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お台場合衆国幻影探究② -突撃-

人ひとりを0.1世紀も隔ててもなお惹きつける、この土地と季節の異様なムードを、過去の足跡をなぞることで、改めて身体感覚に刻みつけようというのが、今回の目的だった。

いや違う。

数々の合衆国ランドスケープを尻目に、我々の足は、気づいた頃にはもう、取り返しのつかない方向へと進んでいた。



「フジテレビ お台場合衆国係」

果たして、どのくらい歩いたのだろう。

その文字が刻まれた鈍い金色のプレートを掲げる重々しい扉が、目の前に立ちはだかっていた。






いっしゅん、耳の奥から、躊躇する声が聞こえた。






しかしこの脚が扉を蹴散らす方がわずかに、いや、はるかに、早かった。


「あれあれあれ。」

部屋の中に座っていたマイケル・サンデル似の恰幅のいいスーツ姿の男が声を上げた。この男が、合衆国係責任者と見て間違いないだろう。

以下は、この男(以下、マイケル・サンデル)との白熱のやりとりを、一語一句違わず殴り書きで手元のメモに書き留めた激闘のドキュメンタリーの記録である。


-∞-∞-∞-∞-∞-∞-∞-∞-

───お台場合衆国担当の方ですね。

マイケル・サンデル「こんにちは。私は、お台場合衆国大統領です。」

───ここはホワイトハウスですか。

マイケル・サンデル「そうです。」

───違います。

マイケル・サンデル「壁とか白いのに。」

───あなたの歯の方が白いですね。

マイケル・サンデル「電動歯ブラシで磨いておりますからね。毎日、血が出るまで磨いておりますよ。知ってますか。この振動で、リモコンの8を連打しています。そうやって強い気持ちでやってくとね、めざましどようびって毎週犬が出てくるでしょう。あの犬たちがね、だんだんちょっとずつ笑ってるように見えてくるんですね。心の底から、っていうのが大事なんだね。そうなったら、“正解”ですよ。」

───俺のターン、ドロー。

マイケル・サンデル「おお。」

───あなたのような方が、お台場合衆国大統領だなんて。聞こえませんか。ゆりかもめが泣いていますよ。

マイケル・サンデル「あのね、ゆりかもめっていうのは自動運転なんだね。彼らは涙を流さない。人の愛っていうものに触れたことがない。機械なんですよ。ゆりかもめに乗る人間っていうのもまた、涙を流さない。平気で飯を食う。あなた、今日ゆりかもめに乗ってきましたね。わかります。ましてや、ゆりかもめって環状線でしょう。つまり終わりがない。死を迎えない。永遠に。限りある命がそこには流れていない。これを聞いて宮崎駿がナウシカを作りました。ディズニーがTin Toyを作りました。環状ってのに、感情もないわけです。悪夢すら見ないんでしょうね。見たくても。私が泣きそうですよ。わかってやってくださいよ。(泣き出す)えーん。」

───ゆりかもめって環状線なんですか。

マイケル・サンデル「知らないです。」

───これを言うとびっくりするかと思うんですけど、私の歯の方が白いです。

マイケル・サンデル「ほう。面白い。見せてごらんなさいよ。」

マイケル・サンデルはそう言うと、靴を脱ぎ、左右を逆にして履き、そして元に戻した。

私は口を開けてみせた。

───歯です。

マイケル・サンデル「キャーーーーーーーーー」

実を言うと、この時まで、めちゃイケドリームフードコートの三中丼の青いご飯を食べた時の青い口の中を再現してから家を出たことを忘れていた。

マイケル・サンデルは白熱し始めてしまった。

マイケル・サンデル「なぜこんなに青いのか?なぜトロッコを引き返して5人轢いてはいけないのか?」

───すいません。あの、なんか実は生まれた時から口の中が青い。

マイケル・サンデル「why?」

───ああ、はい。めっちゃ嘘なんです。え。はい。うん?

使いたくなかった「嘘」という切り札を叩きつけ ることにはなったが、なんとかその場を上手く切り抜けることに成功した。



これが、今年夏「お台場冒険王2023 SUMMER SPLASH!」が開催されることになった経緯だ。

合衆国を再開国して欲しかったのに、冒険王まで遡ってしまうとは。これもおそらく、マイケルの白熱癖だろう。大目に見てやることにした。








数年ぶりの、夏。


③に続く。

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