見出し画像

西日照るチューリップ畑

毎日新聞イラストコラム
カントリースケッチ
No.75 【西日照るチューリップ畑】
 

 「日差しがあるから、これを被って行きなさい」 出かける前、母は次女に帽子を手渡した。なんだか見覚えがある、と裏のタグを見ると、そこには私の名前が書いてある。なんと私が幼少期に被っていた麦わら帽子だ。物持ちがいい、といえば聞こえはいいが、実家には思い出と共に年月がピタリと止まったモノ達がいくつも息を潜めている。 
 春の嵐であっという間に散ってしまった桜。花見の代わりに、私の両親と堺のハーベストの丘へ行った。動物とふれあえたり、農産物直売所があったりと子どもから大人まで楽しめる農業公園だ。以前にも増して遊具が充実していて、子どもと一緒だと敷地奥の花畑へなかなかたどり着けない。    やっと着いた時は閉園間際。汗ばむ陽気のなか、西日に照らされたチューリップ畑がまぶしい。色の間を歩くたび揺れるリボン。帽子は娘によく似合っていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?