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ss●太陽と月_03


 クトゥルフ神話TRPGシナリオ
「蹂躙するは我が手にて」を題材とした二次創作ssです、御注意。
https://booth.pm/ja/items/2075651



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 エーリスが近付いてくると、果物で作った炭のような不思議な香りがした。城下町に居を構える家庭以外で、香を焚く家庭はそう多くない。
(偉い人なんだ)
 幼いセツナはぱっと顔を上げて、緊張した面持ちになった。
 そんなセツナの様子を気に留めず、エーリスは小石を払ってから隣に腰掛ける。セツナが寒そうにしていることは明らかだったので、羽織っていた絹織物を被せてやると、彼は居心地が悪そうに座り直して、エーリスから少し離れた。
(当然か、見ず知らずの男が近付いて来たのだから)
 ふっと息を吐いて、エーリスは話し始めた。
「私はこの洞窟が怖かったんだ」
 無視する訳にもいかず、セツナは小さく頷いた。
「でも、自分の中に怖いと感じる理由を見付けてから、怖くなくなった、理由を見付けられるようにたくさん洞窟のことを考えたよ」
 風がふたりの間を通り過ぎる度、不思議な香りが漂った。
 ふたりの視線の先で、洞窟に落ちる影が徐々に濃くなっていく。門の先には火が灯してあるのだが、入口から門廻りまでの通路は真っ暗になってしまう。
「怖いと感じる理由を見付けた後は、どうすればいいの」
 おずおずと、セツナは口を開いた。
「理由を見付けたら分かるよ」
「……」
 セツナは早速考え始めた、視線を額の上あたりに彷徨わせる。
「理由はすぐに見付けなくていいんだ、たくさん考えなさい、少年、今日は私と一緒に行けばいいからね」
 エーリスは立ち上がり、セツナが立ち上がるのを待った。
「私はエーリス」
「……」
 セツナは目をぱちぱちさせて、エーリスが差し伸べた手と顔を交互に見た。セツナがエーリスの顔をきちんと見たのはこの時が初めてだが、ほぼ影になってしまっている顔の中で、瞳だけが妙に印象的だった。エーリスの瞳は、夕陽と同じ色をしていて、妖しい光を湛えていた。
「……」
 セツナは慌てて立ち上がり、エーリスの小指をぎこちなく握った。
 ふたりは無言で歩き出した。
 紫色の絹織物が、風を受けてぱたぱたとはためき、また不思議な香りが漂った。絹織物を縁取る金糸は、太陽の光を受けると宝石のように輝くのだが、今は沈み掛けた夕陽がぼんやりと照らしているだけで、辛うじて存在感を発揮していた。


 ▶ 続き:https://note.com/bakemonotachi/n/nf371d66400a0



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