6.

「じゃあ、オオメダマくんは今から休憩ね」
 レジカウンターを出ようとする僕にコトリ先輩がそう言った。
「バックヤードで弁当食べるもよし、他の店に食べにいくもよし。……あ、従業員割はいつも通り使えるから安心してね」
「従業員証の顔と名前は隠さなくていいんですか?」
「うん、それはいいみたい。店員同士での確認だからかな」
 まあ、そこを制限してしまうとややこしいだろうなとも思う。
「あと、建物のそこかしこにも砂時計的なものが設置されているから、それを基準に帰ってきてね」
「わかりました」
 コトリ先輩の言葉に頷いて、僕はレジを出る。
 事務所でエプロンを脱ぎ、財布と携帯をポケットに突っ込んで
「じゃあ、休憩もらいます」
 と、店内で先輩方に声をかけて店を出た。

 ——さて。
 僕のバイト先は、この広大なショッピングモールの三階に位置している。
 三階はざっくり言うとエンタメのフロアで、書店のほかにアニメグッズ専門店や百円ショップにCDショップ、電器屋、雑貨屋などなど、バラエティに富んだ商店が軒を連ねている。ついでに同じフロアに映画館前で併設されているので広大さは推し量ってもらいたい。
 二階は主にファッションのフロアだ。多くの専門店のほかに、オシャレなカフェとか、プリクラが多めのゲームセンターなどがある。キッズスペースもあるので、休日は家族連れが多く集まるフロアだ。
 そして一階はその他の全てが集まるフロアだ。スーパーマーケットが丸ごと入っているし、大型の服飾品店やレストランもこのフロアにあるので、大雑把な用事はこのフロアで事足りてしまう。

 僕は三階にある書店を出て、一階を目指すことにした。弁当屋に行くにしろ、そこで食べるにしろ、僕はいつも一階で済ませているのだ。モールでバイトをすると従業員割の適用範囲が広いのでちょっと得した気分になる。
 時間的には深夜も良いところだが、労働するとお腹が空くのが人間の常だ。それにここは時間の流れが異なるらしく、どれだけ過ごしても外では二時間しか経過していないし、キツネ先輩に曰く「寿命も二時間しか減らない」らしい(どうしてキツネ先輩はそんなことを断言できるのかは気になったのだけれど、なんとなく恐ろしいので追求はしなかった)
 今更だが、他の店も平常通り営業しているらしい。
 ただ、客がいつもと違うだけだ。
 照明も少し落としてあるため、まるで夏祭りの縁日みたいだなとも思う。
 大きいもの。
 小さいもの。
 なんかうねうねしたもの。
 透けているもの。
 たくさんの非日常的存在が日常的モールの中に、当たり前のように存在している。
 興味本位で隣の雑貨屋を覗くと、驚いたことに一部の店員も非日常的存在だった。……そういうこともあるのか。
 実は当店にも何人かいたりするのだろうか。案外、キツネ先輩とかがそうなのかもしれないと僕は想像を膨らませながらエスカレーターに乗る。
 一階へ降りる前にちょっとだけ二階も見ることにした。
 二階のイベントエリアでは現在ハンドメイド作家による即売会が期間限定で開催されているはずだが、どうやらそのイベントはマヨナカでも続行中のようだ。ただし、参加している作家は昼間とは異なるらしい。
 並んでいるハンドメイドグッズにも『幻覚避け』とか『呪術反射(一回限り)』とか、怪しげな文言がちょこちょこ並んでいる。ちなみに見た限りで一番高額だったのは『致死無効(一回)』と書かれた腕輪で、モール内では見たことがないくらいゼロがたくさん並んでいた。
 もう少しいろいろ見たい気もするが、休憩時間には限りがあるので僕はある程度で踏ん切りをつけ、目的地である一階へと向かう。
 お気に入りの定食屋はこのフロアのほぼ中央に位置している。もともと良心的なお値段の上に、モールの従業員は一割引になるので、僕は三回に二回くらいはこの店で休憩を取るくらいお世話になっている。
「いらっしゃいませー」
 入り口をくぐる僕を出迎えたのはお面をつけた店員さんだった。

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