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腸炎との闘いの記録

こちらの記事は「はじめての虫垂炎」の後日談です。


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結論から申し上げる。
わたしは虫垂炎ではなかった。
一応病院で言われた病名は「回腸末端炎」
それが判明するまでの一年がかりの記録である。


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2月に起きた最初の腸炎。
結局は抗生物質による、いわゆる「散らし」を行った。
昔は虫垂炎というと、すぐに手術をしていたようだが、近年では再発しない限りは散らして経過観察することが多いらしい。

無事、一週間の投薬で症状も炎症も治まり、予定通り経過観察となった。



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問題は、7月に起きた。
またお腹が痛い。
しかし状況が前回とは違った。
隣の部屋にコロナウイルス陽性の妹が寝ている。
そう、濃厚接触者だった。

すかさずかかりつけ医に連絡する。
受けた指示は「法律でこの医院では濃厚接触者の診察ができない。大きな病院でPCR検査と消化器の検査をどちらもしてもらうように。」というものだった。

悲しいことに、発症したのは金曜の昼間だった。
そのとき、第何波かのピークも来ていた。
今から病院を探すところから始めるのか…?

地獄の病院探しが始まった。



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まず、濃厚接触者や陽性患者に対応している相談窓口に連絡をとった。
全く繋がらない。
本当に繋がらない。
自分の置かれている状況が、すでに詰みだとすぐに気づいた。

やっとのことで繋がった窓口に事情を説明し、濃厚接触者の診察をしている病院の一覧を教えてもらった。
30件くらいあったと思う。
もう金曜の診察終了が近い。
鬼電タイムが始まった。



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結果、土曜を含み診察をしてくれる医療機関は、ゼロだった。
絶望した。
この頃、まだ虫垂炎だと思っていたわたしは、腹膜炎を起こして死ぬのだと覚悟した。

コロナに殺される。

初めてコロナ禍に恐怖した。



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月曜日、朝8時。
また鬼電タイムがやってきた。
幸いまだ腹膜炎と思しき症状はなかった。
死にたくない。
その一心で電話をかけまくった。

かけ始めて30分。
何軒か断られた末、一箇所だけ、診てくれるという大学病院系列の医療機関がみつかった。
緊張がほぐれ、安堵した。


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病院に到着したのは10時頃だったか。
まずPCR検査から始まった。
プレハブに隔離され、防護服を着た看護師と医師が問診と検査と採血に来た。
検査結果が出る前に、すでに虫垂炎の検査は確定されていたようで、CT検査の同意書にサインをした。



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CTは放射線を用いる検査方法だ。
妊娠の可能性を確認する必要があった。
つまり尿検査がいるのだ。

しかしここでまた事件が起きる。
全く尿がでなかった。
酷暑のプレハブに隔離されていたことが仇となったらしい。
急遽点滴が行われた。
トータル1リットル。

結果、尿は出なかった。

医師との問答が始まった。
「出ませんか?」
「出ません」
「CTしますか?」
「していいんですか?」
「それは僕が聞きたいところです」
…察した。妊娠してるか、言質を取るしかないのだと。
「絶対に妊娠してませんから!!!確実ですから!!!検査をしてください!!!」
わたしの嘆願に、医師は頷いた。



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そこからは早かった。
待合室のよぼよぼのご老人を脇目に、優先的に検査された。
造影剤が体を駆け巡る。
ガラス越しに医師と技師が画像を食い入るように見ていた。

…これでやっと切ってもらえる。
この安心すら覆ることを、わたしはまだ知らない。



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医師と対面した。
妙な顔をしている。
虫垂炎だろ?切るだけだろ?
わたしは不思議に思い医師の言葉に注目した。

「虫垂炎ではありません。虫垂のすぐ横、大腸と小腸の境目…回腸と言いますが、そこが炎症を起こしてむくみ、周りのリンパ節もゴロゴロと腫れ上がっています。」

…???
腸が腫れてる?
なぜ?
切れば終わるんじゃなかったの?

「原因は不明です。炎症を薬で落ち着けてから大腸カメラをやります。」

長い夏が始まる。


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お盆というのは、暇らしい。
わたしの大腸カメラは8/15に決まった。
前日から専用のご飯を食べ、前処置の下剤を飲んで寝た。

朝7時半、激痛で目を覚ました。

下痢が止まらない。
内臓が雑巾絞りされているような痛みだった。
吐き気も出てきて、でも吐けるものもない。
次第に脂汗が吹き出し、意識が朦朧とし始めた。

救急車の呼び時を、その日覚えた。


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「下剤の効き過ぎです。」

わたしの救急搬送が、深刻な原因だったことがない。
なんならこの下剤は、乳幼児でも飲めるようなものらしい。
時間を割いて診にきてくれた主治医曰く、「こんなことになった人見たことない」
大腸カメラは延期になった。


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リベンジは9月の初め。
今回は2リットルの腸管洗浄剤を4リットル飲んで挑戦することになった。
さすがに救急搬送されることはなかった。

だがさらなる地獄はここからだった。

大腸カメラは女性に痛みが出やすいという。
理由は男性より近くに臓器が多いから。
また、腸が伸びやすい人が多いから。

わたしは後者だった。
分娩か?と言わんばかりの叫び声をあげ、酸欠になりながら検査を受けた。

「自家用車で来ないでください。」

当日の注意書きは読み込むことをおすすめする。
運転なんかできやしない身体になるから。
産まれたての子鹿のような足取りで帰路についた。


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「とてもキレイな腸です。炎症どころか憩室もない。異常は認められません。」

あくまでクローン病などの難病の可能性を確認するための検査であったが、ここまで棒にも箸にもかからないことなどあるのだろうか?

かかりつけ医に結果報告をした。
「なんでだろうね?」
笑顔でそう言われた。



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結局、10月と12月にも再発した。
10月は念のためCTを撮ったがやはり回腸の炎症だった。
12月の発症のときは、わたしの負担を考慮し、すぐに投薬のみでの治療となった。
そして完治した。

一年で計4回。
最近は2ヶ月に1回のペースだ。
それでもわたしは原因不明の腸炎。
ただその度痛みに耐え、薬で治すだけだ。

来年は何回再発するだろう。
浅はかだが、虫垂を切除して完治した人たちを羨ましく思う。
この記事を読んでくださるすべての方に、身体の不調は自分で原因を決めてかからず、必ず医師に相談することをお勧めして、今回の記録のまとめとする。

おしまい。

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