竜の戒名

山の稜線ごと消し飛ばしそうな轟音の後、狩人は「外したか」とだけ言った。
砲声ではない。銃声である。とてつもなく大きな銃だ。尋常の銃でなければ、射手も尋常ではなかった。墓場から蘇った死人のように細く生気のない肉体でありながらなぜこんなものを一人で扱えるのか、メイベルには想像もつかなかった。
「何を狙ったのよ」
衝撃にふらつきながら問う。ただ森を闇雲に撃ったとしか見えなかった。
「己が狩るのはドラゴンだ」
「あり得ないわ。ドラゴンは二百年も前に絶滅したもの。私のご先祖様の手でね」
何故か沈黙が流れた。メイベルが訝しみだした頃に男は口を開いた。
「……お前は、ヴォルスングの娘だったか」
「え?」
二百年前の竜の目撃現場はヴォルスング領。竜狩人を名乗る者が知っていても不思議はないが――
「ならば教える。来い」
男は巨大銃を担ぎ尾根を下り始めた。メイベルは慌てて後ろを追う。
「ドラゴンは種ではない。“発生”するのだ」

【続く】

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