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DSDsの話.6-性分化疾患とTwitter上での言説-

はじめに

DSDs当事者としてのお話もいくつか記事を書けたらいいな、と思っています。本記事は全文無料にて公開しておりますが、何かしら参考になりましたらご支援頂けると助かります。

性分化疾患という概念とは何か

 一部の人は初歩的なことから勘違いをしているようだが、性分化疾患、DSDs、あるいは「インターセックス」とは40〜60種類以上とも言われる性染色体、性腺、内性器、外性器のいずれかが非定型的な先天性疾患の総称である。決して「性分化疾患」や「DSDs」「インターセックス」という単一の疾患や身体状態が存在しているわけではない。Twitter上ではしばしば「性未分化症」などと書かれているが、そのような疾患は存在せず「性別が未分化」というわけでもない。ヒトでは男性に分化しなければ必ず女性に分化するからだ。「性分化疾患」が単一の疾患でないことは「生活習慣病」や「自己免疫疾患」という単一の疾患や身体状態が存在しないことと全く同じである。生活習慣病とは生活習慣がその発症や進行に関与する病気の総称であり、糖尿病や脂質異常症、高血圧や脳梗塞などが含まれる。自己免疫疾患とは免疫が自分自身の体の一部を攻撃してしまう病気の総称であり、関節リウマチや全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群などが含まれる。このように性分化疾患も単一の疾患ではなく、その中には私の疾患であるターナー症候群の他にクラインフェルター症候群、ロキタンスキー症候群、アンドロゲン不応症など多くの疾患が含まれているのである。
 逆に「単一の状態は存在しない」という言葉を曲解して「状態は人それぞれ」とポーザーの擁護に利用されることがあるが、厳密に言えばそれもまた違う。これもまた「性分化疾患」という単一の疾患の「状態は人それぞれ」だと誤解されている可能性すらある。「状態は人それぞれ」とは、単に「単一の疾患ではない」というだけの意味である場合が多く、同じ疾患を持つ者同士であれば当然だが、現れる症状や必要な治療は概ね似通っている。その疾患で出ると言われている症状が出ないことは多々あり、重症度にも個人差があるのは確かだが、その疾患で起こり得ない症状は「状態は人それぞれ」と言えども出ない。そしてその疾患において、高確率で出ると言われている症状が出ないケースもやはり稀である。これはDSDs/ISに属さない疾患についても同じであり、手足口病なのに発疹が出ない、ということは考えづらいだろう。熱が出ないことはあるかもしれないが、1/3には微熱が見られるそうだ。私が初めて罹患したのは24歳だったため40℃近い高熱が出たが、これこそが「人それぞれ」の正体である。もし発症中に喘鳴がするならそれは手足口病の例外症例ではなく、喘息を疑うべきである。発症中にたまたま骨折したからと言っても、それを手足口病のウイルスによるものと考えるのは難しいだろう。いくら人体について未知の部分が多く、症状に個人差があるとしても、そのような症状を手足口病の症状に含めるべきではないことは明白である。DSDs/ISのどの疾患であってもそのことと何ら変わらず、医学的なエビデンスに基づき診断される身体疾患でしかない。「状態は人それぞれ違う」「個人差が大きい」「人体の仕組みは全て解明されていない」等の言葉でDSDs/ISではあり得ない状態も起こるのだ、ということにはしないでもらいたい。通常その疾患で起こり得る症状しか起こらないのは、病気における基本中の基本ではないだろうか。まるで「インターセックス」というアイデンティティや個性かのように扱われ、それを病気と呼ぶのは差別的であるかのような誤った認識がされることがあるが、どれもただの身体疾患である。生まれてすぐ命に関わる疾患もあれば、ストーマが必要になる疾患もある。
 このようにDSDs/ISとは病気である以上、疾患名を抜きに身体状態について話すことはできない。「性染色体がキメラ」や「男性ホルモン値が男性並みの女性」「生まれた時は女性だった人が男性化」のようなセンセーショナルな身体状態だけを切り抜いて雑に投げつけられても困るのである。それは一体何の疾患の話をしているのか、そもそもちゃんと実在する疾患なのか、疾患名で認識できている人がどれほど居るのだろうか。おかげで私は常に身体状態から疾患名を推測しつつ話を聞いているような状況だ。「性染色体がキメラ」は「卵精巣性DSD」の話がしたいのだろうか?「男性ホルモン値が男性並みの女性」は「アンドロゲン不応症」のことを言っているのだろうか?「生まれた時は女性だった人が男性化」は恐らく「5a還元酵素欠損症」の男児が多いサリーナス村の話でも聞きかじったのだろうか?疾患名から切り離して身体状態のみで考えることは、「性染色体の影響で思春期以降、身体がどんどん男性化する」のような空想上の存在しない疾患を生み出す温床になってしまう。各疾患には典型的な症例というものが存在しているはずなのに、そこから切り離されて症状だけが何処までも一人歩きしてしまうからである。このようによりセンセーショナルになるように、各疾患の身体状態から非定型な部分だけを切り貼りした空想上の疾患を用いて「男女どちらでもないDSDs像」を意図的に作り出すことを、私は「疾患のパッチワーク」と呼んでいる

「生物学的性別がない人」や「両性具有」は不可能

 DSDs/ISは男性の疾患と女性の疾患に分かれており、一部には男女両方の症例が存在する疾患もあるが「生物学的な性別がどちらでもない」人や「身体性別グラデーション」「両性具有」は全ての疾患で存在しない。ヒトでは胎児期に①精巣決定遺伝子が発現し②精巣からアンドロゲンが産生され③産生されたアンドロゲンが身体に作用する、という3ステップを全て経た個体が生物学的に男性であり、そうでない個体は全て生物学的に女性であると言える。

つまり

if (sry  ==  pos  &&  t  ==  exist  &&  ar  ==  valid) {
   sex  =  male ;
} else {
   sex  =  female ;
}

である。

したがって「生物学的な性別がない」「70%女性」などという状態は存在しないのである。ヒトの個体は男性にならなければ女性なのだ。
女性ホルモンであるエストロゲンは男性ホルモンであるテストステロンからアロマターゼという酵素により変換されて作られており、男女問わず余剰テストステロンについてはエストロゲンへの変換が行われている。これは女性のDSDs/ISの一つであるアンドロゲン不応症(AIS)や、こちらは厳密にはDSDs/ISではないが、アロマターゼ過剰症(AEXS)を理解するには欠かせない知識である。AISでは使われないテストステロンがエストロゲンへと変換され、月経以外の女性の二次性徴の自然な発来を促すことができる。摘出すると性ホルモンが枯渇してしまうため、思春期までは停留精巣を残置しておくこともある。ただし停留精巣はがん化しやすいため、その後は摘出となる場合が多いと考えられる。AEXSとは通常限られた場所にしか存在しないはずのアロマターゼが全身で働いてしまい、テストステロンを片っ端からエストロゲンに変換してしまうため、テストステロンの産生が活発になる思春期以降の男性で重篤な女性化を引き起こす男性の疾患である。AEXSを原因とする女性化に対するテストステロン補充療法はエストロゲンを増やすばかりになり逆効果なため、治療にはアロマターゼ阻害薬を用いる。
DSDs/ISにはクラインフェルター症候群(KS)や5a還元酵素欠損症(5ARD)、XX男性など男性に特有の疾患とターナー症候群やロキタンスキー症候群(MRKH)、21水酸化酵素欠損症(21-OHD)(先天性副腎過形成症(CAH)の一種)などの女性に特有の疾患が存在しているアンドロゲン不応症も大半は完全型(CAIS)であるため、ほぼ女性特有の疾患であると言っても差し支えないだろう。また、ヒトの生殖器は相同器官である。つまり男性器も女性器も同じものから作られており、原基は1つしか持っていない。生殖結節が男性では陰茎や亀頭、女性では陰核となり、生殖隆起(陰唇陰嚢隆起)が男性では癒合して陰嚢に、女性では大陰唇になる。尿道ヒダは男性では癒合し陰茎皮膚に、女性では小陰唇になる。このため「両性具有」は存在できないのだ。なお、男性外性器の形成にはテストステロンをより強力にしたジヒドロテストステロン(DHT)が必要であり、5a還元酵素が欠損するとジヒドロテストステロンを作れなくなり、外性器形成不全の男児となる。
 何より「両性具有」や「半陰陽」はDSDs/IS当事者に向けて使うと差別用語となり、「自分を男と思いますか、女と思いますか?」などと性自認を問うことも差別的な問答として現在では行われなくなった。これはトランスの人々に対して生来性別の話を持ち出すような、実に酷い問答なのである。「インターセックス」については特に差別用語ではなく、広義の「インターセックス」(狭義では性別判定を要する症例のみ)に一応含まれるであろう私も、場面によっては用いることがある。しかし、和訳の「間性」は私の身体状態について的確に表していないと思っているため、基本的には用いない。昔の情報では「睾丸のあるターナー症候群」という驚愕の症例が「境界を生きる」という書籍に書いてあったりもするが、メディカルレビュー社の医学書籍では「男性化のある場合はターナー症候群ではない」と明確に書かれており、慶應義塾大学病院DSDセンターの長谷川奉延医師も「MGDとの区別は精巣の異形成の有無による」と私に回答している。要するに45X/46XYモザイクで精巣が認められる症例については、全てターナー症候群ではない

当事者の発言は無視されている

 一部の人々はDSDs/IS当事者から「DSDs差別を止めろ」「DSDsに言及するな」と指摘されても全く聞き入れず、「当事者以外はDSDsについて話すなというのは横暴だ」「言論統制だ」「要らないリプをつけるな」「ウザい」のように逆ギレするだけでは飽き足らず、当事者に内容の真偽について確認も取らないまま「信頼できるDSDsにまつわる情報」を勝手に広めている。そのような人々は大抵、我々DSDs/IS当事者が自らの経験を語ったり、経験に基づきポーザーの疑いについて指摘していると「疾患に対する認識が誤っている」「当事者は医師ではないので自分の病気を知らない」「他人の病気についてとやかく言うな」と平気で説教や「言論統制」をしてくるのだ。このような態度は「私達の方がDSDsや生物については勉強していて、DSDsの当事者よりも余程DSDsに詳しい」という自負や「当事者といえども無知である」という決めつけがあってこそだろう。実際に生物やDSDsの正確な知識を当事者以上に持っているのであればまだ理解もできるのだが、そうなのであればまかり間違っても「染色体に遺伝情報はない」などと頓珍漢なことは言い出さないはずである。これについては発言者に対して「では貴方の遺伝情報は何処にあるのですか?」と問いたいものである。染色体というのはDNAが棒状になったものであり、有糸分裂が起こるM期にのみ染色体として観察できる。このDNAのうち、遺伝情報を持つ部分について遺伝子と呼んでいる。つまり染色体とはDNAであり、DNAには遺伝子が含まれ、遺伝子とは遺伝情報のことである。
 DSDsは疾患毎の繋がりが全くないため、DSDs当事者でさえ他の疾患の情報を正確に得ることは難しい。当事者でもなく生物も知らない、Natureの記事を貼る度に「私は不適切な記述を見抜けません」と言って歩いているような人々が、本当に正しい知識を得ているのだろうか。DSDs専門医が主催しているZOOMウェビナーに申し込んで各疾患についての話を聞くなど、DSDsの正確な情報を得るための努力をした上で言及しているのだろうか。アライに限らずどのような立場の人であれ、偏見に基づく誤った情報を流布しても許される理由など存在しないのだ。そして恐らくそのような人々は自分のイデオロギーに都合の良い、古くて誤った情報やテレビや書籍、漫画、ドラマで取り上げられたセンセーショナルな話ばかりを聞きかじり、時には書いてある内容すらまともに理解できていないにも関わらず、何故か当事者よりも詳しくなった気になっているのだと私は推測する。NatureやNHK、AbemaTV、地方自治体に留まらず、DSDsとの関連が強いはずの小児科医でさえ差別的な古い知識しか持っていない場合もある。近所の一般的な内科で女性ホルモン値だけフォローアップを依頼したことがあったが、そのような検査結果は全く見た経験が無いようであった。なので私は現在、大学病院でのフォローアップに戻っている。このように医師であってもDSDsについては、専門医以外は案外と無知なのである。また、そこまで医師を信頼しているのであれば「医師が取り合わない」「医師は例外を学ばない」「日本の医療は杓子定規」などと医師を全否定してキレるポーザー仕草について、全く矛盾していると言えるだろう。とにかくDSDs/ISについての話は、全てにおいて当事者が不在なのだ。

アライの人々について思うこと

 基本的にトランスアライと呼ばれる人々は残念ながらダブルスタンダードであるように感じる。「被差別側に説明する義務はない」からと、女性スペース利用に関する建設的な議論や「誰が女子トイレに入るのか」といった疑問に対しての誠実な説明を頻繁に放棄しているようだが、ネクスDSDジャパンを含むDSDs/ISの当事者に対しては「分かるように説明しろ」「分かるまで説明しろ」「この症例はどう説明する」などと迫っていることはないだろうか。あるいは、要領を得ない問答を繰り返し吹っかけたりはしていないだろうか。私は最近あるアカウントから「この記事の内容は差別的なのか」「ではこの情報はどうなのか」と次々と高圧的に尋ねられ、まるでChatGPTであるかのような扱いを受けた。また、アライの人々はトランスジェンダー当事者の経験や言葉を奪うなと言っているようだが、我々DSDs/IS当事者の経験や言葉については平気で奪っていることは先に述べた通りである。
 「トランスが生きやすい社会は万人が生きやすい社会」だと考えているのか、我々DSDs/IS当事者以外にもLGBTムーブメントに反対しているGIDの当事者を含めて、その存在は無視されている、あるいは疎まれているのではないだろうか。誰一人取りこぼさないと言いつつ「トランスジェンダー」にしろ「インターセックス」にしろ、意向に沿わない当事者のことは綺麗さっぱり消しているように見受けられる。婦人科という女性診療科の名称を器官の名前にする方がより寛容であるという話もされたことがあるが、トランス男性やノンバイナリーで婦人科に通う必要のある人々が楽になること以外は、残念ながら眼中にないのだろうなとしか思えなかった。
 「女性とだけ言って「生理のある人」と言わなければ生理のあるDSDsの人々が取りこぼされる」「シス女性でない7名のうち、インターセックスなど出生時に割り当てられた性別が女性である人達」という、DSDs/IS女性を生来女性から分断する誤ったツイートも散見される。これは事実誤認であり、DSDs/IS女性の性別について「身体は男女どちらとも言えないが、社会的に女性として割り当てられた人々」などと勘違いしている証左である。シスジェンダーであるDSDs/ISの性別とは単純に生来性別のことであり、非DSDsと同じように「出生時に確認された性別」か、もしくは「出生時に検査された性別」のどちらかである。現在では非人道的な「割り当て」は最早行われていない。「出生時に割り当てられた性別」というアライが好む表現は、実際に非人道的な「割り当て」をされたDSDs/IS当事者からすると非常に好ましくないと言われている。ここでもDSDs/IS当事者の経験については、やはり眼中にないのだと考えるべきだろう。また、胃潰瘍など他の身体疾患において圧倒的にマジョリティであるシスジェンダーが占めているのと同じく、DSDs/ISのどの疾患においても圧倒的にマジョリティであるシスジェンダーが占めている。マジョリティなのだから多くて当然である。
 あからさまな女叩き系アカウントがアライに混じっていることも大いに問題があるのではないだろうか。これまでにそのような変なアカウントに何度か絡まれているが、「トランス女性の権利を男性の権利拡大として擁護する」ような、トランスライツですらない主張は真面目なアライの人々にとっても非常に迷惑なのではないか。あのような悪質なアカウントに絡まれるのは勘弁願いたい。

最後に

このようなTwitter上での一部のトランスアライの振る舞いについて、最近は目に余るので文章でも書いておいた。しかし私自身はフェミニストではなく、「多様な性や性自認など存在しない」などと主張している人間でもない。性自認、性的指向、性表現のグラデーションについては何の異論もない。同性愛者にもトランスジェンダーにも特に嫌悪感はない。人柄の方が余程重要である。誰かの性自認にいちゃもんをつけたいわけでもなく、性自認を架空のものだと主張している人でもない。人格が踏み躙られる感覚は性別の話では理解できないが、年齢の話に置き換えれば理解できる。私は大人であるにも関わらず、低身長のせいで常に子供としてミスエイジングされているからだ。おまけにSRSとは異なり骨延長手術は実生活に耐えられるものではなく、未だ現実的ではない。ただこのような仕打ちが続けば、やがては「トランスジェンダー」と聞くと嫌な印象に変わっていってしまうのかもしれない。私としても、そのような事態は決して望んではいないのだ。

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