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創られた虚像・経済学者竹中平蔵の実相「市場と権力」

「市場と権力・改革に憑かれた経済学者の肖像」佐々木実著・講談社2013年発行

この本は副題にあるように経済学者・竹中平蔵の人物評伝。彼は、話題の持続化給付金事務委託に電通と共に関係する人材派遣大手パソナグループ取締役会長でもある。

竹中氏は学者出身金融担当大臣となり、金融改革竹中プラン、小泉内閣の郵政民営化、構造改革で名を売った。

リーマンショック後、新自由主義、市場原理主義批判で一時政治から遠ざかった。民主党政権失敗後の安倍内閣で復帰、現在、安倍政権政策作成のキーポインターだ。

竹中氏は「構造改革とは何か」と問われて答える。「構造改革に定義はない。海外で普通にやられ、日本ではやっていないことをやることだ」と。

一方で「私は新自由主義者ではない。それはレッテル貼り。私がやりたいことは貧困対策、貧困調査。日本に本当の貧困者は何人いるのかと問いたい」と述べる。

竹中氏の経済学はマネタリズムを基本とした供給サイド重視の経済学だ。貧困は構造改革によって需要を喚起し解決する考え方。

本質は自由放任の経済思想、その根底には合理的経済人(ホモエコノミカス)の存在がある。

しかし合理的経済人の行く末は「欲望の塊り」の人間出現ではないだろうか?

トランプ大統領の出現は、それまで政界に影響を与えてきた経済学者たちが金融界と深く癒着していた米国社会の反乱でもある。

1966年、米国上院外交委員会公聴会で、ベトナム戦争に対する批判に対し、当時のマクナマラ国防長官は次のように答弁した。

「ベトナム戦争のような大規模な戦争を遂行しても、米国は増税もせず、インフレも起きなかった。それは国防省のマネジメント改革によって、効率的な手段で戦争が遂行されたからだ。その功績に対して批判、非難されるのは全く心外だ」と。

これを聞いた当時のシカゴ大学教授・宇沢弘文は「言葉に言い尽くせない衝撃を受けた」と回想している。宇沢弘文は新古典派経済学のリーダー、近代経済学の最高レベルにあった学者だ。

英国のオーストリア学派経済学者・ライオネル・ロビンズは言う。「経済学は、ある目的を達成するためにどのような手段を用いるべきか?を問う学問。どのような目的を選択するか?と問う学問ではない」と。

それは価値判断を放棄し、効率を問う学問。即ちマクナラマ国防長官と同じ思想だと宇沢弘文は批判する。

経済学者橘木俊詔は、竹中平蔵の経済思想を規制緩和、競争促進、福祉削減の政策と規定する。彼の行った不良債権処理政策は、当時の首相の指示と支援があった結果と評価する。

この本は発行から7年の月日が経っているが、その価値は少しも減少していない。現在の政治と経済、貧困と富、経済学の在り方が今こそ問われている。

同じ新古典派経済学者でありながら、社会的共通資本の概念に至った宇沢弘文と竹中平蔵を対比するとその本質が良く理解できるだろう。

同じ著者の近書「資本主義と闘った男・宇沢弘文と経済学の世界」講談社2019年との併読をお勧めする。




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