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気づくなよそんなこと

(バカ公園・花)


大学生のころ、僕は星野源にハマっていた。
大学生の頃だから、2012年前後のことだと思う。


当時、オリコンを席巻していたのはAKBグループとジャニーズばかり。
裏流行りしていたのはクリープハイプとかTHE BAWDIESとかキャッチーなギターロックだった。
要するに、独りよがりなシンガーソングライターが出る幕なんてこれっぽっちもなかった。

シンガーソングライターとは、自身で作詞・作曲を務めるアーティストのこと。
星野源は、シンガーソングライターである。


天邪鬼な僕は、そんなに売れ線でないSSW・星野源にハマっていた。

天邪鬼とは、人の意に逆らった行動をする者のこと。
僕は、天邪鬼である。
SSWとは、Singer Song Writerの略のこと。Singer Song Writerは、独りよがりな職業である。


独りよがりな曲ばかり歌うシンガーソングライターに、どこか根暗な自分に重ねていた。

根暗とは、性格が根っから暗い人のこと。


その頃の星野源は、徐々に注目され始めてきたアーティストだった。今のように誰もが知っている歌手兼俳優ではなかった。2ndアルバム『エピソード』が感度の高い音楽ファンにフワッと評価され「なんかこの、星野源とかいうヤツ、いいかんじじゃね?」「前身バンドのSAKEROCKって知ってる?インストだけど割と良いよ」といった具合。


星野源は学生のころ不登校気味で、学校に行けなかった時期があった。人付き合いも上手でなく、恋愛も失敗した経験があるらしい。aikoと付き合っていたらしいが、aikoと付き合うってこと自体、どこか独りよがりな印象を感じざるを得ない。


そこから立て続けにシングル『フィルム』『夢の外へ』『知らない』をリリースする。この頃からタイアップも増え始め、3rdアルバム『Stranger』のリード曲『化物』のMVはなかなか話題になっていた。


星野源の評価が上がるにつれ、僕も少し嬉しかった。日陰者が世間に評価されていくサクセスストーリー。アーリーアダプターとして正しい立ち回りが出来ている実感。友達に「前に教えてくれた星野源って人、最近けっこー話題だよね」と言われる快感と言ったら、もう!

アーリーアダプターとは、マーケティング用語に於ける「ミーハーよりも感度が高く早い段階で流行に乗る人」のこと。


星野源は俳優としてもなんとな〜く存在感を出し、宮藤官九郎のドラマに出演したり、園子温の新作映画を主演したりする。


シングル『ギャグ』『地獄でなぜ悪い』をリリースして、認知度はどんどん上がって行った。



飛ぶ鳥を落とす勢いが続くかと思えたが、星野源はくも膜下出血で倒れた。
どうやら過去にも発病しており、再発する形で緊急入院、活動休止を発表する。




復帰した後に実施したライブで、僕は初めて星野源を生で見た。(ちなみに名古屋公演と広島公演で2回観ている、全く同じ内容だった)




それまでに観たライブの中で、一番良かった。

くも膜下出血から復活し、九死に一生を得たアーティストによるパフォーマンスは、ちょっとした奇跡のようにも思えた。


ライブを観た後、星野源ファン度数はグンと上がった。



シングル『Crazy Crazy/桜の森』のジャケットを真似て、ウィンドウチェック柄のジャケットを購入した。


その頃はサブスクも無かったので、過去のシングルを中古で入手した。

『ばかのうた』だと『兄妹』
『エピソード』だと『営業』
『Stranger』だと『スカート』
『YELLOW DANCER』だと『Week end』
B面だと『ダンサー』が好きだった。


テレフォンショッキングの出演を録画した。

タモさんにスーダラ節のスキャットを無茶ぶりしていたのも懐かしい。


ウッチャン率いるNHKコント番組『LIFE!』は毎週録画した。



アルバム『YELLOW DANCER』をリリースした頃、星野源は巷で話題のアーティストになっていた。話題にしている巷の一員として誇らしかった。星野源が敬愛するアーティスト・ディアンジェロのノリが詰まったネオソウルの名盤だと思った。



確信していた。
「きっと俺はこの先ずっと、生涯ずっと星野源のファンでいるのだろう」と。

ある時、ふと目に入ったコンビニのフリーペーパー。
表紙には話題のアーティストとなった(或いはこれからもっと話題になっていくであろう)星野源がいた。

新アルバムに関するインタビューが掲載されていたので、家でゆっくり読もうと思い持ち帰った。

アルバム曲を作っていく過程について、星野源が語っていた。

シングルカットである『Crazy Crazy』は元々スローテンポな曲で、くも膜下出血で床に伏せていた時に作った曲らしい。

では、何故スローテンポの曲をアップテンポで軽快なダンスナンバーにしたのか?というインタビュアーの質問について、星野源はこう答えていた。



「この曲は自分のルーツでもあるクレイジーキャッツをテーマにした曲で」


「このまま死んだらクレイジーキャッツのメンバーに会えるかなと思って」


「以前の自分だったら、そのまま暗い曲としてリリースしてたと思うんですけど」


「暗い曲のままリリースすることに違和感をおぼえたんですよね」


「暗い曲歌うのってやっぱ暗い人がやることじゃないですか」


「自分のこと根暗だと思ってたんですけど、そうじゃないなって思ったんです」


「自分が根明(ねあか)だってことに気づいたんです」

根明(ねあか)とは、根暗の対義語のこと。




...え?
いま思い出してもビックリしちゃう。え?
「自分が根明(ねあか)だってことに気づいた」の???
そんなことある???????????

てか根明って何???根が明るいの?????どういう状態??????

なんか今まで散々暗い感じでやってきたのに???
じゃあ今までの活動は全部ウソなの??????

てか根明って何??????

松明(たいまつ)じゃなくて???????????






でっかいクエスチョンマークが頭の上に浮かんだ。

凄く寒い日だったことを覚えている。





その瞬間から、どーーーでもよくなった。
俺の中で、星野源が「星野さん」になってしまった。
冷めたし、覚めたし、醒めた。
なんだコイツ。よく見たらただのオジサンじゃねえか。








その後、星野さんは『恋』をリリースした。『Family song』をリリースした。『逃げるは恥だが役に立つ』の主演を務めた。映画ドラえもんの主題歌を歌っていた。よくわからんドラマとか、ドコモのCMとか、コメディ映画の主演とかに起用されていた。『POP VIRUS』てなんやねん。新垣結衣と結婚した。根明な人なんだなーと思った。


持っていたCD、ライブDVD、全部売った。


聞くところによると、最近の星野さんは化粧とかもしているらしい。
キッツ笑笑笑笑笑

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