「堕天の騎士」第3話

椅子に縛り付けられているカナタ。三重の透明な壁で囲まれている。その正面に椅子があり初老の男性が座る。その両脇にライチ、ジン、サエが並ぶ。部屋の壁はカナタの周りの壁と同じで、透けている。

目を覚ますカナタ。

「ここは……?」

カナタが目を覚ましたのを見て中央に座る初老の男性が口を開く。

男性「やっと起きたか。最初に聞く。お前は……何者だ?」

カナタ「貴方は……黄金の騎士、武富(たけどみ)イッセイ!?」

イッセイ「ああ。だが今は質問に答えたまえ」

カナタ「俺は……黒の守護天使と契約しただけのただの騎士です」

イッセイ「ふむ……つまり自分は人間だと」

カナタ「当たり前です!」

イッセイ「録画した映像でも報告でも、お前は悪魔そのものだったが……人間の姿に変わったのも確かだ。いい。質問を変えよう。黒の守護天使とはなんだ? どのような能力を持つ?」

カナタ「命のスペアを持つ能力と、それを消費して……そうですね、先ほど言ったような姿になる能力です」

イッセイ「なるほど。その守護天使は名乗らなかったのか?」

カナタ「……ええ」

イッセイ「分かった。お前の戦闘能力は映像で確認した。知っての通り悪魔の数に対して騎士の数は圧倒的に足りていない。コントロールできるならばお前ほどの戦力は喉から手が出るほど欲しい。お前にチャンスをやろう」

カナタ「チャンス……ですか」

イッセイ「私と一騎打ちをしたまえ。そこで私に勝ち尚且つ暴走しなければお前を騎士として認めよう」

サエ「騎士長と一騎打ち!? 流石に無理なんじゃ……」

イッセイ「それくらいできなければリスクにリターンが見合わん。何、安心しろ。手加減はする」

サエ「まあ、騎士長がそう言うなら反対はしませんが……騎士長の命が危険そうなら乱入してもいいんですよね?」

イッセイ「ああ。そんなことにはならないがな。では皆、隔壁の外へ」

イッセイの周りの人物たちが部屋の外へ出て行く。

イッセイ「拘束と隔壁を解除しろ」

イッセイの発言と同時にカナタの拘束が解け三重の壁が下へ下がり、二人の間には何もなくなる。

そしてイッセイの体の周りに黄金に輝く鎧が現れ、同じく黄金に輝く剣と盾がイッセイの手に現れる。

イッセイ「手加減だ、コレは使わん。右手だけで相手をしよう。能力もこれ以上は使わん」

盾を捨てるイッセイ。

イッセイ「さあ、勝負だ、若造!」

イッセイがカナタに剣を向け言う。

カナタ「これ以外に方法は無いんですよね?」

イッセイ「ああ。”処分”されるか、勝つか、二択だ」

カナタ「なら、仕方ないですね……」

槍を出すカナタ。

イッセイ「こちらから行かせてもらう!」

刺突の構えを取りとびかかるイッセイ

カナタ「ぐっ!」

槍で受け止めるカナタ

カナタ(一撃が重い……!)

イッセイ「まだまだ!」

宣言通り右手だけを使い、ラッシュを仕掛けるイッセイ。

カナタ(しかもこの攻撃速度……! 捌ききれない……!)

かすり傷ではあるものの徐々に傷が増えていくカナタ。

イッセイ「どうした、この程度か! 例の能力は使わないのか!」

更にラッシュを加速させるイッセイ。

カナタ(クソッ、このままじゃジリ貧だ……)

ルシファー<どうしたの? カナタ。半神半魔、使えば勝てるのよ? 出し惜しみする理由がどこにあるの?>

カナタ(暴走したら終わりだ……イッセイさんは勿論、もしかしたら、近くのライチ姉達、更には周りに住んでる人たちの命まで奪ってしまうかもしれない……悪魔と同じになる。そんなことになるなら死んだほうがマシだ!)

ルシファー<ふぅん。そんなことを気にしているの。いいの? 悪魔への復讐は? ここで死んじゃ何も残せないわよ?>

カナタ(だからといって……! いや、待てよ?)

カナタ「イッセイさん! 俺が暴走したとして、被害はどれくらいになりそうだ?」

イッセイ「この部屋で片付く。私の他にネームドがついている騎士が2人いるのだからな」

カナタ(悪魔を殺した以降は意識を失って完全に暴走した。だが、逆に言えば悪魔を殺す前はかろうじて意識はあった。今回は別にイッセイさんを殺すのが目的じゃない。確実じゃないが、暴走しない可能性も十分にある……仮に暴走してもきっと殺してもらえるだろう。それなら……!)

イッセイの剣を肩に食らいながらイッセイを蹴り飛ばすカナタ。

カナタ「痛い……が、これで時間はできた!」

槍を胸に突き立てるカナタ

カナタ「半神半魔!」

カナタを黒いオーラが包み、姿が悪魔のように変化する。

イッセイ「ほう。これがその能力か。禍々しいな」

カナタ「死なないデ、下さイ……ね」

イッセイ「はっ、言ってくれる! いくら能力を使ったとて、今まで防戦一方だったお前に何ができる!」

カナタ「今度はこっチかラ、行きまスよ!」

瞬間的にイッセイに近寄り槍を突くカナタ。

イッセイ「くっ!」

かろうじて剣で弾くイッセイ。しかし左腕に深い傷を負う。

そのまま突きのラッシュをかけるカナタ。

先ほどの状況を逆転したかのようにイッセイが防戦一方になる。

イッセイ「やるな……だが、まだ甘い!」

槍を肩で受けつつそのままカナタの首を狙うイッセイ。肩の鎧は砕け散る。

カナタ「グッ!」

左腕で剣を受けるカナタ。傷はつくが切断はされない。

イッセイ「ふむ……お前の強さは分かった。今のところ暴走もしていない。合格だ。騎士として認めよう」

剣をおさめるイッセイ。

カナタ「ソレは……良かっタ」

額に手を当てよろけるカナタ。徐々に人間の姿に戻る。

イッセイ「では騎士として登録を済ませるぞ。ジン、端末を」

隔壁の外にいた人たちが中へ入ってくる。

ジン「こちらに」

イッセイにタブレットを渡すジン。

ライチ「良かったー! すっごく心配したんだよカナタ君! 怪我治すね!」

カナタに駆け寄り治療を始めるライチ。

カナタ「ありがとう、ライチ姉。なんとかなって本当に良かった……」

イッセイ「名前はそうだな……堕天の騎士、だな。よろしく頼むぞ」

タブレットを少しいじってカナタに手を差し伸べるイッセイ。

カナタ「ええ、よろしくお願いします!」

その手を取るカナタ。


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