村の料理人「草刈煌介」の軌跡~いかにして彼は料理人になったのか?いかにして周囲は彼を推してきたのか?〜
今から約2年前。
私がまだ村に移住したばかりの頃、娘が学校からあるチラシをもらってきた。
知り合いもおらず、それまで村のイベントに参加したことがなかったが「小学生料理人を応援したい」と食堂に向かった。
一口、猪汁を飲んで言葉を失った。単純に料理がものすごく美味しい。小学生にしては美味いというレベルではない。お店で出されても喜んでお金を払うクオリティ。
調理と配膳で忙しそうにしている料理人に声をかけ「自分で素材からレシピまで考えたの?」と聞くと「はい。今回のデザートについては始め違う素材で考えていたんですが、それでは酸味が少し強くて合わなかったので、色々試した結果、みかんにしました」
おおおお。ほんまに自分で考えて作ってるのか。
食事の後のアンケートに「独立してお店を出すならこうしたら良いのでは?」とアドバイスをめっちゃ書いた。
近い将来、彼が独立をしている姿が明確に浮かんでしまったからだ。
そこから、私は料理人「草刈煌介」のファンになった。
2年間、隠れファンとしてこっそり応援していたのだが、勇気を出して先日、彼にインタビューを申し出て、快諾してもらった。
当日までに事前情報を手にしておきたかったので、彼に伴走してきた方や応援してきた方々にヒアリングを行った。
その中で「推す側の共通点」を見つけてしまったので、今回の記事では彼の軌跡を3つのステップに分け、「草刈煌介」と「推し人」双方の視点から書いていく。
【ステップ①】「料理人になりたい!」
料理教室(参加者→企画補助→講師)
■料理のイベントを始めたきっかけはなんですか?
「猪肉を食べてみたい」と小学校5年生の時に参加したジビエ料理イベントが全ての始まりでした。
あの時に参加していなかったら、今の自分がありません。
そのイベントはさとのば大学の小曽根さんが企画をしていました。
イベント後、小曽根さんと雑談をしている時に「僕は料理人になりたいです」と伝えました。
それをキッカケに小曽根さんが「猪肉のハンバーガーを一緒にやってみない?」と声をかけてくれました。
よくわからなかったけど「とりあえずやってみる!」と一緒に料理教室の企画をしていくことになりました。
最初はほとんど小曽根さんにお任せをしていました。
僕が関わったのは試作品づくりと当日の運営くらいです。
でも、回数重ねるごとに自分がやることが増えてきました。
ちょっとずつ「次はこれもやってみよう」と進めていった結果、最終的には自分で企画ができるようになりました。
■地域の食材にこだわっているのですか?
小曽根さんのイベントで地産地消に力を入れていたこともあり、僕もそこにはこだわっています。村では学校給食に地産地消の食材が使われることが多いですし、僕のイベントでも村の野菜が美味しいことを伝えることができたら嬉しいと思っています。
食堂で使う野菜は村内の農家さんにお願いをしています。「毎回買ってくれてありがとう」と言われるとすごく嬉しいです。
【ステップ②】「お店を持ちたい!」
食堂開店(無料の場所でお店を開く)
■一番のターニングポイントはいつでしたか?
小曽根さんが村を離れたことです。
1人になり不安な部分もありましたが、料理人としてお店をもつことが夢なので「料理教室ではなくお店を開こう!」と決めました。きらめき食堂という屋号もその時に生まれました。
■自分で全部やると大変ではないですか?
Nestさんが共催や後援をしてくれて、試作品や企画の相談、子どもではできない場所の予約や告知をサポートしてくれました。
お店を開くことを面倒くさいと思ったことはありません。自分がやりたくてやっていることです。
毎回、来てくれるお客さんがいるし、イベントをするとファンが増えていくので、その人のためにもやりたいと思っています。
「子どもなのに上手だね」ではなく、シンプルにお客さんから「美味しかった」と言ってもらえるのが嬉しいです。
自分がお世話になった人が来てくれることもすごく嬉しいので、お店はやり続けたいです。
【ステップ③】「ちょっとずつグレードアップしたい。」有料出店(レンタルキッチン&出店依頼)
■村役場の調理室から飛び出し、今は色んなイベントに出てますよね?
はい。今まで役場の中の場所を無料で借りていましたが、お店を持つということは場所代もかかってくるので、その経験を積みたいと思いました。
なので、場所代を払ってお店を出すことも増えました。
最近は僕に出店して欲しいというオファーがくるようになりました。
イベントや飲食店に呼ばれて食堂をオープンしています。
■外に出たことで今までなかった出会いや体験ありましたか?
僕が料理イベントをやっていることを知って、郷土料理「ごんだら煮」づくりに誘ってもらいました。とっても面白かったです。今までのイベントはメインが自分ですし、当たり前ですが、作り方は知っているものばかりです。でも、参加させてもらった「ごんだら煮」は作り方も知らない状態が楽しかったですし、あんまり話したことなかった人と料理するのも楽しかったです。
■次はどんなことをしたいですか?
これからも同じようなことを続けながら、ちょっとだけグレードアップできるようにしたいです。
最近、白米ソムリエ、お米ソムリエ、梅干しソムリエ、梅マイスターの資格を取りました。
中学生になり勉強も部活もあるため、資格の勉強は毎朝5時起きで半年間やりました。やっぱり宣伝や集客をする時に資格はあった方が良いですし、試験内容はお米の歴史や文化から成分や品質など幅広かったですが、日頃から使える情報もたくさんあったので勉強になりました。
これからの出店予定を教えてください!
夏は2回出店します。一つはイベントへの出店依頼があり、8月3日土曜日「第二回ぐるぐるマーケット」に出ます。9時から12時までに来たら買えます。
自主イベントも予定しています。まだ場所は決まっていません。
13歳になり、SNSができるようになったのでつい最近アカウントを作りました。今後の情報はSNSで情報発信していく予定なので、ぜひチェックしてください!
<編集後記>
推すという行為は相互に作用しあうものである。
「推す」とは、前や表立った所に出るように力を加えること。
「反作用」とは、物体に力を加えるとき、必ず現れる逆向きの力のこと。
今回のインタビューを通して「誰かを推す=自分も押される(動かされる」ということに気が付いた。
反作用の関係は物体だけではなく、気持ちにも働くのだ。
常に「草刈煌介」と「推し人」の間には一定の距離がある。
「やるか、やらないか」
推し人はその決定権をいつも彼に渡している。
そして彼と一緒にやるかやらないかを、推し人もきちんと考えて決める。
お互いが選び合うことが、適切な距離をうみ、その距離がフラットな関係を維持している。
双方がフラットな関係であれば、作用がより強く発揮され、推した側はその力の分だけ、自分も押されて動く。周囲も自ずと変化する。
選び合うという緊張感の中にいても、彼はいつも穏やかでマイペースだ。
変に見栄をはることもなければ、ものすごく高い目標を掲げるわけでもない。出会った人たちに感謝しながら、等身大の自分で、次の一歩を踏み出す。
その一歩を推すといつの間にか自分の人生も動く。
私の人生も彼を推したことで、確実に動いた。移住したばかりの私にとって、彼は村への入り口だった。彼の食堂に行ったことで「こんな面白い子がいるのか!こんな面白いことを一緒にやる大人がいるのか!だったら、もっと色んなイベントに参加してみよう」と思えたのだ。
私が今、村の生活を楽しめているのは、間違えなく彼のおかげだ。
ありがとう。
<おまけ>
この4年間イベントをする際に毎回使っているメモ帳をみせてくれた。当日までにやること、材料の量、原価、調理工程、イベントのタイムスケジュール、チラシ案など情報がビッチリ記載されている。