ここはコンクリートのジャングル

男は石板を抱えて路地裏を駆けずり回っていた。電子タブレットではない。石板である。細かい溝の逐一すらも風化から護るために全体が樹脂の中に封じられたそれの価値を男は知らない。
ただ回収するだけのシンプルな仕事、という話を鵜呑みにはしなかった。油断もなかった。ミスもなかった。
慣用句で言う「エルフの森の枝を折る」ことだと思い知らされたのは、盗み出した後だった。
すぐに銃撃を受けた。敵の姿は見えず、翻弄されるまま逃げ回る羽目になった。
そして今、ついに姿を現した襲撃者に腹を撃たれた。致命傷だと自分でも理解できた。
「くそったれ…この…原始人が…」
暗殺者は銃口を下げた。月を背に死体を見下ろす影には長く尖った耳。エルフである。
曰く森の支配者、曰く長命種の原人、曰く叢林の狙撃手。
かつて文明によって森から駆逐されたエルフは、都市がコンクリートジャングルと化すとともにその新たなる密林に適応していたのである。

【続く】


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