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Black protest songs of the June/July 2020

"アメリカは間違いなく大きな可能性のある国だ。
だがまだ若いから助けを必要としている。
噛み癖のある乱暴な子犬はしつけなきゃならない。
抱きしめてエサを与え愛してやる必要がある。
アメリカは黒人の存在抜きにして語れない。
この国を救うために身を捧げる黒人は大勢いる。故郷(ホーム)だからね。
アフリカに憧憬はあるがよく知らないし、実感がない。
黒人が正気を保っている限り、この国は将来的にも安泰だ。
問題があればダンスで表現するさ"
 2009.The Last Poets

SNSが漆黒に埋め尽くされたあの日をきっかけに、#BlackLivesMatterが世界的なムーブメントとなった。
そしてそれに呼応するように、多くのミュージシャンが新しいアンセムを生み出し、Black Protest Songの歴史における新たな1章が刻まれている。

世界的な歌姫・Beyonceによる突然の新曲発表などは日本でもニューストピックとして挙がっていたが、その他にも有名無名問わず、多くのアーティストが魂の声を込めた作品をリリースしている。
Instagramにオリジナルソングを投稿した12才のゴスペルシンガーがワーナーと契約をしたり、クラリネット奏者のAnthony McGillが「America the Beautiful」をマイナーキーで演奏したビデオを投稿したり、発信を民主化させたインターネットによって、アーティストのアクションが瞬時に世界中に広がっているのも今の時代の特徴だ。

アフリカ大陸から黒人が連れ出された19世紀から現代に至るまで、黒人アーティストは数々の音楽に魂の声を乗せてきた。
掘れば掘るほどに、素晴らしい音楽との出会いがあるのだが、本稿ではジョージフロイド氏の死以降に誕生した、新時代のBlack Protest Songを紹介したい。
この1ヶ月半で、本当にたくさんのProtest Songが発表されているのだが、20~30代の気鋭アーティストによる楽曲を中心に選曲した。洗練されたセンスで偉大なアーティストたちが繋いできたバトンを見事に受け取る彼らの発する「魂の声」を、ぜひ多くの人に聞いてほしい。

※Spotify/itunesでのプレイリストも記事最後にありますが、気に入った楽曲はぜひご購入を。売り上げが寄付になる楽曲もあります。

SAULT
『UNTITLED (Black Is)』


6/19に突如リリースされた、謎の集団SAULTによる全曲プロテストソングのアルバム『UNTITLED (Black Is)』。

We present our first ‘Untitled’ album to mark a moment in time where we as Black People, and of Black Origin are fighting for our lives.
RIP George Floyd and all those who have suffered from police brutality and systemic racism. Change is happening…We are focused.
私たちは、黒人として、そして黒人出身の私たちが自分たちの人生のために戦っている瞬間を記念して、『Untitled』を発表します。
RIP ジョージ・フロイド、そして警察の残虐行為とシステミックな人種差別に苦しんできた全ての人たち。
変化は起きている...私たちは集中しています。
(Message from SAUT)


SAULTは2019年に『5』『7』とそれぞれ数字を冠したアルバムをリリースしているが、その正体は不明。70年代のファンク、ソウル、ディスコ、アフロビート、ダブ、ESG、80年代のダンスミュージックなどを取り入れており、ざらつきがありながらも大胆なサウンドが逆に先進的でかっこいい。
(ネット上で調べるとその“正体”についての噂が飛び交っているが、ここでは割愛)

1曲目の「Out the lies」はまるで密室で録音されたかのような、漆黒のゴスペルだ。手拍子とともに「The revolution has come (Out the lies). Still won’t put down the gun (Out the lies)」という合唱(叫びのような)で始まるこのアルバムは、全20曲を通してBlack Lives Matterのことを歌っている。

本作は全編を通して、警察の暴力や制度的な差別に対する強い怒りが込められているが、音楽作品としての完成度がものすごく高い。
ジョージフロイド氏の死から1ヶ月経たずしてリリースされたのにも関わらず、前作よりも音楽性の深みが増しており、捨て曲なし。
身体の奥底に刺さるドラムビート、覚醒を誘うメロディの合間に、時折コラージュのようにサイレン音や叫び声などが散りばめられている。

怒り、悲しみ、励ましが内包された詩は神話の一節のようでもあり、宇宙的な普遍の真理をうたっていたりと、芸術性が高い。
短文で簡単なワードが多いので、ぜひ意味を調べながら聞いてみてほしい。

It's a hard life, fighting to be seen
It's a hard life, we were born to lead
Oh, be on your way
Things are gonna change
(Hard Life)
Will you tell the world who is Africa?
And everything you say is always aimed at killing her
Pray, pray, pray, indigo child
Just so you know, they call us monsters 'cause they're in denial
(Monsters)


ラスト3曲は穏やかで甘いサウンドで、世界中で闘う同士を励まし、包み込むように幕をくくっている。

音楽を介してBlack Powerの尊さ、強さ、美しさを見事に表現した本作は、まさに新時代における真のプロテストソングだと言えるだろう。
Erykah BaduやD'Angeloをフィーチャーした謎のアーティストSlingbaumも話題になったが、バンクシー的な「覆面スタイル」もめちゃくちゃクールだ。

なお、本作はSAULTのHPにて無料ダウンロード可能。しかしこの作品の奥深さを味わいたいならば、Bamdcampでプレオーダー中のVynalをゲットしてほしい。

※BandacampはJuneeteenthの売上の取り分をNAACPに寄付しており、SAULTは "収益は慈善団体に寄付される "と述べている。

Terrace Martin
『Pig Feet  feat. Denzel Curry, Kamasi Washington, G Perico & Daylyt』

Terrace Martinがリリースした銃声とサイレン、女性の泣き叫ぶ声をサンプリングしたイントロで始まる『Pig Feet 』は、凄まじい破壊力を持つ“危険”な曲だ。

ラップ×ジャズを掛け合わせ、Kendrick Lamarのプロデューサーとしても知られるTerrace Martinだが(Kendrickのグラミー受賞時、牢獄のセットでサックスを吹いていたのはTerrace Martin)彼はサックス、キーボード、歌も歌えてラップもこなす、超マルチなアーティストである。ヴォコーダーも取り入れていたり、身ひとつで多彩な表現をできるなんて、めちゃくちゃ豊かな人生だ…。

Pig= この豚野郎!(警官)
Feet=(膝で首を押さえ圧迫死させた)警官の足

Pigfeetというストレートなタイトルの通り、この曲には凄まじい怒りが込められている。N.W.Aに代表されるように、警官の暴力への抗議を込めたHIP HOPの楽曲は多いし、ラップは猛烈な怒りがストレートに伝わりやすい。この1ヶ月半の間にも、多くのラッパーが怒りをリリックに込めていた。

ラッパーが紡ぐ言葉は抗議活動を勢いづけ、人びとを駆り立てる作用があるのだが、本作はそれだけではない。
Denzel Curry ,G Perico, Daylytの攻撃的なラップと重力を解放するかのようなKamasi Washingtonの奏でるサックスの音色、銃声やサイレン音が混じり合い、混沌とした時代における凄まじい怒りが表現されているのだ。
なお、Denzel Curryの弟は警察官の催涙スプレーとスタンガンを用いた暴力によって弟を亡くしている。心の中から湧き上がる怒りがリリックに込められている。

音楽やアートは、時としてどんな啓蒙よりも激しく人を揺さぶり、価値観すらも変えてしまう。

「THE VIDEO TO THIS SONG IS HAPPENING RIGHT OUTSIDE YOUR WINDOW(このビデオはあなたの窓の外に流れている現状です)」

というメッセージから始まる本作のPVは、ぜひ最後まで見てみてほしい。
抗議デモの映像の後、エンドロールに羅列される無数の文字は、警官によって殺された黒人の名前である。
これを見て、同じ時代に生きるひとりの人間として、何も思わない人はいるのだろうか。
この曲が示す抗議は、決して当事者だけの問題でないはずだ。

Jorja Smith
『Rose Rouge』

HouseとNu Jazzの融合を成功させたSt Germainの名曲『Rose Rouge』を再構築したこの曲は、UKのレーベルDecca RecordsとBlue Noteがタッグを組み、今年9月にリリースする『Blue Note Re:imagined』からのリード曲。

煌びやかなピアノの音とグルーヴィーなサックス、地を這うようなドラムビート、そしてJorja Smithの妖艶な歌声が絡み合う本作は、Acid Jazzの名曲であるSt Germainの『Rose Rouge』を見事に昇華させており、原曲よりも幅広い層に聴きやすい作品になっているのではないだろうか。

おそらく本作のリリースは、5月のジョージフロイド氏殺害事件以前から決まっていたものであろうが、BlackLivesMatter運動に反応し、急遽ミュージックビデオが公開された。

世界中で起きている抗議デモの映像と共に、1900年代にレイシズムと闘った先駆者W.E.B. Du Boisや公民権活動家としても知られるジャズシンガーNina Simoneの言葉が浮かび上がっていく。

映像を手がけたイギリスとナイジェリアをルーツに持つプロデューサーSamona Olanipekunは「我々が生まれるずっと前から自由のために戦ってきた人たちと現在を結び付けることも重要でした。この戦いは我々がいなくなった後も続くでしょうし、今の我々に出来るのはこのバトンをつなぐことなのです」と語っている。

St Germainの原曲は60年代のジャズシンガーMarlena Shawの歌がサンプリングされているのだが、彼女の歌った「I want you to get together」というメッセージは23歳のJorja Smithによって紡がれた。

先駆者にリスペクトを払い、過去から新しいものを生み出し、前進していくパワーも、Black Musicが持つ大きな魅力と言えるだろう。

また、本楽曲と Ezra Collectiveの「Footprints」が収録されている7インチレコードの収益は、黒人コミュニティへの支援活動を行っている団体クワンダ (Kwanda)へ全額寄付されるという。
※BlueNote公式ショップはこちら

Amber Mark
『My People』

続いても、若手女性シンガーによるカバー曲を紹介。
ソウルの帝王TemtationsのEddie Kendricksの『My People...Hold On』を、Amber Markがカバーしたこの楽曲の売り上げは全て黒人の農地所有権を開発する団体に寄付されるという。
※ラッパーのケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)は母親がケンドリックス(Kendricks)にちなんで命名していたそう。

Jorja Smithの『Rose Rouge』と同様、気鋭の女性歌姫の美しい声によるカバーはリスナーの層をグッと広げると思う。本作も、Amber Markのソウルフルな声が心地よく、聴き惚れてしまう人は多いはずだ。

しかしこの曲に反応したのなら、Eddie Kendricksの『My People... Hold On』も聴いてほしい。

ディープでアフロなパーカッションの音とKendricksの独特なファルセットが呪術的なムードを醸し出すこの曲はAmber Markバージョンよりも土着的で危険性が高い。

そしてこの曲はKendricksのソロ名義での2ndアルバム『People... Hold On』におさめられているのだが、そのジャケットはブラックパンサー党の指導者ヒューイ・P・ニュートンの写真をオマージュしている。

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このアルバムがリリースされた72年当時は、Marvin GayeやStevie Wonderなどが牽引したニュー・ソウル全盛期。政治的・社会的なメッセージをファンキーでメロウでグルーヴィーなサウンドに乗せて発していた。

さらに『My People... Hold On』は、Erykah Baduが『New Amerykah Part One(4th World War)』で、J Dillaも『People』でサンプリングしている。

偉大なスターたちが発したメッセージは時を経ても劣化せず、力強い。そしてこの世界から差別がなくなる日まで、彼らの言葉と音楽は、何度も何度も語り継がれていくのだろう。

Leon Bridges
『Sweeter (feat. Terrace Martin)』

2019年のグラミー受賞歌手であるテキサス出身の新世代のソウル・シンガー Leon Bridgesが発表した本作は、残虐な暴力によって命を落とした黒人男性の視点から描かれている。

Hoping for a life more sweeter
Instead I’m just a story repeating
Why do I fear with skin dark as night?
Can’t feel peace with those judging eyes
もっと素晴らしい人生を願っているのに
同じ物語を繰り返しているだけ
どうして夜のように黒い肌で怯えなくちゃいけない?
断罪する目に囲まれ 安らぎを感じることができない

前述のTerrace Martinは本作でサックス奏者として参加しており、動画のライブバージョンでは、Robert Glasperも参加している。

ジョージフロイド氏の死を受けて作品を前倒しで発表したLeon Bridgesは以下のようなコメントを発表している。

テキサスで育った私は個人的にもたくさん人種差別を経験してきた。私の友人たちもそうだ。子供の頃から警察に呼び止められた時にどのように振舞えば良いかを教えられてきた。
慣れのせいで警察の残虐性に麻痺してしまい、何も感じなくなっていた。
そんな折に見たGeorge Floydの死は、私にとってラクダの背を折った最後の藁だった。初めて会ったことも無い人の為に涙を流した。
私はGeorge Floydであり、兄弟はGeorge Floydであり、姉妹はGeorge Floydだ。これ以上黙っている訳にはいかないし、黙っているつもりはない。
アベルの血が神に叫んだように、George Floydの叫び声が私には聞こえる。

排他的な島国で差別とはほぼ無縁に育った日本人である私には、日々差別にさらされる黒人の気持ちを本当に理解することはできない。

しかしLeon Bridgesの優しくあたたかい歌声とTerrace Martinの優しいサックスの音色を聴いていると、胸が締め付けられ、涙が流れてしまう。

この曲を通じて、彼らの痛みを理解し、寄り添い、アクションを起こす人が世界中に増えることを願いたい。

H.E.R.
『I Can't Breathe』

2016年にデビューした、R&BシンガーH.E.R.。Alicia keysが強く推す新人であり、2019年にはグラミー賞5部門にノミネートされた気鋭のアーティストである。
今現在はその年齢(現在23歳)や本名も明かされているものの、デビュー当時はメディアやSNSへの露出を最小限に減らし、ライブではサングラスを着用し、ミステリアスが話題になっていた。
彼女が正体を明かさなかった理由は、自身の音楽のメッセージをより的確に受けとってもらうため。
米ELLEのインタビューでは「世間に、私がどんな人とつるんでいるかとか、関係ないことを気にせずに私の音楽を聴いてもらえたし、自分も音楽だけに集中することができた」と語っている。

深く重いベースとビートの上で、H.E.R.が美しい声で祈りのメッセージを歌う本作は、アメリカのネットアプリ「iHeartRadio」のリビングルーム・コンサート(配信)で発表された。

Praying for change cause the pain makes you tender,
変化を祈りましょう、痛みがあなたを優しくするから
 All of the names you refuse to remember/Was somebodys brother, friend/Or a son to a mother thats crying, saying/I cant breathe, youre taking my life from me.
あなたが思い出すことを拒んだ全ての名前 / 誰かの兄弟、親友、息子が泣いている、歌っている / 呼吸ができない 私の命を奪おうというの

さらにH.E.R. は6月18日に、音楽レーベルRCAレコードのレーベルメイトであるミゲル、コフィーやエイサップ・ファーグらスペシャルゲストを迎え、Instagramの配信イベント「Girls With Guitars BLMスペシャル・エディション」を行い、H.E.R.が指定した非営利組織「ロック・ザ・ヴォート」への寄付を募った。

自身のキャラクター性ではなく純粋に音楽を聴いてほしいという信念を掲げ、SNSをファンサービスの場ではなくコミュニティとして活用するその姿勢は、新世代ならではだ。純粋なアーティストであるH.E.R.が放つメッセージは、まっすぐに心を打つものがあった。


プロテストソング=抗議の音楽と聞けば、N.W.Aに代表される90年代以降の警察による暴力を批判したHIP HOPやBillie Holidayの "Strange Fruit "のような古典作品が想起されがちであるが、ここで挙げた楽曲が物語るように、Black Powerを秘めた音楽による抵抗の手段はそれほど単純に語れるものではない。

もちろん直接的な歌詞は人びとに警告を与えたり励ますが、暗号のように先人の紡いだコードを忍ばせたり、白人にとってはパーティー音楽であったJAZZやBluesのようにトリックスター的に行う抗議もある。Black Protest Songはどこまでもアートなのである。

音楽は、言葉よりも深く人に入り込み、刺激と衝動を与えるものだ。
そしてそれをよく理解し、巧みに扱う黒人が紡ぐ音楽は、人びとの精神性が高まる(であろう)新時代において重要なシュラインとなると私は信じている。



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