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「自然と生まれた」ZETAの絶対的サポートcrow 声枯らし、チームとシーンを押し上げる

『VALORANT』競技シーンで常に国内トップシーンを走り続ける「ZETA DIVISION(以下、ZETA)」で、リーダーのLazを、そしてチームメイトを支え続ける存在がいる。多彩なアビリティを巧みに使いこなし "名サポート" として知られるcrowだ。

「確かに性格はサポート気質かなと思いますけど、人のためにスキルを使うことが多いので、そう見えるだけじゃないですかね」

本人は謙遜するが、チームメイトから寄せられる信頼とプロ仲間からの高い評価がその存在感を物語る。サポートに徹したかと思えば少人数戦では抜群の勝負強さを誇り、時に「チームの心臓」とも呼ばれるcrowの活躍もあって、チームは国内の公式大会「2022 VALORANT Champions Tour(VCT) Challengers JAPAN Stage1」で優勝。約1年ぶりに日本代表の座に返り咲き、4月10日(日本時間)からアイスランド・レイキャビクで開催される国際大会「Masters」への出場を決めた。

crowは国内大会を振り返り、モチベーションの源泉に「散らばった元チームメンバーには負けたくなかった」との想いがあったことを明かした。

異例の長旅に区切りをつけて

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プロeスポーツ選手としてのcrowを語る上で欠かせないチームがある。『Counter-Strike: Global Offensive(以下、CS:GO)』で国内最強を誇った「Absolute」だ。

Laz、現在はストリーマーとして活動するbarce、そして現REJECT所属のReitaとtakej。ここにcrowを加えた5人は数々の大会での栄光を分かち合い、苦楽を共にしてきた。『CS:GO』から『VALORANT』へと活動の舞台を移す決断も、前身となる「JUPITER」への加入も、「ZETA」へのリブランディングの際も、5人は一緒だった。

選手の入れ替わりが激しいeスポーツ界で、本人が「いつが最初だったか、もう正確には思い出せない」と口にするほど長期に渡って同じメンバーで活動することは、異例中の異例だ。crowも、そのことはよくわかっていた。

「5人でずっと続けられて、しかも複数のタイトルでトップにいたというのは、本当に他では味わえないことだったと思います」

唯一チーム継続にピンチが訪れたのは『VALORANT』への移行以前のこと。国内と海外ではプレイ人口や大会規模に大きな差があった。どれだけ国内で好成績を残しても、より高いレベルで戦い続ける海外プロとの差は開くばかり。自分たちではどうにもならない練習環境の違いに苦しみ、世界の頂点が視界に入らない状況だ。

活動停止も考えた。それでも、「誰かがじゃなくて、辞めるなら全員。という感じでしたね」と、絆は確固たるものだった。

結局5人は『VALORANT』への転向というチャレンジに成功し、自力で活路を開いた。2021年12月に行われたメンバーの変更によってその旅路は一旦の終わりを迎えたが、長きに渡って積み上げられた経験と絆は、間違いなく今もcrowの力となっている。

勝つための最適解になる

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さらなる躍進のため、メンバー変更を決断したZETA。crowはLazと共にTENNN、Dep、SugarZ3roと若いメンバーを迎える立場になった。

「Absoluteでもメンバーの入れ替わりはあって、僕が入った直後にLazとふたりだけになった時があったんです。なんとなく当時のことを思い出しましたね」

過日の思い出に浸るのも束の間、新チームとして始動したZETAでもcrowの役割は変わらない。ゲーム内では常に仲間を支援し、ゲーム外では積極的にコミュニケーションを図った。

「もともと、コミュニケーションを取るのが好きなんです。友達と深夜に何時間でも喋るタイプですね。今のメンバーでの活動はまだ半年も経っていませんが、ブートキャンプもやってお互いのことはよくわかっています」

洗練されたチームワークを武器に、ZETAはVCT Challengers JAPAN Stage1を圧倒する。自己採点では「最初の方は思うようにいかない部分もあったけど、修正もできたので80点くらいかな」と、まだ伸びしろを残しながら試合を勝ち抜いた。以前と比較しても「どんどん内容がキツくなっている」と苦笑するほど綿密な練習の成果だ。

ただ、試合で発揮するために「緊張しない」ように意識しているという。競技シーンに挑戦し始めた頃は試合前に手が震えることもあったが、場数を踏むにつれて落ち着いて臨めるようになったcrowならではの視点だ。

「緊張感って伝染すると思うんで、かたくならないようにしています。世界大会も最初は絶対に緊張感があると思いますけど、1勝すればリラックスして持てる力を全部出せる。そうすればいい結果につながるんじゃないかな」

常に周囲へ気を配り、遠くまで視線を届かせている姿勢は確かに「サポート気質」の言葉がしっくり来る。サポート役になったのは、チームが『VALORANT』を始めたときだ。ほぼ必須の存在だったセージを、メンバーが誰もやりたがらなかった。自然とその役回りを引き受けたが「別に嫌じゃなかったです」と話す。その理由は、至ってシンプルだ。

「良いサポートさえすれば、彼らは勝つだろうなって感覚があったので」

味方から寄せられる信頼と同じくらい、もしくはそれ以上に、crowも味方を信頼している。かつて強敵として対峙したメンバーの加入にも「負けてらんないな」と刺激を受け、日々高め合う関係性が築けている。

「人によって相性や向き不向きはあると思います。でも、状況を見て不足しているところを埋められるなら、そこを務めたい。勝つための最適解を出したいんです」

発信と研究を続ける姿勢

もうひとつ、crowには意識して続けていることがある。『VALORANT』に関する情報発信だ。自チームのこと、ゲームのテクニックのこと。大会の外でもトークを求められることも多くなってきた。

「やっぱり『CS:GO』の頃に、プレイ人口が増えなくて厳しい経験をしたことが生きていると思います。初心者でも入りやすいように、自分の知っていることなら何でも発信したいです。話すのはやっぱり難しいですけど、最近は抵抗もなくなってきました」

もともと戦略性のあるゲームが好きなタイプで、戦術についてあれこれ考えるのも苦ではない。好きなものに向けられる探究心は強く、好物のハンバーグ専門店について考えるあまり「なんとかレシピを知れないか、アルバイトとして働こうか真剣に検討した」こともあったという。crowにとって多彩な作戦を打ち出せる『VALORANT』は、その性格を発揮するのに申し分ない環境だ。

「同じ構成でもチームによってスタイルがあって、それによって対策も違ってきます。このゲームって無限に新しい戦い方があってすごいと思いますし、試合後にチームで話し合いをするのも、大変ではありますけど面白いです」

人数不利をも覆すフィジカルの持ち主だが「クラッチしなければいけない状況になっている時点でダメですね」と、あくまでストイックだ。理想は、相手を完璧に読み切って圧倒するパーフェクトラウンド。

天性のサポート気質に、戦略性を好む一面。加えて「時々、デュエリストが出ちゃう」と笑う好戦的な一面がミックスされ、唯一無二の "最強のサポート" を形成している。「試合後には喉が枯れちゃう」ほど声を張ることも多いが、それも試合に注がれる果てしない情熱の表れだ。

多彩な経験を武器に戦うcrowが声を枯らすほど、ZETAは更なる高みへと羽ばたいていく。

(取材・文 ハル飯田)

ZETA DIVISIONが日本代表として出場する公式国際大会「2022 VALORANT Champions Tour Stage 1 - Masters Reykjavík」は、4月10日23時45分(日本時間)からTwitchYouTubeにて配信予定。

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