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第15回 乳酸研究会@東大 メモ

【レクチャー1】 乳酸をつくる能力と使う能力のトレーニング効果 by榎木先生 
●講義メモ
・乳酸をつくる能力と乳酸をつかう能力を分けて考える

・ゲーレン・ラップとキプチョゲの比較
 →乳酸をつくる能力がないとマラソンでも厳しい

・乳酸をつくる(解糖系)能力をつけるには大きな筋発揮出力を利用

・パワーを生み出すには筋肉が必要だが、走るだけではつかないので、ウェイトトレーニングも行う

・レジスタンストレーニングの効果
 →高筋力発揮の持久力に重要な酸化系代謝に有効
 →解糖系をメインターゲットにするトレーニングの難しさは、無酸素運動ではないトレーニングになりがち(走る・泳ぐだと乳酸がそこまで出し切れない)

・レジスタンストレーニングの種類
 →自転車(ギアを重くする)
 →バトルロープ
 →スレッドを押す
 →タイヤを倒すレジスタンストレーニングの効果

●振り返りメモ
・個人的にトレーニングをしていても、作られた乳酸をいかに効率よく回すかというところに目がいきがちで、いかにたくさん乳酸を生み出すカラダにしていけるのか、というところは余り意識がいかないところだった

・乳酸をつくる能力を高める意味で、レジスタンストレーニングは使えると。ギアを重くした自転車タバタなんかもこれに該当するかもしれない。バトルロープはRob Krarはやってたし、Max KingもObstacle Raceに出る過程でものすごい重りを投げたりしてたので、少なくとも北米の強いランナーはこの辺りを取り入れてそうだなというのを思い出した。

・OBLA超のトレーニングは乳酸を生成する能力を高めるという意味で、より意識して取り入れていかないとなと思った

【レクチャー2】陸上選手における血中乳酸濃度測定とその実際 〜東京大学陸上運動部を例として〜 by 竹井先生
●講義メモ
・体力測定の意義
 →体力測定をすることで、現状の体力・特性の把握ができ、トレーニングの処方が行え、そのトレーニング効果の評価ができる
 →乳酸を使って測定する

・短距離〜中距離選手を対象とした乳酸測定
 →これまでは最大血中乳酸濃度を指標として測定がなされてきたが、運動能力の相関関係は、相関ありと相関なしのいずれの報告もなされてきた
 →血中乳酸濃度増加率(乳酸を運動後に0.5,1,2,4,・・・分後のように測定)することで運動能力との相関があることがわかった。血中乳酸濃度増加率が高いと中距離選手の特性がある

・血中乳酸濃度増加率はどのように作用してるか?
 →速筋繊維では、グリコーゲンから乳酸をたくさんつくるが、ミトコンドリアがそこまで多くない
 →遅筋繊維では、乳酸を多数あるミトコンドリアへ送り込みエネルギーをつくる
 →乳酸輸送速度が高いと、たくさんエネルギーを作れる

・中長距離選手を対象とした乳酸測定の方法
 →LTカーブテスト
 →RPEで判定

・強度分類
 →LTまで:低強度
 →LT〜OBLA:中強度
 →OBLA〜:高強度

・POL(Polarized Training)の分類
 低強度:中強度:高強度=75:10:15くらい
 →POLはトレーニング頻度で割合を出している。1回のポイント練習なら1回。
 →何らかの方法で測定することが大事

●振り返りメモ
・POLの管理を距離や時間でなく頻度(行った回数)としているのは意外だった。これだと確かに高強度の割合は増えるし管理しやすい。また練習時間も60-90分程度と推測でき疲労もコントロールしやすいので、こういうことができるのかな

・ウルトラトレイルやバイクの場合は一回の練習の中でも低〜高強度が入り交じるのでこのあたりはどう管理していくかは課題かなと思った

・実際にトレーニングしようとするとどしてもOBLA超になりきれないとかあるので中強度を減らしてやってくというのは実践が大変そうだ

【競技団体の強化におけるフィットネスチェックの活用 〜自転車競技トラックナショナルチームでの事例〜】by 村田先生
●講義メモ
・オリンピック出場を目指し、フィットネスチェック(体力測定)を行う
 →強化計画
 →年複数回の実施
 →競技パフォーマンスが高い選手との身体能力の差を明らかにして、トレーニングの目標を明確化

・チームパシュート
 →先頭は636W、2-4選手は418Wが必要・・・日本選手が戦うには、日本の短距離選手並の能力が必要。
 →欧州の選手はプロロードチームに所属しながらも出場してくる。

・乳酸(LT)カーブテスト
 →自転車エルゴメーターで実施

・自転車競技トラックナショナルチームの選手のLTカーブテストの事例
 →LTカーブが年次を追う毎に理想的に右にシフトする選手
 →ケガやチーム所属の都合でトレーニングができず、数年経過しても右にシフトすることができなかった選手

●振り返りメモ
・この講座の前の2名と異なり、ナショナルチームの合宿(年間のうち40日程度)からの事例という内容で、研究的な内容とは一味ちがう、非常に泥臭い印象の講義だった

・質疑の中で、「持久的トレーニングをやめて筋トレすると1000mタイムアップするが、持久的能力が下がる。その後に持久的トレーニングをしたら伸びるのか?」という質問に対して「現実的にはそう簡単にいかない」とおっしゃっていたのが非常に印象的だった。それは理想論だが、ということなのだろう。

・レジスタンストレーニングやPOLのようなトレーニングが効果ある!よしやろう!なんて思っていた矢先に、(おそらくそうした知見・ノウハウも結集させた合宿を行っているのだろうけども)歴史的にも先行している欧州強豪がいる中でオリンピックを狙おう、トップラインを上げていこうというのが如何に大変なことか、というのが言外に染み出ていたような印象を受けた。

【長距離走中に発生する筋痛・筋損傷・酸化ストレスと運動パフォーマンス】by 大森先生
●講義メモ
・大森先生の専門は内分泌や代謝(今回の講義は乳酸ではない)
・題材は人のマラソンレース・30km走
 →論点1:長距離走中の時間経過と酸化ストレス応答の関係
 →論点2:長距離走中の筋痛・筋損傷・酸化ストレスとパフォーマンスの関係

・論点1:長距離走中の時間経過と酸化ストレス応答の関係
 →マラソンによるストレスは、筋損傷、肝損傷がある。
 →EOMS(早発性筋痛)とDOMS(遅発性筋痛)。OMSは数時間後から24時間。EOMSは運動中から起こる筋肉痛。
 →マラソンでは20kmからEOMSが発生した(各種マーカーを使って確認)。つまりマラソンは運動中に筋肉痛が発生する

・論点2:長距離走中の筋痛・筋損傷・酸化ストレスとパフォーマンスの関係
 →いわゆる30kmの壁。なぜペース維持ができなくなるのか
 →筋損傷に着目。2016つくばマラソンの参加者25名で検証(マラソン4時間程度)
 →筋損傷がおこりペースが維持できなくなる
 →筋力の低下が関係しているのではないか

・筋損傷の発生によりペース維持ができなくなる。
 より良いパフォーマンスのためには
 1)軽減させる
  →長距離トレーニング
  →トレーニング時間の増加
  →筋力トレーニング・ストレッチ

 2)発生を遅らせる
  →フォーム改善
  →ペース保持
  →サプリメント

●振り返りメモ
・エキセントリック収縮などにより筋損傷が発生し、高いVo2MAXがあってもそれを有効活用できない的な話を、以前に筑波大学博士課程の高山さんの講義でも聞いていたので、その引用となった一部の研究かな?と聞きながら思っていた

・トレランでも筋肉痛発生により走れなくなるというのはありがちなので実感としてはよくわかる話

・パフォーマンス向上のためには、運動生理学的な能力を高める(Vo2MAX,LT値など)と、制限要因となる因子を取り除く・耐性を高める(繰り返し衝撃に耐える能力など)、いずれも必要だという話を思い出した

・なお、質疑応答の中で、フルマラソン2:25分台の方が人生最大の筋肉痛はフルマラソン自己BPの時に出現した。その際は25kmくらいから発生し、30km以降は強烈な痛みになったそうだが、ペースは5キロあたり数秒差という範囲に収まりペース低下はなかったがなぜか?という質問に対して「根性ではないか」という回答があり、これはウケ狙いではなく今回の研究結果に対する反証的な事例ともなり得るから検討するに値する価値があるという発言なのかなと思って、研究(会)の奥深さに面白みを感じたシーンだった。

【運動時の骨格筋組織における酸素ダイナミクス O2供給 vs O2消費】by狩野先生
●講義メモ
※生理学の込み入った内容だったようで、メモとってましが、めちゃくちゃ難しくてチンプンカンプンだったので、とりあえず結論だけ

・まとめ
 酸素はどのように筋細胞へ運搬されるか
  →即座に血流応答し、Ox分圧維持機構が存在する

 筋細胞は酸素不足になるのか?
  →筋収縮時も酸素不足にはらない(無酸素運動は存在しない、乳酸は常に産生される)

 酸素の供給と消費(ミトコンドリア)の関係は?
→ミトコンドリア増加による酸素消費能力の増加は持久力を高める

●振り返りメモ
・まとめの2つ目は、講義ではサラッと言っていたけど、短距離走とかでいわれてきたような「無酸素運動」というのはないですよっていう内容で、思いっきりこれまでの教科書は間違ってますよっていう話で刺激的だった

・質疑では、乳酸はどこでも入り込める(血中、ミトコンドリア・・・)ので、乳酸を使ったトレーニングは(どこでもできるので)有効(ただしキツイけど)という発言もあり、締めくくりにふさわしく、改めて乳酸をつかったトレーニングをしていこうと思った次第

・その他の先生もそうだけど、相当な積み重ねはあるからなのは間違いないと思いますが、これまで常識とされていたことを、それは違いますよといった内容であったり、視点を変えて研究することで発見があったり、非常に知的好奇心が満たされる内容だった。

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