馬楽の時間 91

「朝は4時起き 月まだ明かく(あかく)
    厩舎(うまや)へ走りゆく 吐く息白し」
 馬術部員は全員寮住まいでした。寮は5階建てで、馬術部以外の学生も含め300人以上入っていたと思います。2人部屋。私の部屋は210室。「朝だぞ」と近くの部屋の4年生が起こしてくれました。4時です。「まだ夜中だろう」。寮を飛び出して厩舎へ走ります。400mはあったかなあ?厩舎ではボロを出す人、馬に乗る準備をする人、とにかく歩いている人がいない。殺気立っている。
 1年生らしき仲間はただウロウロ。
 2年生の練習が始まった。
 何人もが一緒に乗る。後で知るのだが部班と言うらしい。上級生らしき人が号令をかける。周りに立った上級生が怒鳴っている。「拳を下げろ」「体をおこせ」「脚をつかえ」
 どうやら注意をしているようだ。こんな怒鳴り声、自分の人生で聞いたことがない。段々身体が固まっていく。緊張感が半端ない。「来るとこ間違ったんじゃないか?」。他の1年生の顔も引きつっている。
 同郷の先輩はまさに鬼。昨日満面の笑顔であんなに優しくしてくれたのに。
 私は体が弱く、高校時代はブラスバンド部に3日所属しただけ。大学の運動部が何たるものか、全く知識がない。大丈夫かなあ?

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