ダンスホール

宙に浮かぶ、揺れる舞台の上で踊っていた。

靴紐が解けた。
ジーンズが下がってきた。
ベルトをもう一穴きつくしておくべきだった。
小銭が舞った。
眼鏡がズレた。
コンタクトにするのを忘れたことに気がついた。
怒りが落ちた。
汗が一滴垂れた。
ピアスが飛んだ。
一枚カードを踏んだ。
体が湿っているのを感じた。
音が毛穴から浸透してきた。
そうだ。
もうとっくに帽子は無くなっている。
手に持っていたモヒートのグラスは何処かに行った。
汗が一滴垂れた。

息を止めた。
体に入った音が心臓の鼓動とリンクした。
もうすぐ脳内物質と音が手を取り合いそうだ。
そうだった。
昨日使い切ったトイレットペーパー買うのを忘れた。
いつだかに落とした怒りを拾った。
ポケットに入れた。
それと引き換えにレシートが落ちた。
隣の人がぶつかった。
選択肢が生まれた。
そして止揚した。
そんなことをしているうちに後ろポケットに入れていた思い出を盗まれた。
そうか。
今日は土曜日だったな。
それにしても、舞台の揺れと、私の揺れにはどれだけの距離があるのだろう。
なんて考えているうちに、何処かに置き忘れた概念がポケットに戻ってきていた。
というか、ここはどこだったっけな。

あーあ、お腹すいたな。

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

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