「トヨトミの世襲」梶山三郎著
「トヨトミの世襲・小説・巨大自動車企業」覆面作家・梶山三郎著・小学館2023年12月発行
著者は覆面作家と名乗る大手経済新聞社記者。2016年「トヨトミの野望」で衝撃デビュー、続編「トヨトミの逆襲」を刊行。本書がシリーズ第三作目である。
本書は日本のトップ企業トヨタ自動車をモデルとした企業暴露本である。かつて山崎豊子が書いた「華麗なる一族」と並ぶ企業小説である。
2022年に問題となった不正車検問題、最近のトヨタの不正認証問題など、日本を代表する企業のガバナンスが問題となっている。持ち株2%の創業者による企業支配、企業統治の不備が表面化している。
企業名に「豊臣」を使用しているのが象徴的である。豊臣秀吉は優れた能力で立身出世し、天下を取った。しかし晩年、独裁支配から一族後見を家康に依頼するまで弱体する。何か象徴的である。
小説に出てくるもう一方の会社「織田電子」の織田善吉は小型モーター製造で有名な旧日本電産、現在の「ニデック」である。その創業者は永守重信氏である。創業者の後継者問題と学歴を問わないスパルタ教育、根性中心の企業風土で名を馳せている。ここにも世襲、承継のジレンマがある。
小説には名古屋錦のクラブが出てくる。そのママが「トヨトミの母」と言われる。このクラブは「名古屋の夜の商工会議所」と呼ばれた。実際にそう呼ばれるクラブは何軒かある。有名なのは住吉のクラブ「なつめ」である。
本書は99%実話と言われる。確かに小説での出来事を調べるとすべて実際に起こった出来事、事件である。ネットで調べながら、本を読み進めると更に興味がわく本である。
株式市場は米国景気後退、日銀政策変更、岸田内閣のNISA、投資推奨で株価は乱高下、素人の個人投資家が大損をしている。その中でも自動車産業は円安で何もしなくとも史上最高利益を計上する。
証券市場は2014年スチュワード・コード(責任ある機関投資家の原則)、2015年コーポレートガバナンス・コード(企業統治の原則)を公表した。それでも上場企業の不正は相次ぎ、ガバナンス欠如は明らかである。日本の企業統治の勉強にも本書は役立つだろう。
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