことかと首をひねった僕は、当時から熱狂的なBUCK-TICKおよびSOFT BALLETファン。「ノイズはわかるけどダンスって何じゃらほい」と思ったわけだ。
 しかしその存在を3年ほど遅れて知ったので、よもやB-Tメンバーのソロが収録されていたことに驚愕。だって当時は「ソロ活動をするのはバンドが解散した時だ」とか言ってたし。ヤガミトールの発言だけど。しかも今ではやってるし、ソロ。
 後追いでさえ驚いてしまうぐらいだから、当時の驚きはいかほどだったことか。だってBUCK-TICKは『狂った太陽』で、ソフバは『愛と平和』の頃ですよ。ひゃー!
 インターネットもない当時(←おっさん文章の常套句)、音楽雑誌が情報の拠点。手軽にバックナンバーを読むことができないため、知らなかった3年前の情報を知った時の興奮と「ぽかーん」という感情が忘れられない。
 というのも、きっかけは今井寿+藤井麻輝によるユニット「SCHAFT」が1994年にアルバムを発売したことだった。そのインタヴューで「1991年に『DANCE 2 NOISE』で共演してから云々」というフレーズを発見。たぶん定期的に立ち読みしていた『音楽と人』でしょうね。そこまで突っ込んだ表現が出てくるのは。立ち読みですまぬ(たまに買ってたけども)。
 シリーズで最初に購入できたのは『003』で、買ったあとに「SCHAFTが入ってない。えっ、これシリーズだったの!?」と気づいてガックリ。しかし明らかに森岡賢みたいな女装した人がアー写としてブックレットに写っている「K.A.」が収録されていることで納得した。それから探しに探して待望の『001』『002』を購入。星野英彦と櫻井敦司、そしてSCHAFTの音源に狂喜乱舞。ついでに『004』が出ていることも知り、購入したらhideが入っていてびっくり。でも『005』『006』は買わなかったというか、見たこともない。
 それでよかったのかもしれない。調べてみると『005』と『006』は参加者がきわめて地味になり、全曲がカヴァー曲ということを知った。もはや全員のオリジナル未発表曲を収録するほどの力がなくなっていたのだろう。当時のビクターには。参加しているメンツも明らかに、シリーズを追うごとに地味になっていく。最後期の目玉なんて町田町蔵だもんなぁ。作家としての町田康は好きでしたが。
 そうして6作めを目処に、このシリーズはひっそりと終了する。発足当時はいかに華々しかったを想像できるだけに、残念である。

 以下、シリーズの収録曲と参加者を振り返り、このシリーズをざーっと見ていこう。
 収録曲はWikipedia様を参照させていただきましたが、発売日表記がおかしいなぁ? と思ったらオリジナルから「それぞれ、ちょうど18年後」になっていた。まさか再発売していたのだろうか? 編集ミスだと思うけれども。


『DANCE 2 NOISE 001』(1991年10月21日発売)

1 Jarring Voice / HOSHINO HIDEHIKO
2 CALL ME / M-AGE
3 Think of Making Love -SONIC MOSQUITO DUB MIX- / SUB SONIC
4 Domingo Express / TATSU
5 讃美歌 / HAMLET MACHINE
6 Planet!! / PC-8
7 Flame Of Illusion / CRYPTEMEN
8 びっくり / Cool Acid Suckers
9 Little Bit Cool / D.M.X&A.M.
10 heaven / Paint in watercolour
11 MACRO-MUTOS -from a film "GOD+ANALOGIA" / PBC
12 VIOLATOR / MAZZ+PMX
13 VISION OF LOVE/ BRAIN DRIVE
14 nicht-titel / SCHAFT

 やはりシリーズ最強の内容は、この『001』。ガラパゴス諸島あたりのカラフルな鳥が惑星の上に浮いていて幾何学的なタイトル文字配列、という「THE 90年代センス」爆発のジャケに時代を感じて目頭が熱くなる。
 このシリーズ開幕の音源が、何とBUCK-TICKの「沈黙こそ美徳」星野英彦のソロ! ノイジーなリフのくりかえしに機械処理されたヴォーカルが乗り、それこそ「DANCE TO NOISE」な響き。この曲は完全にここにしか収録されていないので、コアなB-Tファンはマストである。星野だけど。
 もうひとつの目玉は最後に配置されたSCHAFT。レイモンド・ワッツが参加する前の完全ふたりだけのインストで、その後の藤井麻輝優勢になったSCHAFTに比べて今井寿の比重も大きい。今井にしか弾けない不気味な中近東テイストなリフがくりかえされ、脳髄が気持悪くなる名曲。この傾向でも作品を作ってほしかった!
 他にもM-AGEやレピッシュのTATSU、DER ZIBETのISSAYとALL NUDEのTATSUYAが組んだHAMLET MACHINE、BRAIN DRIVEなどがビクターのメジャー組。他ははっきり言って知らないが、通して聴いても勢いとトータル感はシリーズ随一。
 中でも今頃ハマっているのは「時代の徒花」M-AGEの「CALL ME」で、時代を先取りした「メンバーにDJ」、その後V系のサポート多数となる岡崎によるクラブ的なドラミング、消えそうなぐらい線の細いヴォーカル(笑)と、何度も聴ける超良曲。最初のワウ効かせまくりのギターとドラム、おそらく「ファック!」という掛け声は、テレビ番組『発明将軍ダウンタウン』のオープニング・ジングルにもなった。売れなかったけど、M-AGE。


『DANCE 2 NOISE 002』(1992年03月21日発売)

1 予感 / 櫻井敦司+XYMOX
2 A HOWLING OF AN AUTIS / PANDEMONIUM (横山和俊+DJ PEAH (M-AGE))
3 (I'm not your) STEPPIN' STONE / SECRET GOLDFISH
4 Love Stain / PIPES OF WATER DREAM
5 SPACE INVADERS GO!! / SPACE INVADERS
6 Who is To Take Blame / HOT TOASTERS
7 DUAL VOICE / DUAL VOICE
8 Mental Box / OFF MASK 00
9 "FLY" / Stray Mac
10 CHAIN GANG / KRUSH POSSE
11 イエイエ '92 / サエキけんぞう+CMJK
12 JAPANESE SIGHT / THE MAD CAPSULE MARKET'S

 一気にパワー・ダウンした感のある続編は、ジャケからして意味不明のアメリカン・テイストに描かれた「燃えるスパイダーマン」。ここに「耽美の魔王」櫻井敦司が収録されているとは、誰もジャケからは想像できまい。
 目玉曲はやはり、その櫻井敦司ソロ。XYMOX(ザイモックス)というバンドとのコラボレイションらしく、浮遊感に透明感、はかない桜井のヴォーカルが耽美的。しかし打ち込みリズムが強調されているあたりにB-Tとは違うテイストも感じられる。しかもこの曲は12年後にもなって、櫻井がソロで発表したアルバムに別ミックスで収録された。アルバム中とっても浮いてますが(笑)
 もうひとつのキモは、一気に最後に飛んで「MARKET'S」時代のマッド・カプセル・マーケッツ。初期パンク時代の、まだV系雑誌に載りまくっていた時代の曲なのでヴォコーダー処理されたKYONOのヴォーカルやISHIG∀KIのギターが鮮烈。ここでの交流がきっかけになったのか? 少ししてLUNA SEA、SOFT BALLET、BUCK-TICKによるフェス「LSB」に参加。メンバーがソフバのレコーディングに呼ばれるなどにも発展した。
 他は……マニュピレーターとして有名な横山和俊とM-AGEのDJによるユニット、サエキけんぞうがいるものの、はっきり言って知らぬ。この企画盤をメジャー所属ミュージシャン目的で買った人は多くても、ここからメジャーになったインディーズの人っていないんだろうなぁ。


『DANCE 2 NOISE 003』(1992年08月26日発売)

1 MATRIX BUG / GULTDEP
2 For The 21st Century Of Hippies (To D. Danny D...) / THE KING OF HIPPIES
3 恋のダイヤル0990 / Jamaican Zamurai
4 My Speedy Salah / COALTAR OF THE DEEPERS
5 ICE / BIKKLY・H
6 somewhere wonderful(re-mix) / BRAIN DRIVE
7 She Nah She Nah / Hardcore Reggae
8 SCREAM! / DJ HONDA+仁勝
9 ANDOROID IMACE 202 / NAZOO
10 無邪気な絆(featuring Maki's noises) / Nav Katze
11 Will Never End / DOOM
12 CUT B∀SS / ★AJAJA STARS★
13 I Need You… / deep
14 ROOM / K.A

 脳味噌だか球体が浮いているSOFT BALLETに近いセンスのジャケ。これも90年代的なセンス。
 とうとう、目玉が森岡賢だけになってしまった。それも「K.A.」というユニット名義なので、ソフバのファンでも知らない人は多いだろう。ソフバにコーラス参加するKIKIという女性とのユニットで、基本インスト。重く遅いリズムとノイズで、いかにも「ときどき森岡が作る暗い曲」っぽい。最後は森岡の笑いとドアの閉まる音で唐突に終わり、そのインパクトが強い。
 他はGULTDEP、COALTAR OF THE DEEPERS、BRAIN DRIVE、実は藤井麻輝がノイズ編曲したNav Katzeがメジャー組になるものの、いかんせん小粒。DJ HONDAとかDOOMも人気は高いが、このシリーズに入ることがやや不自然か? しかしその後はインディー組が急増し、楽しめるのもここまでだったかな。


『DANCE 2 NOISE 004』(1993年01月21日発売)

1 FROZEN BUG / M*A*S*S (hide + J + INORAN)
2 STATE VIOENCE STATE CONTROL / CONTROLED PKO
3 JESUS SKY / VIRTU PSYCHO MARE
4 GENDER BENDER / SUPER PLANET
5 BUTTERFLY SONG / B-2 DEP'T (EX DEP'T SK)
6 SINK (2010 MIX) / M-AGE
7 WALKING EYES (RUNNING EYES) / ASKA KANEKO WITH MACEO PARKER
8 BELIEVE / LUCY'S DRIVE
9 UNKNOWN / PAINT IN WATERCOLOUR
10 PERSONALITY OVERLOAD / NINETY SEVEN PERCENTS
11 DESTRUCTION / PORNOGRAPHY
12 REVIVE / SUGIZO

 緑色のミサイルだか戦闘機だか重機だか(たぶんどれでもない)を写した、最初にして最後の「リアル物」ジャケ。
 最大の聴き物は冒頭の「M*A*S*S」で、XのhideにLUNA SEAのJとINORANという組み合わせが刺激的。ブックレット内の写真だと「エレベーターに乗ったカラス3羽」でしたが(笑)。hideはソロ活動を開始する寸前だったので、実質的なソロ・デビューがここになった。ダンサブルなこちらの原曲に対し、アルバムではヘヴィな別ミックスが収録されている。
 あとは……M-AGEとSUGIZOぐらいかなぁ。間違いなくパワー・ダウン甚だしい。
 ちなみに11曲めのバンドは「PORNOGRAPHY」なので、広島の因島から大ブレイクした「PORNOGRAFFITTI」ではありませぬ。


『DANCE 2 NOISE 005』(1993年10月21日発売)

1 DO YOU REMEMBER Rock'n'Roll RADIO? / NINJA HEAD
2 THE TELEPHONE CALL / 東京クラフトワーク
3 YOU REALLY GOT ME (KINKY MIX) / BRAIN DRIVE
4 異邦人 / NAZ'S-O
5 TAKE ME HOME COUNTRY ROADS / Nav Katze
6 LOVELY RITA / SECRET GOLDFISH
7 春爛漫 / ANGEL'IN HEAVY SYRUP
8 SEE MY FRIENDS / paint in watercolour
9 MISS ME BLIND / LUCY'S DRIVE
10 今夜はビート・イット! / M-AGE
11 タンゴ / 町田町蔵+北澤組

 とうとう、ジャケは男性を左右に配置して赤く歪ませただけの安っぽいCGになってしまった。制作費もなくなってきたのだろうか。
 全曲カヴァーで、そのセレクションもまとまりゼロ。1曲めから順にラモーンズ、クラフトワーク、キンクス、久保田早紀、アメリカのポピュラー・ソング、ビートルズ、森田童子、キンクス、カルチャー・クラブ、マイケル・ジャクソン、じゃがたら。
 参加メンツもBRAIN DRIVEにNav Katze、M-AGEといった「余りを埋める組」。むー。なんせ目玉が町田町蔵ですからね。いや、けなしているわけじゃなくてメジャー感がない。そのため、それまでの「必ずV系元祖組の目玉がある」このシリーズの法則を崩してしまった。売れなかっただろうなー。
 町蔵のじゃがたらなんて、たぶん聴いてないけどすごく面白いはず。しかし、このシリーズでの収録価値は不明だ。迷走の結果がここに出ている。
 ついでに言えば東京クラフトワークは電気グルーヴ(当時)の砂原 ''まりん'' 良徳が参加しているそうな。こんな時に乗るのは「唯一まじめな電グル」らしいね(笑)。


『DANCE 2 NOISE 006』(1993年10月21日発売)
※全曲カヴァー

1 LOVE KILLS / デフ・マスター
2 EARTH THING / COALTAR OF THE DEEPERS
3 ぶらり信兵衛 道場破り / 町田町蔵+北澤組
4 KITTY BEY / AUDIO SPORTS
5 PURPLEHAZE / トリックスター
6 PARASITE / DOOM

 同時発売で『005』を青く処理しただけのジャケで、同じく全曲カヴァーなので、おそらく「収録漏れ」を集めただけの最終作。なんという尻すぼみ。いっそ2枚組にしてさばく力もなくなっていたんだろうなぁ。
 1曲めから順に、フレディ・マーキュリー、ザ・プリミティヴズ、時代劇、バイロン・モリス、ジミ・ヘンドリックス、キッス。たぶん。
 メンツに関しても何も言いませぬ。しかし「シリーズ最後がDOOMでいいのか」とだけは言っておこう。同じギタリストでも星野英彦から始まって藤田タカシで終わるって発想、常人にはないぞ(笑)。


……と、シリーズを通して見てきたものの。どんどん内容、というか参加者が地味になっていくのが明らかにわかる。
 さらには『004』まではBUCK-TICK、SOFT BALLET、DER ZIBET、X、LUNA SEAといった「V系の元祖あたりにいるバンド」メンバーのソロ曲を収録という話題が大きかったが『005』からゼロに。購買層のほとんどはそれを目的にしていたのは間違いないので、だから町田町蔵が目玉じゃいけないんだってば。町蔵に罪はないんだけども。
 それがないと、定期的に参加してくれていたM-AGEにBRAIN DRIVE、Nav Katzeじゃ弱いのだよ。ほかインディーズ・バンド目的で買う人なんかたぶん、1%いたかどうか。ここから芽が出たバンドもないようだし。普通6作まで続いたオムニバスなら、1組ぐらいいるだろうに。

 というわけで、まとめ。
 タイトルにひるがえって「『DANCE 2 NOISE』とは何だったのか?」。
――きっと、ビクターによる「時代の徒花」だろう。
 M-AGEの部分にサラッと使ったフレーズだけども、まさにそのまんま。90年代という「ケーハクな80年代が終わった、音楽の時期はずれ」に、実を結ばないセールスで、咲くことのなかったインディーズ・バンドたちを送った企画盤。ほぼB-Tとソフバとhideのために中古を探される運命。音源単位での販売にサブスク全開の現在では、きっとそれらの目玉「しか」聴かれないでしょうねぇ。そもそもサブスクとかにもないけど。
 この企画盤を知る者たちが「ダンス・トゥ・ノイズ」と聞くとどこか気持がうら淋しくなるのは、そうした「無常観」を感じてしまうのだろう。盛者必衰。なむなむ。
 当時、町田町蔵として参加していた町田康が、このシリーズの虚しさを文に綴った名著が『供花(くうげ)』であることは有名です(←というのは大嘘です)。

 でも。
 空気感というか、懐かしいのだよね。あの90年代当時の「カオスの90's(←布袋寅泰)」の雰囲気。
 たしかに、ここに参加して実を結んだインディーズ・バンドはなかった。しかし鬱屈としてネガティヴになりがちだった90年代を、吹き飛ばそうとしていたパワーがある。
 僕ももう少し早く生まれていたらバンドをやって、言ってみたかったなぁ。
「私ね、『DANCE 2 NOISE』に参加したことがあるんですよ」って。
 それが通じた人とは翌朝まで飲むでしょうね。きっと。

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