伊集院光/共同幻想論/配給された言葉

 伊集院光と、養老孟司の対談本「世間とズレちゃうのはしょうがない」を読んだ。
 対談本ということもあり、一気に読めたのだが、この本を読んで考えたことがある。
 伊集院光に対してはよく、頭が良い、バランスが良いと言われるが、本当にそうだろうかとずっと引っかかっていた。確かに、頭が良いし、バランスが良い。だから、ずっと好きだしかなりの影響を受けているのだけれど、少し立ち止まって考えてみたいと思った。
 100分de名著だけを例にとると、番組を見ていると、名著の本質を解説員の先生が話していると、伊集院さんは、よく、身近な例えを出して、まさにその通りです!と言われることが頻繁にある。
 確かにそれは凄いことなのだが、これって単純に伊集院光が頭が良いで片付けて良いのかなという思いがあった。
 これってその場で考えているんじゃなくて、前々から考えていたことがたまたま名著のテーマに合致したということなんじゃないかということだ。
 例えば、共同幻想論の回で、祖母が死んだ後に、飼っていたインコも死んだ、親戚は、祖母が可愛がっていたインコがおばあちゃんのお供をしてくれるために死んじゃったんだねと親戚の中ではそう収まるが、本当は、祖母が死んだことで、バタバタして世話が出来なかったことによるインコの死であるのだけれど、そうすると、親戚の輪の中にいられなくなるという例えを出していた。
 ふと思い出したのだが、過去に馬鹿力で、伊集院は住む人が自殺するということが多発するというアパートに対して、例えば家が欠陥で傾いていたり、間取りに違和感があることで、ストレスが溜まったり増幅しやすくなるということもあるんじゃないかと話していたことがあり、今思えばこれって共同幻想の話になっている。
 もちろん、そういう風に考え切っていること、その考えをスッと的確に出せることなどを総評して、頭が良いということになるのだけれど、逆に僕のなかでは、そこまで考えて、頭が良いと言うことができる。
 そして、これは吉本隆明が共同幻想論を書いた原動力である、遡って考え尽くすということにもつながっている。
 バランスが良いという言葉も同じく、言うは簡単だが、配慮ができているということと、これはもう受けよりも引きのほうが多いだろうなという審美眼や、優しさ、性格の悪さなどの組み合わせに他ならない。
 それはやはり、思考の先にあるものであり、生来のものであるとして褒めるという行為に違和感がある。
 これは僕が凡才だからということもあり、逆に努力や勉強で到達できるのではないかという希望からきていることもある。実際、めちゃくちゃ文章書く人をすごいと思っていたが、今ではここまで長文を書くことが出来ている。何より、ブログでの、KOC2017の感想と今年のを比べてみると、その差は歴然だ。 
 もっと簡単な例で言えば、お笑いでいうと、地肩が強いという言葉がある。平場やアドリブなどが凄いという例で用いられ、昔は使っていたが、いや、これって才能だけを評価して、努力を評価していないじゃねえかと思ってからは使うのを控えている。でもそういうことを言いたくなるう時は、体幹と言っている。体幹という言葉からは、ブレなさなどを感じられるし、プランクなどで鍛えているという努力しているという側面が想起される。
 個人的には、まだ上手くは言えないが、今のご時世、こういう風に、
 例えば、嘘松という言葉があるが、これは、SNSで嘘くさい発言をする人が、アニメのおそ松さんをアイコンにしていることが多いという偏見に基づくネットミームで、それは良いのだが、僕は、だったら嘘松じゃなくて、うそ松にすべきだろ!とその美しくなさにイライラしてしまう。これは、そこの違和感にも気づかずツッコまないような言語センスの無い人たちの間で広まったということだと思っている。
 チー牛という言葉も、チーズと牛丼というカロリーが高いものの組み合わせなのに、痩せている人を指しているところが全然クリティカルではなく、どちらも、うまいことを言っているでしょ感がたまらなく気持ち悪い。そして、炎上などの言葉と同じように、意味が変質していく。その変質も、ハマカーンの神田が言っていた水は低きに流れるという言葉の如き、楽な方へと移行してく。
 僕はこういった、ネットミームみたいなものを、配給された言葉と呼ぶことにしている。配給されたものを有難がって受け取るのは楽だが、果たしてそれで良いのかと止まる必要がある。戦時下で、あながち、非国民という言葉が嫌な広まり方をしたのはそういうことがあるのじゃないだろうか。時代が混乱する中で、そういう類の言葉が出ないとは限らない。
 余談だが、ここ最近めちゃくちゃ便利だなと思ったのが、hontoのアプリだ。最寄りに提携している本屋(ジュンク堂等)がないとダメなのだが、このアプリを通じて本を予約や取り置きができる。このアプリを使って、伊集院さんの本も簡単に買えたし、アルコ&ピースの平子っちの「今夜も嫁を口説こうか」という平子りがすぎるタイトルを言葉にせずに、予約することができた。

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