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深淵さんを覗き込むとき

暗い。そして深い。僕が脚を踏み入れてしまった裂け目は、あまりにも危険だった。
取り壊しが決まって幾星霜、どういうわけか工事が始まる気配もなくただ荒れていくだけの旧校舎。僕たちは夏休みが明けてから流れ始めた、旧校舎に幽霊が出るという噂の真偽を確かるためにそこの探検に向かったのだが、
「だから言ったでしょう。足下に気をつけなさいって」
見事に古くなった廊下を踏み抜いてしまった。僕を見下ろす深淵(ふかぶち)さんは何の感情も窺えない口ぶりで僕を窘めた。膝まで埋まった足先の感触では踏ん張れそうもなく、引き抜くには少し時間がかかりそうだ。
「すみません深淵さん」
「あなたが言い出したことなのだから、せめて対処できるトラブルくらいには対処してくれないと困るのだけれど」
ぐうの音も出ない。しかし無理に深淵さんを誘ったわけではないのだが。
深淵織江、17歳。怪談収集部副部長。
霊感の類は何一つ持ち合わせてはいない。

【続く】

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