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2022年12月の記事一覧

第三話「黄昏に生きる」

第三話「黄昏に生きる」

10月の初旬。
貸し会議室の一角でオーディションの準備が進められていた。
『上京少女プロジェクト』と書かれた映像がスクリーンに投影されている。
定期的にDiscordで打ち合わせをしていたが、細かい段取りは尾崎達が進めていたらしい。
普段どんな仕事をしているのかは謎だったが、自分が専業になると決めたら質問しようと安川は考えていた。

「まずは、段取りについて。年内にメンバーを選出したいと思っている

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第二話「資産も子孫もないんだよ」

第二話「資産も子孫もないんだよ」

9月の初旬。
3人は、キャンプ場に来ていた。
もちろんアウトドア目的ではない。

「よし、家からグッズは持ってきたな」
尾崎が明るい声で呼びかける。
「ダンボール10箱くらいになりましたが、持ってきましたよ」
安川が答える。
荷造りには丸一日かかってしまった。

そう、後顧の憂いを断つために『ミコミコ★ナース』のグッズを燃すのだ。
アイドルを作るものが過去の遺物に囚われてはならない。
そう言い出し

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ジャンププラス原作大賞『ホープレス中高年と、凍狂奇譚』あらすじ

ジャンププラス原作大賞『ホープレス中高年と、凍狂奇譚』あらすじ

アイドルの推し活に燃える安川康彦(30)。
生活の殆どをファン活動に捧げている彼だったが、武道館ライブを前に、グループは解散を宣言する。
解散ライブが終わり、失意の中で帰路につく安川。
スマフォのニュースで解散の真実は、自分の推しメンの轢き逃げ事故だと知る。運転者は彼氏でルックスが売りの人気YouTuber。
わずか1日で希望を失った安川は、歩道橋から身投げすることを決意するが、
ダイブする直前に

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第一話「推しが死んだ夜に」

第一話「推しが死んだ夜に」

「推しが死んだ」
夏の終わりが見える、8月のことだ。
安川康彦(30)は、夢遊病患者のように歩道橋の上を彷徨っていた。
熱中症で頭をやられたわけではない。
彼の推しグループである『ミコミコ★ナース』が解散宣言をしたのだ。
しかも、武道館ライブを前にしたタイミングで。

理由はシンプルだった。
メンバーの1人が轢き逃げ事故を起こしたのだ。
安川の推しメンである大野小町(22)が。
問題は、運転者がル

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