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クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #15~H.シュミット=イッセルシュテット/ベルリン・フィル ワーグナー『神々の黄昏』より『ジークフリートのラインへの旅』

少し前に、ハンス・シュミット=イッセルシュテットモーツァルト『魔笛』序曲の78rpmをご紹介しつつ、この職人的で、レコーディング・キャリアについては必ずしも恵まれていなかった指揮者について綴った。

1900年代初頭生まれの指揮者たち

以前から彼の78rpm時代、ドイツ・テレフンケンへ吹き込んだ音盤の魅力に惹かれていた。
時代の変遷期、つまり19世紀に誕生している所謂「巨匠時代指揮者」ではなく、20世紀初頭、この世に生を受けた新世代の指揮者たち。生年月日順にその名を挙げていけば、ハンス・シュミット=イッセルシュテットを筆頭に、エドゥアルト・ファン・ベイヌムヨーゼフ・クリップスオイゲン・ヨッフムアンタル・ドラティウィレム・ヴァン・オッテルローヘルベルト・フォン・カラヤンヨーゼフ・カイルベルト、そしてルドルフ・ケンペあたりまでの指揮者たち。
彼らにに共通する、ドイツ・オーストリア音楽の伝統を守りながらも、どこか颯爽とした新感覚を感じさせる音楽づくりが、恐らく私の性、嗜好に合うからだろう。

レコーディング・キャリアに恵まれず

特に、エーリヒ・クライバーに次ぐテレフンケンのハウス・コンダクターのポジションをヨッフムと分け合っていたシュミット=イッセルシュテットは、レーベルのカタログ充実のためでもあったのだろう。通俗名曲、有名ソリストの伴奏と、ベルリン・フィル相手に数多くの78rpmを残している。

ただし、戦後LP時代に入り、北ドイツ放送交響楽団の創設に加わり、仕事のフィールドがそちらに傾き始めた後は、前の記事に綴ったように「ウィーン・フィル・メイン」を感じさせる『ベートーヴェン 交響曲全集』、そしてヴィルヘルム・バックハウスの引き立て役に回り、同じくウィーン・フィルを指揮した『ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集』程度しか、彼の名前を深く留める音盤はほとんどない。
CD時代になり、北ドイツ放送響時代の放送用録音を聴けるようになったのは、せめてもの慰めだ。

【ターンテーブル動画】

今回は、そんなシュミット=イッセルシュテットの78rpm、ワーグナー『神々の黄昏』より『ジークフリートのラインへの旅』をご紹介。
オーケストラはベルリン・フィル。実は今日、フランスのディーラーから届いたばかりのフランス・テレフンケン盤だ。
シュミット=イッセルシュテットの78rpmの多くが、その正確な録音データを知ることがなかなかできない。資料がない。
恐らく1930年代後半、つまりクライバーがドイツを離れた頃の録音であるとは想像できる。

レーベル見るとワーグナーの名とともに、エンゲルベルト・フンパーディンクの名前が見える。歌劇『ヘンゼルとグレーテル』で知られるフンパーディンクはワーグナーに認められて、1880年と1881年、バイロイト祝祭での『パルジファル』の上演で巨匠のアシスタントを務めた。
実際にこの78rpmを聴いてみると、スコア通りでない部分もあり、恐らくフンパーディンクが何らかの理由で、この曲を効率よく聴かせるためにアレンジしたのであろう。

シュミット=イッセルシュテットにその機会は残念ながらなかったが、戦後のヴィーラント・ワーグナー様式によるバイロイト祝祭に、彼のワーグナーの解釈はぴったりだったのではないだろうか?
カラヤン、カイルベルト、ケンペ、そしてカール・ベームには『ニーベルンゲンの指環』を指揮する機会は与えられたが・・・。
少々残念ではある。



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