番外1.

 マヨナカで働くにはマヨナカに対して柔軟に対応できる人間であると陰陽庁に認めてもらう必要があるらしい。
「それって誰がどうやって認めるんです?」
 私が聞くと店長は
「なんか知らん間に陰陽庁の連中が調べているんだと」
 とぶっきらぼうに答える。どんな技術だ。
「じゃあ、私もいつの間にか認められてたってことですか」
「そうらしいな」
「……店長もですか?」
「そうらしいんだよ」
 そう言って店長は事務所に置いてあるクッキー(後輩ちゃんのお土産だ)をつまんで口に放り込む。店長の覆面は口が出ているタイプなので間食がしやすいのだろう。私のお面は顔全体を隠しているので飲食時にはいちいち外さなきゃならない。
「……なんで私のお面はこれなんですか」
「余ってんのがそれしかなかったんだよ。似合ってるぞ、お前ちんちくりんだから」
「店長、その発言、捉える人によってはパワハラですからね」
「まじで?」
「まじです」
 私はお面を外してクッキーをつまんで口に入れる。さっくりとした食感にココアの味が口の中に広がる。おいしい。
「じゃあ店長は陰陽庁の基準とか知らないわけですか?」
 私が尋ねると店長は頷いた。
「……店長みたいな口の悪い面倒臭がりでもマヨナカに来れるってことは基準は甘いんですかね」
「お前本当のこと言うなよぉ」
 照れるだろと店長は笑う。褒めてはいない。
「……ま、とにかく頑張ります。やることは普段と同じなんですよね?」
「おう、普段と同じだ。がんばれがんばれー」
 そう言って店長はひらひらと手を振りデスクに向かう。
 このあとマヨナカ初日の私は、開店と同時にやってきたのっぺらぼうのお客様に悲鳴をあげてしまい、先輩にしこたま怒られたのだった。

「——なんてことが昔にあってね」
「はあ」
 オオメダマくんの休憩中、私はキツネちゃんに昔の話をしていた。
「あのとき、私は痛感したね。”店長の言うことを信じた私が阿呆だった”と。基本的に説明不足が過ぎるんだよ、あの人」
 私がため息を吐き出しながら言うとキツネちゃんはなぜか笑った。
「なんで笑うの」
 私が聞くとキツネちゃんは
「コトリ先輩、店長おっしゃってましたよ。『あいつは説明がうまいから、口下手で口が悪い俺よりきっちりやってくれるだろ』って」
 と言う。
「……」
 つまり、全部お見通しだったのだ、あのオオカミ覆面の店長には。
「……こんなとき、どんな顔したらいいのかわからない」
 私が言うとキツネちゃんは
「コトリ先輩の面は顔が覆われているから大丈夫ですよ」
 と、また笑うのだった。

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