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「アンダー・ザ・メルヘン」17

 その27 哀の逃避行
       BY トラグス

 ミスターヤマダのせいで表の人間が一時裏に入って来る事があったとは前に言ったよな。
 その時、ある表の警官と知り合いになった。事件の処理をする為だ。
事情を話して理解してもらうのは大変だったが。いや、理解はしてもらえなかったな。真面目な奴だった。
 そいつは自分の非力さを悔やんでいた。
 俺が表の奴を戻すのに少しだけ積極的になったのはこれが原因だ。理由は簡単。嫌な気分になったから。この手の奴は自分がどこにいて、何をやっているのかを、根本的に理解してない。困るんだよな。一気に現実が見えた時にパニクルから。凄いよな。それまで気付いて無かったって事だから。

 まあ、取りあえず駄目元でこいつに頼んでみよう。
 うまくいけば何とかなるかもしれない。でも・・・、7を殺せる奴がいる事も考えとかないとな。
 誰かが何かを企んでる。そりゃ確実だな。
 しかも・・・、これは考えたくはないし、本当にただの勘に過ぎないんだが、この一連の流れが、どうも俺にも関係があるんじゃないかと思えてならない。だって俺を狙ってた7が殺されたから。・・・いや、考えすぎだろ。

 人は常に極端な考え方をするものだ。ってよく言うもんな。
 こんなのは気のせいだ。そうであってなくては困る。そう思い込もう。
いや、俺は更に上をいくぞ。念じろ。念じるんだ。そうでなくなれ、と。
 困った。長年の事だからかな。反対の嫌な事しか頭には浮かばない。嫌な事を念じているみたいだ。もう止めよう。

 どうにか連絡がついてある場所で落ち合う事になった。しかし、こいつよく応じてくれたな。あの時の後悔した経験からか。

 俺は夜まで待って動く事にした。勿論、そこに行くまで細心の注意を払った。当然だ。
 車が3回。公共手段が1回。んん、その内、誰のか分からない車が一台、というか捨ててあったやつなのかな。
 そして最後に歩きだ。というか今歩いてるところだ。もうちょいのはずなんだけど・・・んん、もうそろそろ見えてきてもいい頃なのにな。
ああ、そういや何を血迷ったか、一回タクシーに乗った。
 最近のやつは運転手(一度だけ俺に目配せ。え?お前まさか?)がガムくれるんだな。知らなかった。びっくりしたなあれは。俺なんか妙にリラックスしちゃって。何でも聞くところによるとカラオケやっちゃう運転手もいるって事だ。隣のアホ女は一回それに乗ったらしい。
 それでこいつ運転手のマイク奪って歌いだしたら乗って来て目的地よりだいぶ離れた所まで行っちゃったんだってよ。やっぱりアホだ。
 しかし結構距離あるな。で、この隣の女の緊張感のない顔は一体何なんだ。
 口開いちゃってるから、ついでに顎も外すってのも面白いな。
 何か美味そうな名前の主人公が言うセリフでも言いたいくらいだ。言うべきか、言わざるべきかってやつ。それよりもこれ降板出来ないのかな。よく主役の奴が我儘言って、すいません。体調不良です、とかって。ふざけんな。今の俺に関しちゃあ我儘・・・かな。違う意味で。
 ああ、いつだったか新聞でシェークスピアは本当に存在したのかっていうのを読んだ事がある。
 後、そこに書いてあったのが、いや違う所で見たんだったかな。そいつ、他人の作品からパクッてた可能性もあるって情報もあったぞ。
 おいぃぃ、いいじゃないかよ。近くにいたら友達になれたかもな。
じゃあそろそろトラグミオとマリエットの悲劇(ある特殊な精神疾患の奴が見ても悲劇)に戻ろう。
 そろそろ見えてきた。ああ、そういやあの警官、名前何だったっけ。まあ、いいや。顔は憶えてるから。いやでも髪型変えてたら分からないかもな。それにあいつ、あんまり特徴なかったような気が・・・。ま、何とかなるだろ。

 

 その28 狂いマックス
      BY トラグス

 お察しの通り海沿いだ。え?何がって?俺達が今いる場所だ。イラつかれても困るから簡潔に言おう。
 よく昔の刑事ドラマに出てくる類のあれだ。あの、劇画タッチで一々現実には程遠い設定で、登場人物全員が揃いも揃って正義感漂う嘘臭いいつものあの感じを身に纏って、悪い奴も、もうホントいかにもって感じで。で、偶然という名の誰かの都合でいつも手際よく片付けられる。それも下手なシナリオの最後のドンパチの場面の・・、ええっと・・・あと何か苛つかせる為の遠回しな何かあったかな。もういい加減うざい?
 まあつまりだ。現実だろうが、非現実だろうがいつもの事だ。「いつもの」ストーリー上での辻褄合わせってやつ。
 そうそう。どっかのバカが運悪くここで誰がジョーカー引くのな。
 たしかここ、前までは薬の取引か何かに使われてた所らしい。そのもっと前は少しいかがわしい物が収められてたとか。段階なのかな。まあ、いわゆる廃倉庫ってやつ。
 俺はこの匂いが好きじゃない。潮の香りといえば聞こえが・・あ、本当の匂いね。でもこれ、目的と、時間的な事もかな、それが違うと潮って言っても何か嫌な匂いに感じる。
 何だ、段ボールが濡れて乾いたような感じの匂いが・・あ、そこにある。あれか。鼻がつんとくるんだよな。
 それよりも、匂いと匂いの違いが面倒臭い。本当のやつは香りって言おうかな。粋だろ?
 何か忘れてるような。何だっけ。ああそうだ・・。
「ありがとう」
  ん?何だ、またいきなり。理由を忘れちまった。
「何がだよ。気持ち悪いやつだな」
「一応は助けてくれたみたいだから」
 一応って言うんなら、別に俺は人助けじゃなくて、自分が嫌な気分にならない為にやってるからな。でもまあ、そういう事にしといてやろう。
 
 哲学・・なんて言っちまったらまあ、笑っちゃうよな。自分の人生考えれば特に。
 時々聞く話で、長く同じ仕事やってれば嫌でも哲学みたいな事を考えざるを得なくなるらしい。だってそれで生きてる訳だから。
 これの面白い所は、本当にどんな仕事でもそうなるらしい。
 今の俺のやってることを「仕事」と呼んでいいかは別にして、まさに読んで字のごとく、不意に俺の頭の中に、もう一周人生回ったらそう呼べそうなものという意味での哲学じみたことが浮かぶことがある。いや違うな。もっと直接的な言い方の方がいいだろう。
 現実。そう、それだ。
 何故そんなことが起こるのか。簡単だ。哲学と同じだろうな。世の中らしきものが見えてきたんだと思う。仕事を通して。
世の中が見えてきた。とくりゃあ次は何だ。段階だよな。
 そう。次はどうする?
 いやいや止そうやそれは。今更だろうよ。とっくに見えてるから。でも認めたくないだけ。何を?格好悪いからか?だからいつまでも同じところをグルグル回ってるのかね俺は。ついでに言えば「それ」が見えないように工夫しながらグルグルと。
 見えてきたついでに言えばそれは非常に格好悪いんだが、見た目的には同時に非常に面白い事でもある。

 普通、仕事が終われば皆、どこに行く?
 家だ。あればの話だが。
 何やら昔の推理小説には、大事なヒントが太字で書かれていたんだそうだ。こういう込み入った感じになってしまうのは、俺にとってのヒントであるとも考えられる。
 まさにそれ。
 「次」だ。

 んん?ああ、今度はさっきとは違う気持ちの悪い匂いだ。姿そのままの匂い。見れば分かる。要はまた馬鹿が来た。
「オイ、サラエルはどこだ。」


#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門


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