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クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #92~シュザンヌ・ダンコ with エルンスト・アンセルメ ラヴェル『シェエラザード』(1948)

「20世紀最高のモーツァルト・ソプラノ」と呼ばれ

1956年のモーツァルト生誕200年に合わせて、この年の前後にレコードメーカー各社は様々なモーツァルトの音盤をリリースしたり、企画シリーズを発表したりした。
そんな中イギリス・デッカは、その演奏のクオリティ、参加メンバーの豪華さと適性さ、そしてそれを演奏しているのがウィーン・フィルだということも含め、現在でもその価値を認められているモーツァルトのオペラ代表諸作の全曲レコーディングを行った。
そのうち、ヨーゼフ・クリップスが指揮した『ドン・ジョヴァンニ』、そしてエーリヒ・クライバーが指揮した『フィガロの結婚』に参加しているベルギー出身のソプラノ、それがシュザンヌ・ダンコ(Suzanne Danco, 1911年1月22日 - 2000年8月10日)だ。
『ドン・ジョヴァンニ』では、ドン・アンナを、『フィガロの結婚』ではケルビーノを歌っている。

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この2つの全曲レコーディングもあってか、ダンコは20世紀における最高のモーツァルト・ソプラノと讃えられ、実際に1941年にイタリア・ジェノヴァでオペラ・デビューした時に歌ったのは『コジ・ファン・トゥッテ』のフィオルディリージだった。

アンセルメのお気に入り

しかし、その一方、フランスの作品にもその才を発揮した。
これにはダンコが専属契約していた当時のイギリス・デッカの看板指揮者がエルネスト・アンセルメだったことも少なからず影響している。
アンセルメと言えば、スイスが生んだ最も有名な指揮者で、フランスの近・現代音楽の、そしてバレエ音楽のスペシャリストだった。

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ダンコのオペラ・デビュー盤はモーツァルトではなく、1952年にアンセルメが録音したドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』メリザンドだった。

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アンセルメはダンコを理想のメリザンドとした(同時期には、もう一方のフランス音楽の天才、アンドレ・クリュイタンスビクトリア・デ・ロス・アンヘレスを迎え、やはりこのオペラを録音している。この2つは少なくともヘルベルト・フォン・カラヤンが、フレデリカ・フォン・シュターデを迎えて録音した全曲盤が出るまでは、この作品の双璧を成すな音盤だった)。

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そんなシュザンヌ・ダンコが1948年にアンセルメとパリ音楽院管弦楽団とレコーディングしたのが、ラヴェルのオリエンタルな名歌曲集『シェエラザード』だ。

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フィガロではケルビーノを歌っていることからも分かるように、ダンコの歌声はメゾの音域にも少し掛かり、その少し花曇り的な歌声が、フランス歌曲やオペラにマッチする(それはケルビーノをやはり得意としたメゾのシュターデがソプラノ声域にも近づいて、同じく『シェエラザード』を小澤征爾と共に残しているのと似ている)。

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決してムードだけでは終わらない、ラヴェルが織りなす魔法のような音世界にそっと寄り添う妖精のようなジュサンヌ・ダンコ。
『アジア』『魔法の笛』『つれない人』の3曲。


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