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ss●太陽と月_01


クトゥルフ神話TRPGシナリオ
「蹂躙するは我が手にて」を題材とした二次創作ssです、御注意。
https://booth.pm/ja/items/2075651



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 太陽か月かで喩えるなら、彼のことは全員が月に喩える。
 少なくとも、ベバイオン帝国史にはそう書かれるだろう。
 彼…―――――先代帝王エーリスは、湧き立つ生彩の無い代わりに、無遠慮に砂漠の民を照り付けるような横風さも持ち合わせていなかった。帝王家の誰もが内外問わず振り翳してきた権力を、やむを得ず弄んでいた。そんなものはさっさとオアシスの底にでも沈めてしまって、悠久に続く静かな水面を眺めていたいと、エーリスは望んでいた。

 鷹揚な振る舞いは美徳になることもあるが、何かと火種が多い国際情勢の中で、国民は不平不満を募らせるばかりだった。ベバイオン帝国の国民には、かつて国土を蹂躙された恐怖が根付いている。しかし、その恐怖心を凌駕する復讐心も根付いていた。飢えていた、誰しもの心がその国土のように乾いていた。彼等は戦争を歓迎したが、その眼には勝利しか映っていなかった。大多数の国民が、この戦争は"かつて蹂躙された帝国の輝かしい報復"の皮切りになると信じていたし、砂漠と化した国土を"先約の贖宥状"のように思っていた、すべて赦されて然るべきと考えていたのだ。
 結果的に、ベバイオン帝国には、新しい"贖宥状"が必要になった。
 対価は、帝国軍きっての将軍である。
 その名を、セツナ・デューン・オム=ヴィクトリアという。


▶ 続き:https://note.com/bakemonotachi/n/na03fabbf5047



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