寄生虫見えてるよ
あれは今から二十五年前、私が小学校四年生のときのこと。当時小学校では全校生徒を対象にギョウ虫検査というものがありました。それはセロファンタイプの検査紙を自分の肛門に押しつけ、指定の封筒に入れて先生に提出し、検査機関に菌を検査してもらうというものでした。この検査の嫌なところは、セロファンの×印に正確に肛門を押し当てなくてはならないところ。しかも一発勝負。自分自身ではどんな体勢でも見えないし、万が一失敗してわけのわからないところにセロファンを押しつけ、変な菌が検出されたらクラスの笑い者になると恐れたバカな私は、恥ずかしいけれどパンツを脱ぎ、四つん這いになって母親におしりを向け、セロファンを押しつけてもらっていました。当時友達もみんなそうしてもらっていたはずです。
ある日、学校で先生が「ギョウ虫検査やるから、明日までに持ってくるように!」と言いました。帰宅後、配られた検査袋を母親に手渡し、「明日提出だから朝忘れなようにやるから手伝って!」と私。「はいよー」と母。
翌朝、さっさと済ませようと母を呼んでパンツを脱ぐ私。母がセロファン片手に肛門に押しつけようとした瞬間......
ボソッとひとこと「あんた寄生虫見えてるよ......」。
私「は?何?」
母「だから寄生虫。白くて細い......やだ......大変......どうしよう」
私「寄生虫?いるわけないでしょ。何?どうなってるの」
母「あんたそのまま動かないでね。病院に電話してみるから!」
電話を終え、部屋に戻ってきた母。
「かかりつけの内科の先生がすぐ診てくれるみたいだからタクシー呼ぶよ!」
場所が場所だけに自分で確かめることもできず、パンツも履かずにタオルを下半身に巻かれ、「体をあまり動かさないようにね」と母に言われるがまま、つま先立ちでぎこちなく弱々しく歩き、タクシーの後部座席に横たわり病院に直行したのでした。
到着するなり、内科診察室の硬い診療ベッドにうつ伏せになり先生を待つ私と母。
母「ギョウ虫が腸のなかで育って寄生虫になったのよ、きっと」「シロ(当時家で飼っていた犬)が生まれたてのとき、糞に寄生虫がいたのよ。あれとそっくり」
そして先生が到着生「早速見せてくださいねー。四つん這いになっておしりむけてねー。はーい。そのまま動かないでねー」
緊張する私。一瞬沈黙。そして先生が言いました。
「お母さん......これ......エノキだね......」
脱力して下半身丸出しのままベッドでうなだれる私。確かに昨日晩ご飯、鍋だった。ババァ!とりあえず、となりの眼科今すぐ行ってこいやー!
(ラジオネーム:ブイNWSD 東京都・男性・34歳)
✔️ライムスター宇多丸による書き下ろしコメント
大山鳴動して鼠一匹、母親大騒ぎしてエノキ一本。まぁ、健康的には事なきを得たんだから、ホントはめでたい話のはずなんですけどね。その代わり精神に余計なダメージをくらってしまったという.....でも、日本のどこかには、エノキをセロファンにくっつけたまんま提出しちゃって、クラス中の失笑を買ってしまったというような人だっているかもしれないですからね。それにくらべればまだ、限られた大人の前でしか恥かいてないんだから、良しとしましょう!
それにしても改めて思い知らされるのは、我々みんなが、かつてはこんな風に、四つん這いになって、お尻の穴にセロファンを貼ってもらったりなんかしてるんだから......そりゃ母親もこっちのことを永久にナメてかかるだろうし、我々もまた、なんだかんだでずっと頭が上がらないのも当然だろうということですね。
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しかし、 奴らはその事実を笠に着て我々のプライバシーにずかずかと踏み込んでくる。たのむ、たのむから……
「ババァ、ノックしろよ!」
母性という名の無神経、通称、「母(ハハ)シズム」を、いま、告発しよう。
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