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MANIAC 感想レポート?①

2023年2月11日。
東北から埼玉までの新幹線に揺られながら様々なことを考えていた。私は今から、私の人生を大きく変えたStray Kidsのコンサートに参戦して、私の人生を大いに狂わせた男に会いに行く。
正直言うと、少しだけ怖かった。前回のコンサートはライブビューイングでの参加だったが、その時は「絶対にいつか生で観たい!」という感情が残った。
──では、生で観てしまったら?それで満足して燃え尽きることが怖かった。

けれど、開場時間を過ぎ、さいたまスーパーアリーナの会場に足を踏み入れた瞬間、そんな不安は胸の高鳴りと興奮にかき消されてしまった。

私の座席は400レベルの前から2列目。双眼鏡は必須だったが、全体を俯瞰するには申し分ない位置だった。それに、私の傾倒するチャンビンさんがよく立つ側の座席だったから、開演前から胸が躍った。心拍数を計測できるウェアラブル端末を身につけて参戦したのだが、開場から既に私の心臓は期待で早鐘を打っていた。こんなにワクワクする感情を味わったのは人生で初めてと言っても過言ではないかもしれない。
目の前にはステージと巨大なモニター。モニターには親の顔よりも見たMANIACの文字がゆらゆらと浮かんでいる。半年前、地元の映画館のスクリーン越しに見た光景が目の前に広がっていることに純粋に感動した。

開演時間が過ぎた。開演を知らせる「Question」が流れ始める。──なぁ、何が欲しいか言ってみな。そんな一言で始まる挑発的なコンサート。私達が欲しいものなんてきっともう全部理解されていて、彼らはそれを大いに超えたものを与えてくれるのだろう。私の期待は大いに膨らんでいた。

ドゥーン、と体の奥に響く重低音が会場に響き渡る。いつの間にかステージの真ん中に下降していた緑色の円状のスクリーンがゆっくりと上昇していく。8人のシルエットが視界にじわじわと入り込んでくる。そこに、いる。心臓が張り裂けそうなほど脈打ち、瞳孔が開いていくのを感じた。
毎日のように聴いて耳に染み付いているフレーズが、鼓膜を劈く。始まる。
セットリストの最初の曲はMANIAC。ツアータイトルを飾る、このコンサートのメインにして開演曲。私が彼らのことを知って最初に彼らのパフォーマンスを観た曲。
放心しているうちに終わってしまった、という印象が強かった。パフォーマンスの強さに圧倒されて、気づいたら彼らは静止していた。Poppin'を生で観れて涎垂れた、とか言おうと思っていたのに、そんな隙すら与えない完璧なパフォーマンスにただただ気圧されてしまった。

続いてVENOM。キリキリと響く糸を弾くような音が背筋をなぞっていく。ゾワゾワと不穏な感覚を覚えた次の瞬間、チャンビンさんの声が鼓膜に飛び込んできた。──気づかずにほらまた引っかかったね。ゾクッと心臓に突き刺さるような感覚。まさに毒を飲まされ、じわじわと効いていくような。生で浴びるVENOMの毒性はCDやメディアのそれとは大いに異なっていた。生のVENOMの毒は、助かる気配がない。完全に呑まれてしまった。

MANIACで圧倒し、VENOMで呑み込んで、Red Lightsで強迫する。コンセプトがよくできている。もう逃げられない。そんな感覚が脳裏を過ぎる。
首輪をつけ、艶かしい表情を浮かべる彼らから目を離すことがどうしてできようか。ライブビューイングでの破壊力も相当だったが、肉眼で見るRed Lightsはアルマゲドン並の衝撃だった。会場に響き渡る、甘く闇を含んだチャンビンさんの声に、私は脳を溶かされるような感覚を覚えた。こんなにセンシティブで大丈夫?って感じだし本当にこの人私より年下?
もう、放心状態である。

最初のMCが始まった。「ただいま!」の一言から始まるMCに、目頭が熱くなった。またすぐに帰ってくると約束してくれた夏のことを思い出す。
最初に1人ずつ自己紹介を兼ねた挨拶をしてくれた。チャンビンさんはと言うと、「遂に個人ジムをオープンしました!皆さんの個人トレーナー、チャンビンです!」と屈託のない笑顔を浮かべていた。かわいい。本当にさっきまであんなセンシティブな顔してた男と同一人物?

一通りの自己紹介と雑談が終わり、チャンビンさんが口を開いた。「次の曲は、簡単、ですよね?」
私はこの前振りを知っていた。夏のことを思い出し胸が高鳴る。簡単じゃない、簡単の名を冠した曲。一糸乱れぬ揃った隊列に圧倒され、2番のチャンビンさんのソロとヒョンジンとの掛け合いで発狂した。これを生で観たかった。コンサートではテレビパフォーマンスほど大きくキックをしないが、それでも十分な迫力だった。

続いてALL IN。スンミンが韓国語で歌っていたのが聞こえた時、本当に「生」のパフォーマンスなんだと実感して体が震えたのを覚えている。そして私が最も楽しみにしていた2番のチャンビンさんパート。失敗 Don't give a thang、の破裂音がビーンと鼓膜に響く。これを浴びたかった。バズリズムで聞かせてくれた強烈な破裂音を生で聞けて本当に感無量だった。

District9。ライブビューイングの時も同じ感想を抱いた記憶があるが、高音のパートを担うチャンビンさんに圧倒された。力強い高速ラップとしっとりした歌だけじゃない、あなたの声の魅力。こんな声も出せちゃうなんて、と陳腐な感想しか抱けない自分が浅はかで嫌だが、仕方がない。推しの魅力の前にオタクは知能を失ってしまうのだ(誰?)

VTRを挟み、一呼吸置いたところで会場内にコツ、コツ、と足音が響く。何が始まるのかと思ったところで聞き馴染んだノック音が轟いた。
Back Door。導入が最高すぎて鳥肌が立った。招待されていないと立ち入りが許されない裏口へ誘われたような感覚。わぁ、と思わず声が出た。
何度も映像で見たパフォーマンスが、まるでリプレイされているようかのように目の前で披露されている。これが「生」であることをつい忘れてしまう。
サビの一糸乱れぬ群舞もミケランジェロのアダムの創造をオマージュした振り付けも、絵画のように目の前に「ある」感覚だった。

続くcharmer。誰もいない立ち入り禁止区域に誘われ、催眠のような魔法をかけられる。8人の魅力的な魔法使い達の挑発的で艶やかな魔法にすっかりかかって逃げられなくなってしまう。そんな気持ちだ。
charmerといえば腹筋を見せる演出だが、チャンビンさんは今のところ腹筋を見せてくれないので私の命は辛うじて助かっている。

魔法の時間は終わり、ゆっくりと目が覚めていく。ステージにマイクスタンドが現れた。Lonely St.だ。しんみりとした楽曲だが、メンバー達はステージや花道の上を自由に歩き回ってファンサービスの嵐を巻き起こす。穏やかな優しい笑顔を浮かべながらファンとの交流を図るメンバー達の姿は双眼鏡越しにもキラキラ輝いて見えた。歌詞を踏まえた上でこの演出を見ると、苦しい道のりもメンバーやファンのおかげで乗り越えてこれたと伝えてくれているようなそんな感覚すら覚える。

続くSide effects。副作用。しっとりとした曲から急激に尖った曲に変わる高低差で風邪をひきそうだ。ライブビューイングの時も思ったが、フィリックスの喉から響く低音が体の芯にビリビリと痺れるように伝わってくるのが、心地よくもあり血の気を引かせるようでもあった。

暗転しVTRが始まる。怒涛の演出の連続で、もはやVTRの時間が休憩時間のような感覚だった。とはいえそれも光の速さで、感情を整理する余裕はなく、息を整えることで精一杯だった。

VTRが明け、歴史を感じさせる笛の音が響く。ステージの真ん中で羽織を翻しながらヒョンジンが舞う。モニターに墨でサラサラと川が流れるように文字が描かれていく。次の瞬間、荒々しい太鼓の音に合わせ力強い舞を披露するメンバー達の姿が現れる。私はこの直後に何が起こるかを夏にすでに知っていた。だから、この時点で私の心臓はドクドクとありえない速さで血液を身体中に送っていた。
ステージの中心に威風堂々と現れるチャンビンさん。始まる。雷鳴を彷彿とさせる強烈な破裂音を盛り込んだラップが会場内に轟く。数発の雷が落ち、すっと静けさが満ちた時、チャンビンさんがお決まりの一言を呟いた。──「俺様の名前は、何だ?」
これを、私は待ち望んでいた。これを私は生で聞きたかった。瞳孔がガッと開き、血が期待でふつふつと沸く感覚を覚えた。400レベルからの声なんて届かないかもしれない。そんなことは関係なかった。私は思いっきり彼の名前を呼んだ。歓声を浴びて満足そうな表情を浮かべていた彼が次の瞬間には達人へと変貌する。

Thunderous。普段とは違うバンドアレンジに心が躍る。原曲は歴史的で少し古風な雰囲気を纏っているが、バンドでの演奏になった途端近代的でロックな雰囲気へと成り変わる。同じ楽曲であることが信じられない。
そして私が何より昂ったのは、最初のチャンビンさんのパートだ。本来の歌詞は「소리를 지르는 내가 oh 창빈이란다」なのだが、この演出の時は「소리를 지르는 내가 "서" 창빈이란다」に変わる。俺様の名前は何だ?と聞き、レスポンスを受け、改めて自分でも名乗ることで刻みつける。そのたった一音の変化を鼓膜で聞き取れただけでもう満足だった。

休む間もなくDOMINOが始まる。怒涛のチャンビンさんラッシュに気が狂いそうになる。DOMINO冒頭のハイキックは演出の都合上かパンチに変えられていたが、それでも生で観れた感動が勝った。
パタパタとドミノが倒れていくように連なる振り付けも、映像で見たままで度肝を抜かれた。

一瞬の休符も挟まず、God's Menuに続く。DOMINOで注文されたピザを厨房で調理し提供する流れなのだろう。
「何を頼んでも五感を満足させる」という歌詞に引けを劣らない完璧なパフォーマンスに目を奪われる。横から見た隊列も恐ろしいほどに揃っていて、どの角度から見ても完璧になるよう計算されているのだと改めて思い知らされた。
彼らが好き放題に放り込んだ結果生まれた神のメニューに私は何度も舌鼓を打ち、何度もオーダーする。その幾多のオーダーの中でも、やはり目の前で見たそれは至高の逸品だった。

※あまりに長くなりそうなため、ここで一度区切ろうと思う。後半もゆっくり書き進めていく予定である。

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