馬楽の時間 118

馬術部物語
 極寒の帯広に戻った。
 良く覚えていないのだが、大学紛争が尾を引いていた。授業がまともになかったように思う。ある日、機動隊が来ると言う情報が流れた。前日の夜は大雪。風は無く、大きな雪が音もなく積もっていく。学生運動家のアジが静かに流れていた。2月だったのかなあ?
 朝、マイナス30度。予告どおり機動隊が来た。完全武装で三方からじわじわ来る。機動隊を大学に入れることには反対だったので、馬術部の同期と2人、デモに参加した。ヘルメットなんか無い。運動家は全員ヘルメットに手ぬぐい。私はマフラーで頬かぶり。「機動隊帰れ~」
 真っ黒な盾の壁が三方から迫ってくる。生半可な恐怖じゃない。
 馬術部の先輩が見学に来て「三木田、危なくなったらこっちへ来いよ」と声をかけてくれた。こっちとそっちの境界には細い安全ロープが張ってあった。5分と持たなかった。俄か革命家はロープをまたいで安全地帯へ。
 本物の革命家たちもアッと言う間に囲まれ、主だった人は連れ去られた。
 問答無用。圧倒的な力。強大な権力。寒いだけじゃない、震えが止まらなかった。恐怖と怒り。権力に対する強烈な不信感が残った。
 後になって思うことだが、馬術部じゃなかったら何もする気にならなかったと思う。三無主義に落ちていったかも。無気力、無関心、無責任。
 馬術部は馬の世話は絶対欠かせない。頬かぶりのまま厩舎へ行った。


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