第3の名前 ~ラジオネームにまつわるフィクション~

私は今、第3の名前を考えている。
大好きな女性アイドルがパーソナリティのラジオにおくるときに使うラジオネームだ。
ラジオは元々好きで、既に芸人のラジオにおくるときに使っている第2の名前があるのだが、それだとマズい。
”マラはち○こ”という深夜AM特有の、現実世界では絶対に口に出すことのないラジオネームなのである。
純朴である可能性が限りなく高い少女の口から”マラ”という単語を絶対に出させてはいけない(俄然、ち○こも)。
採用されたあかつきにはラジオを聞いたファンから一生恨まれるだろうし、そもそも採用されない。
だからこそ第3の名前が必要なのだが、これがなかなか思いつかない。

長時間苦悩してもよい。アイドルラジオにおけるラジオネームは、彼女達に呼んでもらう自分の愛称みたいなものなのだ。
芸人のときはただただ一瞬でもウケればいい、ウケなければすぐに変えればいいとでも思っていた。
アイドルの場合は名前を少しでも覚えてほしいという気持ちがある。
いつの日かの握手会で「いつもラジオにメール送っている〇〇です」と言いたい、そして彼女達の驚く顔を見たい。

学生時代のあだ名にするか、好きなスポーツや食べ物を入れたものにするか、楽曲名をもじったものにするか・・・考えれば考えるほどゴールが遠ざかっている気がしてきた。
参考になるラジオネームがあればと思い、陰茎の名で送っている方のラジオをタイムフリーで聞いた。
自分のメールが呼ばれるのを待ちつつ聞いていたら、ひとつ気になるラジオネームがあった。
それは”本名OK 磯部龍彦”である。
”磯部龍彦”が本当に本名であるかは分からないが、パーソナリティに本名を呼ばれたときの喜びは”マラはち○こ”を遥かに上回るものだろう。
芸人のラジオでたまに用いられるこの”本名OK~”というシステム、これは本来アイドルのラジオで用いるべきではなかろうか。
アイドルに自身の本名を呼んでもらえるというあまりにも貴重な体験は、限られた人にしか得られない。
しかしこのシステムを用いれば、ラジオでメールが採用されるだけでそれが味わえるのだ。

決めた。

本名が全国に晒されるリスクはある。
もしかしたら知人や同窓生も聞いているかもしれない。
だが、アイドルのラジオを聞いている時点で相当沼に浸かっているので、その人とは仲良くなれるはずだ。
これに決めた瞬間、私の両親はアイドルに呼ばれるためにこの名前を授けてくれたような気がしてきた。
第3の名前、というより第1の名前をメールの文頭に置き、あらかじめ考えていた内容を続けて書いて、送信ボタンを押した。
「初投稿です」という一文を忘れず添えて。

数日後、私はかじりつくようにラジオの前で構えていた。
初めての投稿でいきなり読まれるなんて淡い期待はしてないが、芸人のラジオよりはメール総数が少なく、読まれる可能性が高いとにらんでいた。
時報が鳴り、タイトルコールとともに彼女達の曲が流れ始め、簡単な近況報告をし始めた。
遊園地のCMをはさみ、ついにおたよりのコーナーが始まった。
メンバーの口からラジオネームが紹介された瞬間、歓喜のあまり私は狭い室内で飛び跳ねた。

「続いてはラジオネーム、本名OK 丸原まち子さんからのお便りでーす!」


いつもキレイに使っていただき、ありがとうございます。