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【爆損学】リスクに絡む2つの神経回路

こんにちは、日本爆損防止委員会です。

当会は、ここ数年でにわかに盛り上がりを見せる株・暗号資産・FX等の金融取引により、取り返しのつかない爆損をしてしまう人を無くすことを目的とし、発信活動をしています。

今回は「爆損学」シリーズです。このシリーズでは、特にお金が絡むリスク行動 (financially risky behavior)に関する学術論文を紐解くことで、爆損のメカニズムに科学的に迫ることを目指します。

今回は神経科学 (neuroscience) の論文から得られるインサイトを紹介します。人間は高度に進化した脳を持っています。爆損につながる意思決定を下しているのも脳です。すなわち、脳を理解することができれば、

「どうしてあのとき爆損してしまったんだっ…!」

という疑問に応えられる可能性があります。参考にするのは、以下の論文です。

Kuhnen, C. M., & Knutson, B. (2005). The neural basis of financial risk taking. Neuron, 47(5), 763-770.

2005年Neuronに掲載された、お金に関するリスク行動の神経科学的メカニズムに迫った論文です。


リスク・オン志向

投資の世界では、経済の成長期や良好な経済指標、低金利環境、市場の信頼感があるとき、リスクオンといって株などのリスク資産へ資金が流入します。現金や債券などの安全資産にお金を寝かせておくよりは、株といった変動の激しい金融商品に変えた方が資産を増やせる期待があるからです。

日常生活でも、得られる報酬がリスクに見合うと判断されれば、リスクオン志向が出るときがあるかと思います。7時に出ないといけなくて6時に目が覚めたが、睡眠時間をあと10分稼ごうと2度寝したりするのもそうですね。日常生活だとあかんですが不倫もそうですね。

リスク・オフ志向

景気の悪化や不安定な経済状況、地政学的なリスク、金利の上昇など市場の不安定さがあらわになると、株などのリスク資産の暴落を恐れ現金や債券といった安全資産にお金を移す動きが活発になります。

日常生活でも、得られる報酬にリスクが見合わないと判断されれば、リスクオフ志向が出るときがあるかと思います。7時に出ないといけなくて6時40分に目が覚めたら、2度寝するのはやめておいた方がいいでしょう。不倫も奥さんや旦那さんの親友だとあかんそうです。

リスク志向とリスク回避の神経回路は異なる

2005年なのでやや古いですが、スタンフォード大学ビジネススクールのKuhnenとKnutsonは、核磁気共鳴画像法、つまりfunctional MRI (fMRI)を用いた研究でリスク志向とリスク回避それぞれで別の脳領域が活動していることを発見しました(出典1)。

この研究では、人間の被験者がBIAS task (Behavioral Investment Allocation Strategy)という、研究室でお金に関わるリスク行動を測定するための行動実験に参加しました。2つの株式、1つの債券を買う選択肢が表示され、1つの株式は確率的にリターンの良い株式、もう1つの株式は確率的にリターンのよろしくない株式、債券はリターンは小さいが確定でリターンが得られる、という条件で資産最大化を目指すゲームです。

タスクを行う被験者の脳をfMRIで撮影することにより、側坐核(nucleus accumbens)はリスク志向の行動の直前に活動し、前島皮質 (anterior insula)はリスクを避ける行動の直前に活動することがわかりました。これらの脳領域の活動は、他の脳領域とは異なり、直後のリスク志向 or 回避行動に予測力があるということです。

リスクとうまく付き合うには脳を切り替える必要がある

「へー、側坐核ってところがリスク志向、前島皮質がリスク回避に関係あんのね」
…で終わってしまったらもったいないです。側坐核が報酬予測、前島皮質が情動生起に関わる脳領域であるとかは興味のある人だけ知っておけばいいです。しかし投資をするのであれば、リスクとうまく付き合うということ大事というのは、誰からも聞くアドバイスではないでしょうか。市場がリスクオンのときに銀行にお金を寝かせているのはもったいないですし、リスクオフのときに全財産暗号資産にするのは推奨されないでしょう。

この論文から読み取れるのは、要するに、リスクとうまく付き合うということは、使っている脳の回路を切り替えることなんだということです。

  • バブルが忘れられず、リスクオフの相場になったのに「押し目キタァw」などとロングばかりしている

  • 下落相場が終わって上昇相場に入ったのに、「これは天井w」などとずっとショートでエントリーしている

  • 損切りできない

これらはいずれも、脳を切り替えられてないことによる悲劇です。側坐核は損失を抑えるために働いてくれませんし、前島皮質は思い切ってエントリーするために背中を押してくれません。

特に、損切りが大勢にとってとても難しいのは、エントリーしたときの側坐核優位の脳から前島皮質優位の脳に移行できていないからだと仮説が立てられます。簡単に言えば、状況が変わったと認識して頭を切り替えられていないのです。

側坐核も前島皮質も我々の脳の一部ではありますが、どこかに活動スイッチがあってそれを押したら活動してくれる、とはいきせん。しかしながら、「うまくリスクと付き合って投資で資産を増やす」ことを考えるとき、

頭を切り替える

ことは意識しても良いでしょう。もはや「側坐核優位!」「前島皮質優位!」などと口に出してもいいかもしれません。

馬鹿馬鹿しいと感じるかもしれませんが、案外有効な自己防衛手段です。例えばカジノに行ったりするとわかるのですが、お金が稼げるのではという期待感だけでなく、比較的安価な美味しいご飯があったり、かっこいい服を着たスタッフがいたり、美女のなんかがあったり、常に報酬期待モード(側坐核優位)である環境が意図的にデザインされています。FXや証券会社、暗号資産取引所のウェブサイトもそうでしょう。彼らは、参加者の脳を側坐核優位にキープすることで、リスクを負わせ、爆損させてふんだくろうとしてきます。最近ではSNSもそういう場になってきました。

じゃあ常に前島皮質優位、常にリスク回避マンでいればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、例えば保険会社は顧客の脳を前島皮質優位に置くことで商品を買わせる、という営業戦略をしてきます。保険は本来リスク回避の金融商品なので、顧客がリスク回避志向、前島皮質優位であることが望ましいです。うまーく営業されて、いらない保険を買ってしまったらやはり爆損です。

そういった、脳のモードに合わせた戦略に自覚的であることは、爆損を避けるために非常に大切なのではというお話でした。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。よければまた次の記事でお会いしましょう。

出典

  1. Kuhnen, C. M., & Knutson, B. (2005). The neural basis of financial risk taking. Neuron, 47(5), 763-770.

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