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変な記念樹

私の家には私が生まれた記念に植えたさざんかがある。

母が言うには

「お姉ちゃんの時は秋でねぇ。キンモクセイが良い香りの時期で、生まれた時期に咲く花の木を記念に植えたらいいんじゃないかとキンモクセイにしたのよ。だけど、おじいちゃんが匂いがキツいって切っちゃった。もうガッカリ。あんたは冬でさざんかが咲いていたから、庭に記念樹でさざんかを植えたのよ。さざんかは切られなくて良かったわ」

というわけでさざんかが植えられたらしい。

私と共に育ったさざんかはこの冬もたくさん花をつけてくれた。

花が散って寒さも厳しい年明け。
父がさざんかの枝をがっつり切った。きれいに剪定されたさざんかはお風呂に入れられたプードルみたいに細い幹と枝があらわになった。
でもその時、私は気づいていなかった。
さざんかに生えたアレに…
(と書くとホラーっぽいね)

3月。
季節も春らしくなって、さざんかの木のまわりにはふきのとうが出るようになった。
母が直売所で毎年ふきのとうをわずかばかり売っているのだけど、今年は高値で売れるらしくて私もふきのとうを探すのを手伝っていた。

毎日、さざんかのまわりを探していた。
アレに気づかなかったのは足元ばかり見ていたからかもしれない。

ある日、さざんかの前を通る時にふと幹を見て驚いた。
ずっと、さざんかに引っかけてあると思っていた金属フックがさざんかから生えていたのだ!!!!
しかも2本。

当たり前だけど、引っ張っても抜けるわけがない。

あぁ、私の記念樹。

切られるどころか金属フックが生えた変な木になってしまった。
ちょっとカバンを掛けたり、コートを掛けて作業するには便利かもしれない。
金属むき出しのでかいフックは何か掛けたら地面に着きそうだけども。

なんでこんな物が生えたかというと、多分だけど前回、父がさざんかを剪定したのがかなり前だったんじゃないかな?
その時に切り口にフックを掛けてすっかり忘れてたんだと思う。
やがて幹の切り口が塞がって立派な枝が生えて…と今に至る。

「ブラックジャック」の漫画に似たような話あったなぁ。
メスを体の中に忘れて、何年かして取り出してみたらカルシウムの殻に包まれて出てきたって話。
あれはフィクションだけど、こちらはしっかり木になった金属フック。
自然の力ってやはりすごい。

とはいえ、剪定した父はわかっているはずなのに何も言わない。
剪定してくれただけありがたいからいいけどね。

金属フックが生えたさざんかが記念樹なんてかえっていいのかもしれない。
こんなさざんかは世界中探してもなかなかお目にかかれないから。



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