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【医院長ブログ】国内初の「乳幼児の頭蓋変形」に関する長期・大規模研究について

 お子様の頭の形を気にされて来院されるご両親から診療中によく聞かれる事には、「自分の子供と同じ様な変形をもつ乳児は、全乳児の中でどの程度いるのか」、また「小児科の先生からはそのうち良くなるといわれたが、このまま自然経過を見てよいのか。経過を見た場合はどの程度に治るのか。」という質問があります。

 これに対する返答には、乳児の頭蓋変形が客観的に的確に評価(変形の分類と重症度)され、その評価法によって評価されたある頭蓋変形を持つ乳児が、国内の同じ月齢の全乳児の中でどれほどの割合でいるのかが、分からなければなりません。さらに、変形の分類と重症度で評価されたある頭蓋変形が、自然経過でどのように変化していくのを、多くの乳児で長期に渡り経過観察しなければ分かりません。

 これらの質問に的確に返答できる国内での既知の情報は、実際には殆どありません。それは、なかなか計測が難しい乳児において、複雑な頭蓋変形を多くの乳児で短時間に評価する方法がなく(CT撮影を行えば可能ですが、放射線被爆の問題があり、また病気でない多くの乳児の頭蓋スクリーニングにCT撮影を行う事は実質的には不可能です)、そもそも頭蓋形状スクリーニング自体も今まで全くされてこなかったからです。また病気の経過観察と違い、頭蓋の形状変化を一人一人の乳児に長期に渡って、客観的な評価法で経過を見て行くことも、実質的には不可能であるからです。
 ある月齢や年齢において、ある種の頭蓋変形がどれほどの割合でいるのかという研究に関しては海外、国内に僅かにあります。方法としては、外傷やその他の理由で撮影された頭蓋CT画像を多く集めて、頭蓋形状評価方法を決め、そしてある月齢や年齢ごとに形状を評価し、ある頭蓋変形をもつ例が、その月齢や年齢の全例の中でどれほどの割合かを調べる方法があります。しかし、この方法では全く別の対象(人)で調べているので、同じ乳児の経過は分かりません。

 これらの課題に対して、世界で初めて日本人を対象とした頭蓋変形の実態を明らかにする研究が、長崎大学のメンバーを中心として長崎県五島地方で開始されます。乳幼児の健康診断時に合わせて頭の3Dスキャン測定により頭蓋形状を評価し、乳幼児の各時期(4か月、1歳半、3歳)の頭蓋形状につき、約5年という長期にわたり追跡調査が行われる予定です。 
 この研究により、日本の乳幼児の頭の形状に関する実態が明らかになり、頭蓋変形の要因・影響・予後を解析することが可能です。3Dスキャン測定・解析という客観的で的確な評価方法により、多くに乳幼児において、一人一人の長期渡る形状変化をとらえることができ、前述のご両親からよくある質問へエビデンスを持った返答が可能となります。また乳幼児の健診時に行なわれので、変形の要因や変形による発達などへの影響も検討することが可能です。

 本研究は、長崎大学生命医科学域保険学系リプロダクテイブヘルス分野教授の江藤宏美先生らが中心となって多職種専門職のメンバーにより行われますが、当クリニック東京院に勤務する草川功先生(元聖路加国際病院小児科部長)や、当クリニック診療顧問の細野重春先生(自治医大さいたま医療センター小児科・周産期科教授)もメンバーとして参加し共同研究が行われる予定です。

 当クリニックは日本では数少ない乳児頭蓋変形治療に特化した専門医療施設であり、頭蓋形状の客観的な評価方法により診断・治療を行っています。そして、膨大な診療実績を基に臨床研究を進め、多領域の学術集会・研究会などで研究成果の報告を行っておりますが、頭蓋変形の専門施設としては、患者様の為にこれらの基礎的な研究も推し進めてまいります。

今後とも皆様方のご支援、ご協力の程をどうぞ宜しくお願い申し上げます。

東京クリニック 院長 田中一郎