「クリエイターのための権利の本」に推薦コメントを書きました
「クリエイターのための権利の本」という書籍が、9月末ごろから書店に並んでいます。
実は、この本の推薦文を寄稿させていただきました。本を手に取っていただき、裏表紙を見ていただきますと、カバーにコメントが載っています。
今回は、このコメントの執筆の経緯をご紹介しようと思います。
引き受けるまでの経緯
9月初頭、いつもお世話になっているボーンデジタルの岡本さんから、200字程度のコメントをという打診をいただきました。
書籍の執筆経験は多少あるのですが、このような推薦のコメントを書いた経験はなく、うまく書ける自信はありませんでした。とはいえ、個人的にも読んでみたいと思っていた本でしたし、せっかくの機会でもありますので、引き受けることにしました。
原稿を読む
200字程度のコメントというと簡単に思えますが、書籍の内容を読まないことには書けません。
1章だけざっと読んで済ませる手もありましたが、2章以降は読んでいませんという言い訳もできませんので、全部読むことにしました。校正段階の原稿を共有いただき、2日かけて全てを読みました。
書くことの概要をまとめる
原稿を読みながら、この本のポイントや、推薦コメントに書くべき内容についてメモしていき、書く内容の方向性をまとめました。
誰にオススメ?
- すべてのクリエイター、すべてのWebサイト運営者
- あえていうならイラストレーター、デザイナー、ライターなど著作権に深く関係してくる立場の人か
- コンテンツ企画の人にも知っていてもらわないと困る
- 権利について知っておかなければならないのは誰かといえば、全員
どういったところがオススメ?
- 著作権からソフトウェアのライセンス、契約、の話まで幅広くカバーしている
- トラブル時の具体的な相談の仕方までカバーされている
- 実際の事例や裁判例が多数紹介されている
- 条文の解説ではなく、分かりやすい実例が紹介されている
- 現場のクリエイターの体験談が紹介されている
どんな時に読むといい?
- これから著作物を作ろうとしている
- クリエイターがクライアントと契約しようとしている
- 権利関係のトラブルに遭遇した
- 画像をパクられた、パクリだと言われた
- 制作をしたがお金がもらえない
- トラブル対処の方法を知っておきたい
これらをいったんフィードバックして、出版社側が考えるセールスポイントと大きくずれていないかを確認しました。
作文・案出し
コメントは200字程度ですが、この概要はそれよりもはるかに長くなっています。これらを取捨選択したり、エッセンスをうまく凝縮したりして、200字程度に収める必要があります。
あとは書くだけではあるのですが、文体と言いますか、文章のテイストの方向性がいくつか考えられ、悩ましく思いました。一人で悩んでも仕方ないので、試しに3案ほど作文して意見を聞いてみることにしました。
以下、実際に提案した文案です。
案1: 無難な紹介
WebとSNSが普及したことで、クリエイターの活躍の場が広がると同時に、権利関係のトラブルに巻き込まれるケースも増えました。本書は、クリエイターが実務で直面する著作権、ライセンス、契約などの問題を、豊富な事例、判例とともに紹介しています。実際にトラブルを解決した体験談や対応手順も紹介され、至れり尽くせりです。まさにすべてのクリエイターとWebサイト運営者に必携の本と言えるでしょう。
案2: 脅しから入る
著作権、ライセンス、契約などの法律を知らなければ、トラブルに巻き込まれたり、大きな損失を招くこともあります。権利に関する基本的な知識は、クリエイターだけでなく、Webの運営に携わる方全員が持っておくべきものです。本書では、権利に関するトラブル事例を、多数の事例、判例を交えて具体的に紹介しているほか、トラブルを解決する際の手順も分かります。実務者が読んでおきたい一冊です。
案3: フレンドリーな感じ
「SNSで公開した写真が盗用された!」「頼まれて絵を描いたのに、お金が支払われない!」などなど、権利に関するトラブルを見かけませんか? 本書では、著作権、ライセンス、契約などの権利問題について、多数の事例、判例をあげながらわかりやすく紹介しています。いざという時の弁護士の探し方もわかり、実際トラブルになっても安心!? 基本的な知識をしっかり抑えた、クリエイターとWebサイト運営者には必携の本です。
この3つのうちどの方向性がいいか聞いてみたところ、「脅しから入る」パターンが良さそうとのご意見でした。
「脅し」というと言葉があまりよくありませんが、ここでは、「トラブル回避、危機管理が重要」という警告を主体としたスタイル、という意味合いのつもりです。
推敲する
正直に告白しますが、私はそれほど文章がうまくありません。一発でうまい文章が書けることはまずありませんので、書いた文章を推敲します。
余談ですが、「デザイニングWebアクセシビリティ」の執筆の際も、一度書いた文章をほぼ全て書き直しています。無駄に思えるかもしれませんが、少なくとも私には必要なプロセスです。
しばらく頭をひねりながらいろいろ調整して、結果こうなりました。
著作権、ライセンス、契約といった権利のトラブルは、放置すれば大きな損失につながり、時にはウェブサービスが閉鎖に至る例もあります。本書では、そのような事例や判例を多数紹介しており、具体例を見ながら基本的な知識を学ぶことができます。当事者の体験談や、トラブル解決の具体的な手順など、実務にすぐに生かせる内容も充実。イラストレーターやデザイナーはもちろん、ウェブサービスの運営に携わる全ての方にお勧めしたい一冊です。
このあと、編集側で用語のルールに合わせた調整が入ります。文の主旨は変わっていませんが、どこがどう変わったのか探してみるのも面白いかと思います。
最後に
できるか自信のないことでも、やってみると結構なんとかなる、というのが私の持論です。今回もなんとかなったと思います (たぶん)。
初めての取り組みをする際は、悩みすぎないのがポイントではないかと思います。今回は、こまめに中間成果物を作り、それを共有して、叩きながら進めることを意識しました。このあたりは、ソフトウェア開発における「アジャイル」の手法と似たようなところがあるかもしれません。
結果として、今回はとても良い経験ができたと思います。コメントにも書いた通り、とても良い本だと思いますので、ぜひみなさん手に取ってみてください。