「何もしないほうが得な日本」太田肇著
「何もしないほうが得な日本・社会に広がる消極的利己主義の構造」太田肇著・PHP新書2022年11月発行
著者は1954年生まれ、同志社大学教授、専門は組織論、組織社会学。日本における組織研究の第一人者。「同調圧力の正体」「承認要求の呪縛」など多くの著書がある。
「働かないおじさん」「無気力な若者」の言葉が巷に飛び交う。「何もしないほうが得だ」という考え方が社会全体に蔓延している。
一方で経営から「失敗を恐れないチャレンジ精神」「イノベーションの重要性」が叫ばれる。現実はイノベーションも進歩のための改革も進まず、現状維持の低迷が続く。この乖離はなぜ生まれるのか?
その原因は「自己の利益と保身のために現状を変えようとしない方が得という「消極的利己主義」の意識が心の底にあるためと著者は言う。
日本一人当たりGDPは1995年にOECD38ケ国の中で第6位、2023年は21位まで低下した。失われた30年経済低迷の根本原因も「何もしなほうが得」という日本人の行動意識、社会構造の欠陥にあると結論付ける。
消極的利己主義が生まれる理由は、日本の社会組織がすべて閉鎖的で、同質的な共同体組織であるため。本来、個人と全体の利害が対立するにも関わらず、建前と本音で誤魔化し、個と全体を無理やり一致させる「全体主義的パラドックス」がその原因と言う。
その結果、構成員は組織の発展に積極的に関与せず、同質的、閉鎖的組織の中で調和を優先し、組織全体の名の下で個人の利害を守ろうとする。それが「消極的利己主義」である。
これを解決するには組織そのものをオープンな組織に変えなければならない。新しい組織は外部と内部の壁を取り壊し、外部からの交流を自由にする。個と組織の利害対立を認め、組織の「部分最適」を求めるのでなく、組織の「全体最適」を追求することである。
ホッブスの「リヴァイサン」人間の本質は競争、不信、誇りがあるため、自らの権利・自然権を手放し、必要悪たる国家権力に委託する。ヨーロッパはさらにここから個の自律たる市民革命に至った。市民革命経験のない日本人にこの個の自律意識が生まれるだろうか?
しかし社会システムの変更なくして、個人の行動、意識を変えることは不可能であろう。そう考えると日本の組織構造の矛盾、深刻さを再確認せざるを得ない。本書はその意味で、日本の社会改革の困難さ、深刻さを再認識した本である。
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