関西電力送配電の東海北陸系統について

はじめに

 いきなりプライベートな話ですが、かつての住処の近くや行動範囲内には飛騨旧幹線・新幹線も丸山幹線も関西幹線もありました。中部電力のグリッドもあります。土地勘のある方ならどの辺に住んでいたか、なんとなく想像がつくかと思います。ただし当時は鉄塔やら送電線にはまるで興味がなかったのです。
 家の近所を歩いてても「ふーん、なんでこんなところに関電の鉄塔があるんだろう」とか、木曽谷を車で走っていても「なんで関電の発電所ばっかりやねん」ぐらいなもので、それ以上の興味も関心もなかったのです。高山から安房峠を通って松本方面にも何度か抜けたことがあるのですが、途中に東京電力の看板のついたダムがいくつかあっても「なんで長野の山奥に東京電力のダムがあるんだよ」ぐらいの関心しかなく、それ以上掘り下げることもなかったのです。今では気軽に行けないところに住んでいるので本当に残念なことをしたと思っています。

一般送配電事業者とは

 かつて地域別に独占営業していた電力会社は、まず発電と小売が段階的に自由化され、送配電を行う部分だけが電力会社から法的分離され(沖縄は除く)、この分離された会社は電力の輸送専門会社とも言える「一般送配電事業者」になりました。様々な発電事業者や小売事業者と平等にお付き合いするため措置ですね。それと発電と小売が地域独占ではないので、そのエリアの需要と供給のバランスを誰かが取りまとめて制御しなければならずその役割も担っています。
 一般送配電事業者は全国に10社あり、沖縄を除けば〇〇電力パワーグリッドとか〇〇電力送配電とか〇〇電力ネットワークという名前になっています。そしてその供給区域は地域独占です。
 供給区域は地域独占ですが、送変電設備は供給区域外にある親会社の発電所から供給区域を結んでいることもあります。例えば供給区域外の新潟に原発を持っている東京電力ホールディングスの場合、子会社である東京電力パワーグリッドが、新潟から関東まで長大な送電線を運営しています。

関西電力の場合

 歴史的な経緯から中部電力パワーグリッド・北陸電力送配電の供給区域に関西電力送配電の送変電設備がたくさんあります。これは関西電力が中部地方の山岳地帯に水力発電所を多く持っているためで、長野・岐阜・愛知・三重・富山・石川・福井にグリッドを構築してはるばる関西方面まで輸送しているのです。

いまになって興味が出てきた

 そうなんです。あの頃まるで興味なかった東海北陸エリアにある関電のグリッドに興味が出てしまったのです。公開されている系統図や諸先輩方の各種情報やGoogleの衛星写真やストリートビューを眺めているだけでは物足りず、3年程前から送電線のルートをGoogleマイマップにまとめています。そして世の中には同じことをしている人が結構いるようで、例えばこの方が公開しているのは有名ですね。

関電の東海北陸系統は何がすごいか

・供給区域外だから当然だけどこのエリア内に直接連系する需要家がいない
・発電所は関西幹線に連系する杉野沢太陽光と飛騨新幹線に連系が予定されているLOHAS ECE SPAIN GIFUだけが例外で、他は全部水力

 この2つに尽きるのですよ。揚水式の水力発電所も2つ連系されているけど、関開閉所でつながっている電源開発長野発電所は潮流実績を見る限り中部系統の専属のような感じだし、三尾発電所は規模が小さい。とにかくこの系統で生み出された電気は使われることがなくほぼすべてが関西方面と中部電力パワーグリッド・北陸電力送配電に流れていってしまうのです。

気になる動き

 このエリアのグリッドに関して、最近二度ほど界隈がざわつく出来事がありました。ひとつは2022年3月に発表された北陸幹線および南福光連系所における設備形成の最適化、もうひとつは2023年6月に発表された関西幹線の設備形成の最適化の公表です。
 北陸幹線の方は2028年度に160kmほどを廃止して、残存区間を北陸電力送配電の電力系統に接続して運用するとあります。北陸幹線の成出線との合流点から滋賀県の高島変電所の間が大体170kmぐらいなのでこの区間を除却し、北陸幹線の笹津開閉所から成出線分岐点付近の部分は北陸エリアに接続することになるようです。
 なお、途中の福井県内の関西系統には松岡開閉所と市荒川発電所とをつなぐ154kV市荒川線があるのですが、うまいこと北陸の154kV九頭竜幹線と交差しているところがあるので、この交差ポイントから西側を除却し東側は北陸電力送配電に譲渡するのではないでしょうか。

ちょうどよく九頭竜幹線があった

 関西幹線の方は2028年度に140kmを廃止して、関西系統と中部エリアを結ぶ設備を新設するとあります。犬山開閉所から新奈良変電所の間が大体140kmなのでここを除却しつつ、残存区間を中部電力パワーグリッドの電力系統に接続して運用するとのことです。送電線の容量とかのことを考えず素人目でみれば犬山開閉所の300mほど南側に中部の154kV犬山川辺線が通っているのでそこにつなげてしまうのが手っ取り早そうです。

これは手っ取り早そう

 道路の場合は細道や山の中の峠道中で重要なところは拡幅され、場合によっては国道化されたり高速道路になったりしてどんどん安全性と効率を上げるように投資されます。送電線も同じで重要なところは電圧を上げ電線数や回線数も増やしたりします。そして経済合理性の低い設備は除却されてしまいます。一連の発表内容は老朽設備をそのままリプレイスするのではなく、よそ様にお任せできるところはお任せし古い設備は除却して最適化・スリム化しましょうということです。となると、他にもお任せできるところがあるのではないかが、マニア的には気になるポイントです。

他にお任せできるところはないか?

 そんなことをうっすら考えていた最中、2023年12月28日に電力広域的運営推進機関から一本のプレスリリースがありました。内容としては中部関西間の地域間連系線をもう1系統増やす場合の費用負担の方向性を示したものです。これを見た瞬間に頭に浮かんだのは「北陸・東海地区にある関電の154kV送電線の除却が一気に進むのではないか」ということです。だってこの一本で運用容量が300万kw(3,000MW)も拡大するんですよ。

 154kVよりも上位系統で中部と関西を結ぶぶっとい送電線が増えるなら、いま使っている154kVの細っそい送電線は極力短くして電圧上げてぶっとい方を通せばいいじゃないか、という単純発想です。私は電気工学など勉強したことはなく、専門的なことはさっぱりわからないただのマニアです。その点はご容赦ください。あくまでも素人考えですが、濃尾平野の外周にはめちゃくちゃぶっとい送電線が環状に2本通っています。木曽谷や飛騨方面でできた電気を154kVでヘロヘロと関西に向けて流しているなら、さっさと電圧上げて500kV送電線に載せてしまった方が効率がよいはずです。そしてこの発表の通り、中部関西間の地域間連系線が2030年代にはもう一本増えそうです。これはチャンスです。
 ではどうやってお任せできそうなルートを探すか、ですが、瞬間的に思いついたのが一般送配電事業者が公表している系統図に潮流実績を書き込んでみれば、普段大して電気の流れていないところがどこかがわかるよなぁ、、、そんな電気の流れてない送電線は捨てちゃうんじゃない?ぐらいのこれまた単純発想です。

計画潮流から系統構成を作ってみる

 電気は川の流れのように高いところから低いところにダバダバと流れているそうです。そしてこの国では、ある時間にどこをどれだけ電気が流れているかの実績を見ることができるようになっていますし、どこをどれだけ流すかはある程度事前に決めていて、これも事前に公表されています。
 潮流はみんながエアコンを使って大量の電気を消費する夏と、春秋のようにエアコンを使わない時期では流れ方が違いそうです。なので、今回はまず関電の東海北陸系統の系統図を作ってみて、そこに計画潮流を書き込んでみることにしました。
 一般送配電事業者は、ある年(1年目)と5年目の重負荷期(だいたい8月、北海道と東北は冬季)の系統構成と予想潮流を公表していて、グリッドの中を大量の電気が流れる時期にどこをどれだけ流れるか、ということがわかるようになっています。
 本来は回線別に作るのが正しいでしょうし、変電所や開閉所では母線のどこが開放されているかとかもわかるようにしなけれなならないのでしょうけど、そこまでの情報は公開されていないので想像の範囲が多く、そもそも素人が作っているものですので間違いだらけだと思います。そこはご笑納ください(予防線)。

Macのフリーボードで作ってみた系統構成・予想潮流の図 20時間くらいかかった

 この画像は、2021年8月の重負荷期の予想潮流を図にしたものです。黒部川の大規模水力からの電力を大阪方面に向かって流す大黒部幹線は649MWと堂々たる計画です。それに対して丸山幹線はその半分以下の318MWで、なんとなくまだ余裕がありそうです。そして大半の除却が発表された北陸幹線は、周りの154kVと比較しても大した電力を流すわけではなく、同時期に除却される関西幹線の犬山開閉所以西の3分の1程度です。他に興味深いのは、
・新柳河原・黒薙第二・新黒薙第二・宇奈月の各発電所からの電力は新愛本変電所を通るものの、新北陸幹線には載らずそのまま笹津開閉所に向かっていそう
・新北陸幹線は成出以北が大黒部幹線へ、成出以南は栗東へ向かう潮流になっている
あたりです。

実績潮流を載せてみる

 ここまでは計画潮流でしたが、実際の潮流で見てみることにしました。この資料によると関西エリアの2021年の最大需要発生は8月5日(木)14時です。

 東京電力パワーグリッドは154kV以上(一部は66kVもあり)の潮流実績を載せた実績系統図を掲載しているのですが、関西電力送配電は各区間の数値だけ掲載しいるので自分で作るしかありませんので作ってみました。
・・・が、いまいちしっくりこないのです。作ってみたけどいまいち盛り上がりに欠けるのです。須原松島線は御岳・木曽谷方面から松島の方に123MWほど流れていたのですが、何というか計画潮流と見比べてみても全体に本気で水力が回ってない感じがしたのです。作成途中で気づいたのですが、14時が最大需要だとしても太陽光ががんばってるので水力は出力絞ってるんじゃないかと頭に浮かんだのです。

東海北陸系統の水力はいつ本気で回っているのか?

 関電の東海北陸系統の特徴の一つは「供給区域外だから当然だけどこのエリア内に直接連系する需要家がいない」です。このグリッドの中でできた電気は基本的に「関西に流れる」「須原松島線から中部電力パワーグリッドに流れる」「城端開閉所・新愛本変電所から北陸電力送配電に流れる」の3つしかないのです。
 電源開発長野発電所の揚水に使われることもあるかもしれませんが、最初の方に書いた通り中部専属のような潮流です。また賤母発電所と今渡発電所は中部の77kV系統とも連系していますが、所詮77kVですので仮に送電されたとしても全体を左右するような大した量ではないでしょう。
 問題は北陸系統ですが、限られた範囲をざっとみた感じ100MWちょっとがやり取りされているように見えます。ただこれも継続性があまりないというか時々発生しているというレベルです。見方が悪いのかもしれません。ですが、今回は面倒なので考慮しないとします。
 よってこの関電東海北陸系統から275kVの大黒部幹線・新北陸幹線・丸山幹線、154kVの北陸幹線・東海幹線・美濃幹線・関西幹線・須原松島線を介して流出した電力をカウントすることにしました。

東海北陸系統から流出した電力 単位はMW

 2021年度に東海北陸系統の水力が一番がんばったのは5月28日23時のようです。真夏の昼ピーク(2021年8月5日14時)は太陽光ががんばりつつ、関電は原発が動いているので東海北陸系統の水力はのんびり稼働しているようです。一方で中間期の夜間は原発がベースを供給し、火力を絞って水力で調整してるってことなのでしょう。この時間帯、太陽光は役立たずです。

2021年5月28日23時の実績潮流

 はい、ということで、実績潮流図らしきものです。素人作成なので完全に間違ってるかもしれません。間違っていたらお知らせください。

2021年5月28日23時の実績潮流図らしきもの

次の最適化の対象はどこ?

 計画潮流・実績潮流を眺めてると、飛騨旧幹線・飛騨新幹線のそれぞれ一部区間と、東海幹線・美濃幹線の少なくとも岐阜県内区間は次の最適化の対象になるのではないでしょうか。たとえば、飛騨新旧幹線から関西方面への210MWほどの潮流は北陸まわりで輸送する、そのために「北陸地方にある関西系統と北陸エリアの連系を増強、あるいは設備の新設」を行う…というシナリオです。具体名をあげると、飛騨旧幹線は角川支線との合流点よりも南側、飛騨新幹線は滝越小坂線との合流点以南、そして北方開閉所よりも西側部分をバッサリやるんじゃないかと考えています。
 もうひとつ、木曽幹線の読書支線合流点から犬山寄りがどうなるかです。木曽川沿いに中部の154kV送電線は犬山から瑞浪の間にしかありません。木曽幹線・関西幹線を今後引き続き関電が運営するのか、中部に譲渡するのか、木曽谷の潮流は須原大井線〜関西幹線を経由して丸山発電所から丸山幹線に、あるいは変電所を新設して木曽谷を横断する2本の500kVのどちらかに載せてしまうのかが見ものです。最近、木曽幹線の読書支線から須原寄りの区間を須原大井線に併架させるための工事をやっているらしいですが、これら一連の流れによるものなのかもしれません。


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