「ゼロ魔」か?「ゼロ使」か? 「ゼロの使い魔」略称問題考
タイトルで「問題」などとは書いたものの、まぁ別になんら深刻な話ではない。
ライトノベル『ゼロの使い魔』、2000年代後半期を代表する有名アニメの一角とも言うべき作品に対し、略称として何を用いていたか? またどちらが適切か? という話題は、Twitterで長年にわたって繰り返されてきた。
この問題は正解があるようなものではなく、そもそもとして「きのこたけのこ戦争」じみた、じゃれ合い的な一面も有する。
以下では「ゼロ魔」「ゼロ使」という語、それらがインターネット上においてどのように利用されてきたかを数量的に把握し、その変化に対する考察を進めていきたい。
Q.公式の略称は?
A.無い。
メディアミックスが多岐に渡るので、どこかしらで使っているかもしれないものの、少なくともメディアファクトリーの公式サイト、アニメ3期の公式サイト(そのTwitter投稿も含め)において、そうした表現は見受けられない。
一応原作者であるヤマグチノボル先生が好んで用いていたものはあるのだが、それは単に「ゼロ」である。
これは第6巻以降の「あとがき」で見られる表現であり、このほかメディアミックス関係者もこの略称を用いることが多かったようだ。
(なお続報は無い)
原作者の意向がそうであるならば尊重すべき所ではあるのだが、これはあくまでそれだけで話が通じる閉じた集団ありきの話である。
現実として「ゼロ」という単語は一般的に過ぎ、不特定多数の人物が集まる場において利用できるものでも無いだろう。
略称に関する議論はあくまで経験や好みといった程度のものであり、正統性だとか妥当性だとかで語るのは、根本的に無意味であると言える。
Googleではどうか
長期的な数量的変化を調べることが出来るツールとしては、検索量の推移を視覚化してくれる、Googleトレンドが挙げられる。
青の「ゼロ魔」が赤の「ゼロ使」に対して圧倒的に優越、……と本来なら言えるのであるが、今回の結果に関してはそうではない。
黄の「ゼロの使い魔」は青とほぼ同値を示しており、これは短い検索結果「ゼロ魔」が、長い検索結果「ゼロの使い魔」を内包していると解釈すべきであって、どうにも使えそうにないのだ。
一応「ゼロ使」のみの数値であれば、何かしらの参考にはなるかもしれないが、どうにも検索回数が根本的に少ないようであり、根拠とするには薄弱と言わざるを得ない。
別のアプローチへと移ろう。
以前のGoogleであれば「検索結果」として、その語を含む全てのページ数を表示していたのだが、残念ながら現在はそれも出来なくなっている。
(僅かながら参考に出来そうなものはあるが)
そこで今回は「ゼロ魔」「ゼロ使」を期間ごとに指定し、
が表示される限界数、語を含みかつ明確に関連性の高い、現存するページの数量同士を比べてみた。
結果としては、全期間を通じて「ゼロ魔」が優越、ただし「ゼロ使」は近年に行くほど若干の増加傾向にある、ということが明らかとなった。
2ちゃんねるではどうか
同様のアプローチが可能な場所として調査を実施。
スマートフォンの普及より前、インターネット利用の中心がPCであった時代においては、最大の人口集団を抱えたコミュニティであったと言えよう。
乱高下激しいものの、平均すると「ゼロ使」使用率は14.1%にとどまる。
二次創作ではどうか
これに関しては「2008~2013年の範囲で特に『ゼロ魔』使用率が高い」ということの原因ではないか、と考えて調査を実施。
この頃のGoogle期間指定検索で、Arcadia作品がかなり上位表示されたというのもある。
ただまずはそれよりゼロ魔二次が先行して流行した場、2ちゃんねる系のクロスオーバースレに関する数値から。
と言ってもまとめwikiで検索を実施したのみである。
ゼロ魔 ゼロ使
ゼロの奇妙な使い魔 10件 0件
あの作品のキャラがルイズに召喚されました 39件 4件
完全一致検索にかけると思った以上に少なかった。
まぁ小説部分のみを抜き出して載せる場であるので、わざわざ作品略称を含むということも珍しいのであろう。
他にも色々とまとめwikiはあるのだが、基本的にこの2つ以外は細々したものなので割愛。
ただ派生の1つ、「型月のキャラがルイズに召喚されました」スレに関しては、wiki名に「ゼロ使×型月クロスSSスレまとめwiki」という表現を使用していたということは付記しておく。
続いてがArcadiaであり、2008年後半から2010年初頭頃にかけて、国内最大のweb小説の場だったサイトである。
そしてその単純な規模以上に重要なこととして、原作を分類する板名として「ゼロ魔」を使用したという点。
Arcadiaの投稿掲示板、特に専用板を持たない「その他板」「チラシの裏」投稿は、作品タイトル内に原作の表記を求められる場であり、そこでは多く略称が用いられていた。
これはあくまで多数派だった表現が先に存在し、専用板設置に際してそれを追認したような動きであって、主因というわけでは無い。
ゼロ魔 ゼロ使
捜索掲示板 4127件 152件
投稿掲示板 - チラシの裏 143件 6件
- 全て 64件 4件
しかし利用人口が多い場所というのは当然影響性も大きいものであり、そこで「ゼロ魔」が使用されたというのは、その後ゼロの使い魔二次創作小説の集団内において、表現が固定化されていく重要な契機であったと言えよう。
続いてにじファン、小説家になろう投稿作品の中から二次創作のみを選択して表示していた検索サイト(正確に書くと面倒)であり、2010年から2012年前半における最大のweb二次小説の場にあたる。
しかしまぁすでに閉鎖して久しく、全体量的な把握は不可能でもある。
ここでは総合評価上位の作品に絞って、どういう語を選択していたのかを見ていきたい。
にじファンの人気上位41作の範囲では、「ゼロ魔」という表現はそれなりに見られたものの、「ゼロ使」を使用している作品は存在しなかった。
実際のところ、「転生オリ主」という物語構造含め、二次創作集団がArcadiaから横移動していった面も大きいので、まぁこんなものなのだろう。
最後にハーメルン、現在における最大の二次小説投稿サイトにあたる。
ただまぁ2007年の二次創作流行から5年経っての成立でもあり、時期的なこととして、ゼロの使い魔二次創作自体かなり後退しているのは否めない。
ゼロ魔 ゼロ使
通常検索 59件 7件
捜索掲示板 222件 5件
上で見てきたものと大きくは変わらない傾向かと思う。
まとめ
ゼロの使い魔の略称として、インターネット上では全期間を通じて、「ゼロ魔」の方が一般的に使用されてきた。
2010年前後においては特にそれが顕著であり、二次創作小説流行の影響が大きかったものと思われる。
キーボードを打つ手間として捉えるなら、「ゼロ魔」であれば6手+変換で済むのに対して、「ゼロ使」となると9手+変換+1字削除、とかになるのだろうし、簡便な前者が多いというのはまぁ納得しやすい。
で、以下は「じゃあなんで2010年代半ば頃から『ゼロ使』が増加傾向にあるんだよ」という点に関して。
以降に関しては根拠が弱い仮説程度のものである、と一度断っておきたい。
ゼロの使い魔の流行は、主としてアニメが放送された2000年代後半であり、その当時ではPCを所有していなければ、まだまだネット利用も限定的にならざるを得なかった。
アニメを視聴し、友人同士の会話というような場で「ゼロツカ」という略称を使用、しかし当時のネットでのファン活動には絡んでいない、というような潜在的な集団はかなり多かったのではないか。
そうした人々もスマートフォンという新時代のデバイスによって、2010年代前半を通じてインターネットへと強固に結びつけられていく。
これと歩調を合わせて急成長を遂げたのがSNSであり、彼らはそこで「ゼロマ」なる見慣れない表現に触れることとなった……。
このあたりもう完全に飽きている。
Twitterなりもちゃんと集計してまとめたのであれば、多少マシな論になるかもしれないがまぁうん。
二項対立的に「ゼロ魔」「文語的表現」「PC世代」と「ゼロ使」「口語的表現」「スマホ世代(の一部)」、みたいに妄想したあたりで終了。
自身は二次小説を読み漁っていた身だから元々完全に「ゼロ魔」派であるし、福島県を除く全都道府県はたけのこ派。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?