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クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #96〜ブルーノ・ヴァルター/ウィーン・フィルハーモニー ブラームス『交響曲第3番 ヘ長調 Op.90』(1936)

1936年5月18日、19日にウィーン・フィルハーモニーとセッション録音されたブルーノ・ヴァルターのブラームス『交響曲第3番 ヘ長調 Op.90』。
名演の誉高いオリジナル78rpmである。

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ブルーノ・ヴァルター(Bruno Walter, 1876年9月15日 - 1962年2月17日)が、1938年ナチス・ドイツに併合されたオーストリアの首都ウィーンを離れ、1939年秋、アメリカへ渡るまでの間を「音楽の放浪者」という表現で、この「note」でもその前後のヴァルターを取り巻く環境、そしてそんな不安定な状況にありながらも生み出されるヒューマンな彼の音楽を色々と紹介してきた。

そういう観点からすればこのブラームスは、ナチス政権樹立後、様々な妨害活動、それこそ命に関わる危機にも遭遇していたヴァルターが、ドイツを離れウィーンに本拠を移し、国立歌劇場やウィーン・フィルの定期演奏会に登場、W.フルトヴェングラーと人気を二分するほど音楽、生活両面で充実していた時期(決して長くは続かなかったが)と言ってよかろう。

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ワルターは39年にアメリカに定住するようになった後、ニューヨーク・フィルハーモニック、そして晩年コロンビア交響楽団と2回、ブラームスの交響曲全4曲をセッション録音している。
前者の明らかにA.トスカニーニの影響を受けたと思われる男性的な強さ、力でねじ伏せるような音楽の持っていき方は「温厚な人、ワルター」というイメージとは少し掛け離れているが、時代性と新鮮さを感じる。
後者は「ステレオ録音での記録」という意義が最も大きいが、音楽的にはコロンビア交響楽団との一連のセッションで録音された音盤が作り出したステレオタイプなワルターのイメージそのものである。

その点では36年録音のこの78rpmは「19世紀的ロマン主義と当時に主流であった即物主義の邂逅」とも言うべき、ヴァルターの音楽性と、それを見事に形にしていくウィーン・フィルの凄さを堪能できる重要な音盤のように思われる。


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