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「事務次官という謎」霞が関の出世と人事

「事務次官という謎・霞が関の出世と人事」岸宣仁著・中公新書クラレ2023年5月発行

著者は1949年生まれ、読売新聞政治記者を経て、現在、経済ジャーナリスト。官僚に関する多くの書籍を刊行、官僚観察の一人者である。

安倍政権時代、官邸による官僚人事を掌握する内閣人事局が強化された、その結果、日本の官僚気質も大きく変化した。いわゆる「忖度」の出現である。内閣人事局の掌握対象者は審議官以上600人超に及ぶ。局長級以上が200人弱だから、対象範囲さは3倍以上である。

本書は、各官庁の最高位である事務次官の役割、任期の短さ、財務省官僚の威信低下の原因などから、官僚気質の変化、官僚制の問題点を指摘する。事務次官の平均任期は昭和時代には2年が原則、平成以降は1.2年に短縮している。

2018年福田淳一財務省事務次官のセクハラ辞任に始まる次官更迭はここ31年間で18人に及ぶ。そのうち財務省が4人を占める。1.7年に一人更迭されている勘定である。

財務省は金融危機不祥事件で次官以下の官僚も更迭されている。しかし、多くは天下りでそれなりの職を得ている。ちなみに福田淳一氏は現在、SBIホールディングの取締役である。同社は北尾吉孝社長の意向もあって、多くの財務省官僚が天下っている。

最近は官僚の天下り先も縮小傾向であり、キャリア官僚職場のブラック化が話題となり、キャリア志望者も減少している。2019年には若手官僚退職が1割以上を占めている。城山三郎「官僚たちの夏」での国家を背負う気概は喪失し、「官僚」から「職員」に変化している。

それは日本自体が1990年を境に、司馬遼太郎「坂の上の雲」を目指す政策作成の時代から「坂の下の影」を見て、政策を立案する時代に変質したためだろう。

官僚制の問題点は、政策決定過程の記録、公開、透明性と人事配置理由の事後説明をセットで徹底することにある。これはかつての日本軍組織論的研究「失敗の本質」が明確に示している。

「失敗の本質」は言う。日本軍が高度な官僚制を導入し、合理的組織にも拘らず、実体は官僚制の中に情緒性を混在させて、インフォーマルな人的ネットワークを強力に機能させる組織であった点にある。

即ち、組織、メンバーとの共生を強く志向するため、対人関係を最も価値あるものと重視し、意思決定システムが根回しとすり合わせという階層的決定システムにその原因があったという。

経済低迷の原因も日本的集団主義、同質社会における情緒的結合を重視する社会にあるかもしれない。ダイナミックなシステム変更を回避する日本社会の保守性、非合理性を無意識に応諾する心理深層が根底にあることかもしれない。

国民の自律性の欠如、他人任せの日本人気質から抜け出さない限り、裏金政治の根本的解決もできず、小手先の形だけの対応で誤魔化され、従来とおりの継続になるだけだろう。

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