「TSは百合ですか?いいえ違います」第1話

和葉「うぅん……」
プリン頭の女の子(和葉かずは)がベッドから体を起こす。
和葉「金髪……これ、俺から生えて……確認するか」
姿見の前に立つ和葉。
和葉「な……」
和葉「なんじゃこりゃー!!!」
―――
mum’s labと書いた看板のかかったドアをノックする和葉
和葉「母ちゃん! 今度は何の薬盛った! 女になってる!」
扉からボサボサ頭の女性が眠たげな顔で出てくる。
母「朝から騒がしいねえ。女体化したくらいでそんなに騒ぐもんじゃないよ」
和葉「やっぱり母ちゃんの仕業か! てかくらいってなんだくらいって! 一大事だぞ!」
母「そこは女体化薬を作れる天才なんて母上だけだ、と褒め称えるところだろう」
和葉「で、戻す薬は?」
母「無いよそんなもの」
和葉「はぁ!?」
母「それよりも―――」
何か(ピアッサー)を持って和葉に近づく母。
バチンッ!
和葉の耳にピアスを開ける母。
和葉「痛ってぇ! 何すんだ急に!」
母「何って、ピアス型脳波受信機の取り付けだが?」
和葉「脳波ぁ? んなもん測って何すんだよ」
母「脳まで女体化しているか調べたくてね。というわけで君には―――」
―――
リビングにて。向かい合って座る二人。
和葉「でー、つまり? 女子高に潜入して女子とキスしろってか?」
母「その通り。話が早くて助かるね。流石私の娘だ」
和葉「息子な。でもなんでキスを?」
母「人間の脳はキスしたときに特有の脳波を出すのだよ。それも男女違う風に。これほど脳が女体化しているか確認するのに丁度いい現象もないだろう」
和葉「つっても無理だろ。ポッと出の女が女子とキスするのは」
母「そこは安心したまえ。君の体からは一部の女性に作用するフェロモンが出るようになっている。範囲は狭いが女子高に行けばキスの相手の一人や二人、簡単に見つかるだろう」
和葉「化学物質で誘惑して無理矢理キス……気が進まねえな」
母「では君は一生このままの体で過ごすことになるし、ついでに家族全員路頭に迷うことになるね」
和葉「はぁ!? なんでだよ!」
母「女体化薬を作るのに資金のほとんどを使ったんだ。データが無ければ研究費もおりない。流石の私も先立つものが無くてはね」
和葉「はぁ……分かったよ」
母「では転入先はこの高校だ。制服は玄関に。手続きは済ませているので間宮和葉と名乗れば入れてくれるだろう」
和葉「和葉ってのは今の俺の名前か?」
母「ああ」
和葉「ところで質問なんだが……この髪色はなんだ?」
母「それか。副作用だね。ま、重要なことじゃない」
和葉「重要だろ! 頭頂部は黒いし、これじゃまるでヤンキーだぞ! ピアスもあるし! 染めさせてくれ!」
母「染料なんて使ったら髪がボロボロに崩れるよ?」
和葉「じゃあ作って―――はできないか」
母「資金がないからね。では私は寝るよ。ピアスの微調整で徹夜明けなんだ」
和葉「じゃあ朝飯はいらねえんだな? じゃあ夏姫(なつき)と俺の分だけ作るか……髪が邪魔くせえな。まとめるか」
髪をまとめてエプロンをしてキッチンに立つ和葉。
―――
和葉「さてと、制服は―――なんだこれ、夏服じゃねえか。うーん、時間もねえし……今日は私服の上着で勘弁してもらおう」
服を脱いで畳む和葉。男物のタンクトップとボクサーパンツ1枚になる。
「あー、下着―――って入ってるな。無駄に準備のいい……」
籠の中の女性下着を摘まみあげる和葉。
和葉「流石に抵抗が……うーむ……」
和葉が悩んでいると、
母「下着もちゃんと着たまえよー!」
と母の声が廊下に響く。
和葉「う……ぬ……」
―――
電車から降りる和葉。制服の上にスタジャンを着ている。
和葉(うーん、股がスース―する。落ち着かん)
華山大学付属女子中学校と書かれた校門の前に立つ和葉。
和葉(ここか……女子高。男の存在が許されぬ場所。正直、入りづらいが……行くしかないか。で、職員室に行かなきゃならねえわけだが場所が分からん。んで、場所を聞きたいところなんだが―――)
和葉「あのー」
モブ女子「ひぃっ! すいません!」
和葉(この風貌のせいで逃げられちまうと。適当に入るか―――)
和葉が諦めて校内へ入ろうとしたところ、
桃奈(ももな)「お困りですか?」
小柄な体に見合わぬ大きな胸の女子高生が話しかけてくる。
千代子(ちよこ)(桃奈の友人)「ちょっ、桃奈! やめときなって!」
桃奈と同じくらいの背丈の胸の小さな友人らしき女子高生が止めるが桃奈は和葉に近づく。
桃奈「どこか行きたいんですか? それとも探し物?」
和葉「え? あー、ちょっと職員室に用があるんだけど場所が分からなくて……」(こんなに可愛い子が助けてくれるとは……母さんに少しは感謝した方がいいかもな)
桃奈「それなら案内してあげます! ついてきてください! あ、チョコちゃんは先教室向かってて!」
千代子「貴方、桃奈に何かしたらタダじゃおかないからね」
キッと和葉を睨み立ち去る千代子。
和葉(おー怖。殺意混じってなかったか? あの目……)
桃奈「こっちです! 付いて来て!」
和葉の手を引いて歩きだす桃奈。
和葉「お、おう。ありがとう」
桃奈「ねえ、お名前は?」
和葉「間宮……和葉。そっちは……桃菜だったか」
桃奈「うん! 中島桃奈! 見たことないけど、転入してきたの?」
和葉「ああ。2-3に」
桃奈「えー! 同じクラスだ! これから仲良くしてね!」
和葉「こちらこそ、よろしく」
和葉(とりあえず友人1人目、って感じか……この風貌を気にしない子が仲良くなってくれるのは助かる)
桃奈「はい、ここが職員室! じゃあまた後でね!」
ブンブン手を振って立ち去る桃奈。
和葉(元気ないい子だ……さて、この格好をどう言い訳したものか……まあ、なるようになるか)
ガラガラッと職員室の扉を開ける和葉。
和葉「山田先生居ますかー? 今日転入してきた間宮和葉というものなんですがー」
和葉の姿を見てどよめく職員室。
その中の眼鏡をかけた女性が立ち上がる。
山田「私が山田です。えーと、間宮さん、その恰好は一体……?」
和葉「家庭の事情で。詳しくは母に聞いてください」
山田「はぁ……まあいいわ、服装については親御さんに問い合わせてみます。とりあえず教室に向かいましょうか」
和葉「分かりました」
二人で廊下を歩く。
山田「ウチの学校は品行方正がモットー。格好は今はいいとして、態度はしっかりしてくださいね。あと、挨拶はご機嫌ようなので、忘れないように」
和葉「わ、分かりました……」(今時そんな学校があるのか……)
山田「着きました。ここが2-3教室。私が先に入るので合図をしたら入ってきてください。自己紹介をしてもらうのでそのつもりで」
和葉「はい……」
苦い顔で答える和葉。
―――
教室内
ガラガラッ
山田が入ってくる。
山田「皆さんご機嫌よう。今日は転入生がやってきます。間宮さん、入って」
教室に入る和葉。どよめく教室。
和葉「えー、間宮和葉です。髪は地毛、ピアスは医療用、上着は夏服が届いたからです。決してヤンキーとかではないので、仲良くしてください。ご、ご機嫌よう?」
言い終えて頭を下げる和葉。
クラス内がザワつく中、桃奈だけがキラキラした目で和葉を見つめる。
山田「では間宮さんはえーっと……そこの奥の席に。教科書はまだ届いてないでしょうし、誰か見せてあげて下さい」
桃奈の隣の席を指さす山田。
山田「ではHRを始めます―――」
―――
昼休み
和葉(誰も話しかけてこない……桃奈はなんだかこっちに来たがってるけど友達に阻止されてるし、他の生徒は怖がってるのか近寄らない……参ったな)
桃奈「かーずはちゃーん!」
座っている和葉の顔に走ってきた桃奈の大きな胸が激突する。
和葉「むぐ……ぶはっ! 当たってる、当たってるって!」(スキンシップが強すぎる! なんだかいい香りもするし……)
桃奈「え? あ、ごめんね! 息し辛いもんね、離れるね!」
和葉がまっ平らな自分の胸を見る。
和葉(……なんだか負けた気がするのは気のせいか? ……いやいや、俺は男だ、関係ない関係ない)
桃奈「一緒にご飯食べよ! 和葉ちゃんはお弁当? 購買?」
和葉「今日は時間なかったから購買。普段は弁当なんだけど」
桃奈「私も購買! 一緒に行こ! 案内したげる!」
和葉「おお、ありがとう」
―――
購買で並ぶ二人。
桃奈「和葉ちゃんの前の学校はどんな感じだったの?」
和葉「んー? 平凡、だな。共学で、勉強もそこそこ。部活もそこそこ」
桃奈「共学! すごい! か、彼氏とかいるの……?」
和葉「いや、いないなぁ」
桃奈「私小学校からここだから男の子と関わった事あんまりなくて……どんな感じなのかな?」
和葉「桃奈からすると、まずデカいよな。後は人によるけど筋肉質で硬い。あ、サンドウィッチ下さい」
桃奈「えーと、焼きそばパンと、カツサンドと、コロッケパンと、あとアンパンください! それと牛乳も!」
和葉「え、そんなに食うの!?」
―――
食堂の椅子で食事をする二人。
和葉「しかし流石はお嬢様校。サンドウィッチ一つがこの値段(600円)とは……弁当必須だな」
桃奈「定食の方はもっと高いんだよ! だから購買で節約してるの!」
和葉(あの量で節約……?)
桃奈「ところでソレってピアス?」
パンを頬張りながら言う桃奈。
和葉「ん? ああ」
桃奈「い、痛くなかった……?」
和葉「貫通するときは痛かったよ。まあ、2回目は多少マシだったかな」
???「おい貴様!」
和葉の後ろから声がかかる。
和葉「ん? 俺?」
振り返るとそこには背が高くツリ目ポニーテールで風紀委員の腕章をつけた女の子(風巻かざまき 杏子きょうこ)が。
風巻「そうだお前だ! 金髪に私服のジャンパー! それにピアスまで! 校則をなんだと思っているんだ!」
和葉「あー、すいません。髪は地毛。服は夏服しかないから。ピアスは医療用。これでいいか?」
風巻「それになんだ先程の会話は!」
和葉「会話?」
風巻「その……デカいだの硬いだの……挙句の果てには貫通だと!? 食堂でそんな話をするんじゃない!」
赤面しながら言う風巻。
和葉「んーと……つまり、俺らが下ネタ話してたって言いたいのか?」
風巻「そ、そうだ! 品行方正が我が校のモットーだぞ!」
和葉「デカい硬いは体格の話。貫通はピアスの話。何も問題なく……は無いけど、下ネタではないだろ?」
風巻「ーーーッ! 覚えてろこの校則違反者め!」

真っ赤な顔で走り去る風巻。
桃奈「私たち、下ネタ? 話してたの?」
ポカンとした顔で言う桃奈。
和葉「桃奈は何も知らなくていい」
―――
放課後
山田「では皆さんご機嫌よう。気をつけて帰ってね」
クラスメイト達が散り散りに帰っていく。
和葉「帰るか……」
立ち上がって鞄を肩に担ぐ和葉。
桃奈「かーずはちゃーん!」
またしても桃奈が大きな胸をクッションに突撃してくる。
和葉「ぬおっ! どうした桃奈」
桃奈「和葉ちゃん帰りは電車? もしそうなら駅まで一緒に行こっ!」
和葉「あ、ああ。駅だぞ。一緒に行くか」
和葉(この子、なんでこんなに俺に……ああ、フェロモンか。てことはチャンスなんだけど……)
笑顔で腕に抱き着く桃奈を見る。
和葉(そういうのはちょっと、気が向かないなぁ)
校門をくぐり駅への道を歩く二人。
和葉「なぁ桃奈」
桃奈「んー?」
和葉「どうしてここまでよくしてくれるんだ? 自分で言うのも何だが口も態度も悪いし見た目だってヤンキーだ。新しいものが珍しいってのは分かるが、それだけでこうなるか?」
桃奈「うーん、なんでだろうね。分かんない。最初は確かに、面白い人がいるなーって感じだったけど、途中からなんだろう、一緒にいると嬉しくて、離れると物足りない気分になっちゃうっていうか…不思議だね!」
和葉「…変なこと聞いてもいいか?」
打って変わって神妙な面持ちで言う和葉
桃奈「うん? 何?」
和葉「…もしも、俺が桃奈とキスしたい、って言ったら、してくれる?」
和葉(フェロモンが効いてりゃ多分YES。じゃなきゃNOどころか変人扱いで離れてくだろうな)
桃奈「……う、うん。したい、かも…」
顔を赤らめて言う桃奈。
和葉(フェロモンのせいで決まり、かな…)
和葉「それはな、本当の気持ちじゃない。信じがたいかもしれないが、俺からは一部の女の子を惹きつけるフェロモンが出てて、桃奈はそれにアテられてるだけなんだ」
桃奈「じゃあ、してくれないの?」
和葉「ああ。フェロモンなんかで惑わしてキスするのは俺の信条に反するからな」
桃奈「じゃあなんでキスの話題なんて出したの? そんなこと言われたら、したくなっちゃう……」
和葉「それは……ちょっと込み入った事情があって、キスをしなきゃいけなくてな……」
桃奈「事情って?」
和葉「それは……ちょっと言えないな」(男ってバレたらキスどころじゃなくなっちまうからな……)
桃奈「それだったらさ、キスしてくれたらもう聞かないから! ね! キスしてよ!」
和葉「……参ったな」
少し姿勢を下げ、桃奈と視線を合わせる和葉。そのまま桃菜の頬へキスをする。
和葉「これで勘弁してくれるか?」
耳まで真っ赤になる桃奈。
和葉「さて、帰るか。駅行くぞ」
コクコクと真っ赤なまま頷く桃奈。
和葉(母ちゃんは脳波が変わるかもつってたけど、そんなの全然嘘だ。現に俺は今、桃奈に少し惚れちまっている……)


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