ドッペルゲンガー

およそ尾行というものは、それを警戒している人間には見破られるものだ。
つまり尾行という手段は、そもそも尾行されるとは思いもしない相手にしか使えない。
“ドッペルゲンガー”もその類だった。何故なら、誰も“ドッペルゲンガー”の姿を知らないからだ。尾行できるはずがない。ついこの間まではそうだった。
繁華街の人込みを力ない足取りで、しかし滑らかに人を追い越す歩みで進む特徴のない男。それが俺達の追う“ドッペルゲンガー”。この街で最も恐るべきスパイだ。ただ伝説のように囁かれる名前だったが、俺達はついにその情報を掴んだ。
それを追うのが俺の相棒のトラヴィスだ。距離こそ開き続けているものの、決して取り逃さない着実な位置取りで雑踏を進んでいる。
そして、それをビルの屋上から監視しているのが俺だ。
派手な格好の女がトラヴィスとすれ違った瞬間、俺は無線機に叫んだ。
「トラヴィスッ! 走れ! そいつが“ドッペルゲンガー”だ!」

【続く】

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