おばあさんがくれたコーヒー
3月5日、吉都線に特急いさぶろう・しんぺい号が初入線するということで沿線に向かった。初めて走る道、何回も途中で停車してはスマホで地図を確認しながら、目的地の跨線橋に到着した。
三脚を立てて待っていると、明るい髪色のメガネをかけたおばあさんがこんにちは。とやってきて僕に温かい缶コーヒーをくれた。「なにが通るの?」と聞かれたので、「臨時の特急列車が通るんです。それを撮りにここへ」と答えると、「珍しいのがくるんだねぇ、私もいっしょにみようかしら。」と列車が来るのを跨線橋の上で待った。おばあさんは車で帰宅途中、僕が地図を確認するために停まっていたところを見かけたらしく、家に着くとさっきのバイクがあったので声をかけたという。
待つ間、おばあさんは僕に昔の話をしてくれた。
「私も列車好きなのよ。私のお父さん、昔は機関士やっててね。子どもの頃お父さんの汽車をよく乗りに行ってたわ。道路ができる前はこの場所も綺麗に草が刈られてね。鉄道写真なんかを撮りに大勢いらしてたの。本当にね、機関車ってかっこいいの。大きくて煙をいっぱい吐いて、凄い迫力よ。懐かしいわ。ディーゼル(気動車)に変わってからはあまり手が入ってないようで、悲しいわね。」
おばあさんはそう言いつつも、笑っていた。
近くの踏切がなり、赤いボディーのキハ140形がやってきた。あらかじめ置いたピントに車体が被ったとき、シャッターを切った。「特急いさぶろう・しんぺい」を捉えた瞬間である。
お話し聞いてくれてありがとうね。短い間だったけど楽しかったわ。とおばあさん。こちらこそ、貴重なお話しをありがとうございました。とお礼を言い、次の撮影地に向かった。
昨年に鉄道は開業150年を迎えた。鉄道は交通であるとともに日本の歴史であると思っている。そんな時代を飾る鉄道車両を写真という形でいつまでも残して、僕もいつか、おばあさんのように昔話をしたい。またひとつ、写真を撮る意味が生まれた。
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