見出し画像

「土井津仁」命名考

漫画・浦安鉄筋家族の名バイプレイヤー、土井津仁のキャラクターのモチーフは言わずとしれた「フランケンシュタインの怪物」である。「科学者フランケンシュタイン」の名を怪物の名と混同するというよくある勘違いがあるが、怪物系に強そうな(?)浜岡先生なので、敢えて科学者の国籍から音を借りることにより、そういう勘違いはしてませんよ〜というメッセージも発信しようとしたのではとソレガシは邪推している。作中では有名人の名前をそのまま引用しているケースが多いので(大沢木小鉄→山本小鉄、西川のり子→西川のりお)さほど牽強付会とも思われないが…どうだろうか。

ただ、実は「フランケンシュタイン」という作品とドイツはあまり関係がない。フランケンシュタインという名前が確かにドイツの地名由来であるのでややこしいのだが、1931年の映画で「怪物」の視覚的イメージを決定づけた俳優ボリス・カーロフはイギリス人であるし、科学者ヴィクター・フランケンシュタインもスイスの名家出身でイタリアはナポリ育ち。留学先がドイツであったという接点をわずかに有するのみでドイツ人というわけではない。

まあ…そんなヲタクのしょうもない早口はともかくとして、怪物の外見を持ちながら豊かな人間性を持つ「フランケンシュタインの怪物」を「仁(おもいやり、いつくしみ、人間性)」というキャラクターで翻案しているのは素晴らしい。

第1巻の第5話の仁の初登場回、小鉄とノブが須賀という同級生?に「あんましいじめんなよ」「自殺しちまうぞ」と声を掛けているけれども、これは単なる強めのギャグというわけではない。実際にフランケンシュタインの怪物は人間に絶望し、造り手を喪った後(仁も父親を自殺で喪っている)に、最後に自殺したことが仄めかされているので、そのイメージが明確に重ねられているコマなのだ。

優しさを持ちつつ誰ともわかりあえず、命を絶つため消えた怪物から生まれたキャラクター。それが30年来の連載の中で、遊んで笑って友達の輪を広げ続けているというのはなんとも心揺さぶられる話ではなかろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?