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【横溝正史館】金田一耕助を生んだ書斎

はじめに

 笛吹川フルーツ公園の奥にひっそりとたたずむ移築民家が横溝正史館です。笛吹川フルーツ公園は山梨市の小高い山の中腹にある人気の観光スポットです。盆地を見渡す夜景は新日本三大夜景として有名です。また「ゆるキャン△」にも登場したことでアニメファンからも知られるスポットになりました。

移築された横溝正史の書斎

横溝正史の書斎

 横溝正史(1902年~1981年、明治35年~昭和56年)は、言わずと知れた推理小説作家で、金田一耕助が活躍する作品を次々と世に送り出しました。この横溝正史館は、世田谷区成城にあった氏の自宅のうち書斎であった離れを移築したものです。

山梨とのつながり

 ではなぜこの場所に書斎が移築されているのでしょう。
 氏が亡くなり、その後老朽化のために書斎が取り壊されると聞いた神保町の三茶書房の店主幡野武夫氏(山梨市出身)が山梨市移築を打診したところ市長がすぐに検討し、移築が決定したものです。
 そのようないきさつのから、氏と山梨市を結びつける接点は非常に希薄です。それでも、氏が諏訪で結核の療養をする際に乗り物酔いがひどく、日下部駅(現山梨市駅、1962年に改称)で下車し笛吹川のほとりで休息したとのエピソードが残っています。

館内の年表には赤線が

玄関

 横溝正史館は土日、祝日のみの開館です。閉館時間は15時と見学施設にしては短か目です。
 横引きの扉を開けると来客を知らせるためでしょうか「チリンチリン」と鈴の音がします。玄関に小さな券売機があって、入館料(100円)を払うシステムになっているのが面白いです。

新500円硬貨は使えなさそう

書斎

 靴を脱いで上がるとすぐの部屋が書斎です。机がありますが、原稿を書いていた机は倉敷の横溝正史疎開宅にあるそうです。こちらの机は客間にあったものをそれらしく置いているそうです。また、部屋には乱歩が送ったという額が掛けてあります。

横溝先生の机と写真パネル
乱歩の額、のちに複製品と分かったとか

 また、市川崑監督、石坂浩二主演の映画「悪魔の手毬唄」(1977年公開)は、山梨県甲斐市の山間部の集落がロケ地だったそうで、関係する写真などが紹介してあります。

「悪魔の手毬唄」ロケ当時の写真

 雑誌や著作などが手に取れますが、「悪魔の手毬唄」連載第1回の載った雑誌「宝石」がありました。

「宝石」昭和32年8月号

 縁側の隅の本棚には著作の文庫本がびっしりとあります。

角川文庫は杉本一文氏の表紙です

 同じ山梨市の根津記念館にて杉本一文氏のサインを見つけました。

根津記念館にて

火鉢の間

 隣の部屋には火鉢が置かれています。編集者の待機部屋だったそうです。廊下へ出る襖の下に穴が開いているのですが、猫のための入り口だとか。この先の廊下がかつて母屋とつながっていたそうです。

廊下に出て裏の書庫へ続きます

 ふと気づいたのですが、この建物の中の電灯はすべて古い形の電球が使われておりました。

電球にもちゃんとこだわりが

書庫の間

 奥の板の間はもともとは書庫だった場所で、この建物とともに寄贈された自筆の原稿や映画作品のポスターなどを展示しています。
 旧国鉄がタイアップで作ったポスターや記念切符などもあります。

資料保存のためこの部屋のみエアコン設置
謎の骨格に論理の肉付けをして浪漫の衣を着せましょう
伯備線備中高梁駅、1977年(昭和52年)発行、八つ墓村入場券

悪魔の手毬唄

 映画「悪魔の手毬唄」のロケ地は甲斐市の山間部の集落だったと前述しましたが、書庫の間には、ミニアルバムがあり「亀の湯」のおかみ役の岸千恵子さんとその家の奥様のツーショット写真なども見ることができます。
 筆者は「悪魔の手毬唄」をあとから動画配信で見ました。ぶどう畑のシーンなど随所に山梨の風景がありました。製作から40年以上経ち、当時のロケ先のご夫婦は亡くなりましたが、「亀の湯」の建物はいまも健在のようです。

横溝正史と竹中英太郎

 横溝正史と関わりのある山梨の人物として竹中英太郎(1906年~1988年、明治39年~昭和63年)がいます。横溝正史が編集長をしていた雑誌「新青年」にて、江戸川乱歩の「陰獣」の挿絵を担当したのが竹中英太郎です。横溝作品では「鬼火」の挿絵を描いています。竹中英太郎は戦時中甲府に疎開し、その後は亡くなるまで甲府で暮らしました。
 甲府市の湯村温泉郷の入り口に竹中英太郎記念館があります。自宅の一部を記念館として公開しているものです。竹中記念館は横溝正史館とはまったく違った雰囲気で絵の鑑賞ができるところです。そちらは、私設の資料館で館長さんがお一人で対応されているため見学には事前連絡が必要になります。

竹中英太郎記念館のチラシ

おわりに

 以上、横溝正史館を紹介しました。外から建物を撮影したり、中の様子を伺う人は多いものの入館するそのうちの半分もいないでしょうか。横溝ファンには著名な資料館ではありますが、作家の記念館や移築民家における集客の難しいところです。
 筆者は「獄門島」「八つ墓村」「犬神家の一族」しか読んでいなかったのですが、「悪魔の手毬唄」のロケ地と知り読了し、さらにほかの金田一シリーズを少しずつ読み進めているところです。


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