#1 ビジネスアーキテクチャって何だ?

IPAがDX推進スキル標準の一つとして、「ビジネスアーキテクト」を位置づけました。その役割としてデジタルスキル標準1.1には、「DXの取組みにおいて、ビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(=目的)を設定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する人材」と定義されています。
これだけ見ると、DXの推進とそのかじ取りに責任を持ち、活動そのものを指揮し関係者間の調整を図り、DX推進で得られる利得をゲットする役割を担っていると言うことになります。つまりDXの推進に全責任を持つ、推進リーダーということでしょうか。

一般的にビジネスアーキテクチャというと、エンタープライズアーキテクチャ(EA)において、ビジネスを取り巻く環境、ビジネスが持つ構造、ビジネスの設計思想などを、全社的(取引先等の関係会社を含む)な視点で理解するための行動を行うレイヤのことになります。つまり『ビジネス』という文脈において、その現状や将来の姿をすべての関係者が理解できるようにする、役割を持っていることになります。
イメージとして「デジタルスキル標準」にあるアーキテクトの役割と近いところもありますが、やるべき施策すべてについて総合的にコントロールする役割を持っているわけではありません。ということはその役割は別の人が担うというイメージだと思います。

この考え方を推し進めて行くと、「デジタルスキル標準」にあるビジネスアーキテクトはビジネスの環境や構造などを理解するための活動を行う役割と、DX推進を円滑に行い変革の目的を達成するリーダーとしての役割の2つがあると言えます。
つまり「デジタルスキル標準」で定義されるビジネスアーキテクトのスキルは、これまでエンタープライズアーキテクチャで想定されていた”それ”よりも守備範囲が広くかなり高度なものであるようです。

筆者は米国に本部があるBusiness Architecture Guild®という団体の会員で、そこが発行するビジネスアーキテクチャ実行のための知識ガイドであるBizbok®の内容を学んでいますが、これはエンタープライズアーキテクチャが目指すビジネスアーキテクチャに近いものです。主に、ビジネスの各要素をモデル化(マップ)しマップをクロスマピングすることで、ビジネスの様々な側面を可視化しようとする手法です。
またこれとは別に、北米に本部があるビジネスアナリシスの普及団体であるIIBA®という団体の日本支部で理事を務めています。ビジネスアナリシスもビジネスの現在と将来を理解するための手法を論理的に展開するものです。ビジネスアーキテクチャと異なるのは、ビジネスの一つ一つの要素を可視化するのではなく、ビジネスの現状を理解したり将来を構想するために、どのような観点でどのような情報を収集し分析するかを体系化したものです。またその知識ガイドであるBABOK®には、ビジネスアナリシスの仕事を効率よく円滑に進めるための人的スキルについても言及されており、「デジタルスキル標準」が言うビジネスアーキテクチャの概念と親和性があるように思えます。

そのように考えると「デジタルスキル標準」のビジネスアーキテクトは、ビジネスアーキテクチャギルドのビジネスアーキテクチャと、IIBAのビジネスアナリシスのスキルの双方を持つ人材ということになります。

さぁ大変なことになりました。IPAの要求は一人の人間にはちょっと荷が重すぎるかもしれません。でも、ここから役割を分割してチームでカバーできるようにすることで、解決の道が開けると思います。皆さんはいかがお考えでしょうか。

さて、ビジネスアーキテクトの定義について考えてきましたが、ビジネスアーキテクトが実行しないといけないのは、具体的にどのような仕事なのか次回から考えて行くことにします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?